真夏の夜のできごと
真夏の夜の公園。
街灯の明かりが、ブランコなどの遊具をうっすらと浮かび上がらせていた。
人の姿は見えない。
十時過ぎ。
若い女性が公園に入ってきた。
一人である。
これが近道なのだろう、女は公園の中央をまっすぐ速足で進んだ。
会社帰りのOLに見える。きちんとした身なりにハンドバッグを下げていた。
そのときである。
すべり台の陰から男が飛び出して、歩いている女の前に走り寄った。
女が男を前に立ちすくむ。
夏だというのに、男は目出し帽にロングコート姿であった。
――なんだアイツは……。
まったくもって怪しい。
オレから見られているとも知らず、男はそこで堂々とハレンチなことをやった。コートの前をつかみ、それを左右に一気に広げたのだ。
「きゃあー」
女が悲鳴をあげ、ひっくり返るようにその場で尻もちをついた。
その女の前では、男が行く手をふさぐように立っている。コートの前は開いたままだ。
女の顔は引きつっていた。そして恐怖で体が固まっているのだろう。少しも動けないでいる。
――助けなきゃ!
オレは立ち上がろうとした。
だが、すぐに待てよと思いとどまる。今のオレは動こうにもここを動けないのだ。
――すまん……。
オレは心の内で女に詫びた。
変態男がヘラヘラと笑っている。
――くそー!
はがゆいが、この場でじっと見ているしかない。
そのときだった。
「どうされたんですかー」
悲鳴を聞きつけたのか道路から声がして、三人の男が公園内にかけつけてきた。
コートの男があわてふためいて逃走する。
女は難を逃れた。
――よかったな。
オレは心の中で女に声をかけた。
この時期。
目出し帽にロングコートはさすがに暑い。
木立の茂みの陰。
下には何も身に着けていないというのに、オレは汗だくだくになっていた。