第34話 体調復活
お皿を片付けると、春輝は紗良の部屋に戻った。
「戻ったよ」
「兄さん、戻って来てくれたんですね」
「もちろんだよ。さあ、おやすみ」
春輝は、紗良の頭を撫でた。
「また、手を握っていてもらえませんか?」
紗良が手を差し伸べてきた。
「いいよ。握っているから。ゆっくり休みなね」
春輝は、紗良の手を握って、その場に腰を下ろした。
「はい、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
そう言うと、紗良は目を閉じた。
そして、数分後、紗良は可愛い寝息をたてていた。
「さて、寝たみたいだな。しかし、ここから動けないもんなぁ」
春輝の手は、紗良に、しっかりと握られている。
無理に離れようとでもしたら、紗良を起こしてしまうかもしれない。
せっかく、眠っているのに、それは可哀想である。
「ふぁぁぁぁ。俺も眠くなって来たな」
そう言って、春輝は大きなあくびをした。
「ちょっと寝かせてもらおうかな」
春輝は、そのまま、紗良のベッドに突っ伏した。
紗良の匂いを鼻腔に感じながらも、やがて、意識を手放した。
翌朝、窓から入る光で目を覚ました。
「んんん……」
どうやら、紗良も目を覚ましたようであった。
「おはよう」
「へっ、あ、はい、おはようございます」
紗良はびっくりしたような表情をした。
「体調はどう?」
「は、はい、だいぶ良くなったと思います。それより、ごめんなさい。私、ずっと手を握ってました?」
「ああ、気にしなくていいよ。俺も寝かせてもらっちゃったし」
紗良は、体調を崩してもいつも一人だった。
母子家庭ということで、母親は仕事仕事で、家には帰って来れない日が多かった。
寂しくても、寂しいと言えないほど、紗良は甘え方を忘れてしまっていた。
でも、春輝と出会い、時を重ねるうちに、それも、少しずつだが、変わっていったのだ。
いまでは、春輝にだけは素直に甘えられると言っても過言ではない。
「うん、熱はだいぶ下がったみたいだね」
春輝は、紗良のおでこに手を当てて言った。
「は、はい」
「まあ、一応計ってみて」
そう言って体温計を渡した。
ピピピと音をたてた体温計には36.8℃と表示されていた。
「うん、熱は下がったみたいだ。でも、今日も一応、安静にしておくんだよ」
「はい、分かりました」
そう言って紗良は、微笑みを浮かべた。
「ねぇ、兄さん」
「ん? 何?」
「大好きです……」
紗良は、布団で顔を半分隠しながら言った。
それには、思わず、春輝も顔を赤くしてしまった。
「あ、ありがとう。これからもよろしく」
「はい!」
紗良は、まさしく、太陽としか表現できないような、満面の笑みを浮かべた。
日差しに照らされたその笑顔は、とても美しかった。
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