ダンジョン
「なぁ婆ちゃん、俺たちダンジョンで出会ったんだぜ」
幸せそうな顔をして青年は話す。
ララはそれを聞いて少し表情が曇る。
なぜなら、ダンジョン、それはお母さんの死んだところだから。
お母さんは5年前にダンジョンへミッションに行って、そっから一生帰ってこなくなっちゃった。
何年かいろんな人が探してくれたけど、結局見つからずじまい。もう死んだんだと思う。
私も、まだお母さんが生きているなんて妄想はしていない。
もう、していない。
でも、ダンジョンと聞くとすこし胸が痛む。そんな思い出があるところだから。
「おれが傷ついて動けなくなってるところに、こいつが助けに来てくれたんだ」
横にいる女は照れた様子で笑った。
幸せそう。
今の私には少し刺激が強い光景かなぁ。
今すぐこの場を離れたい。でも、帰ったところで何もない。
ララは思った。
ダンジョンであの2人は恋愛感情になったんだと。
確か聞いたことがある。
男女が極限状態を共有すると、恋愛感情になりやすいと。
生死を彷徨うドキドキ感が、恋愛のドキドキ感情だと脳が錯覚し、恋愛感情になるという話。
いわゆる、吊り橋効果。
あのカップルもおそらくそうだったのだろう。
『吊り橋効果』
ありかもしれない。いや、かなりアリかも。
ララの中だ何か確信めいたものが生まれた瞬間であった。
吊り橋効果!!これで私も恋愛感情になれる!真実の愛が見つかるかもしれない!
ララの行き先は決まった。爺やが待つ家でもなく、パーラーのもとでもない。
ちょっと1時間前までは、そこはどちらかというと恐怖の対象でしかなかったのだけど。
ダンジョンに行こう。
吊り橋効果で私も恋愛感情になるんだ。
ララはお墓に向かって言った。
「私、ダンジョンに行くことにする!お母さんに会えるかもね」
ララは緑の芝生の上をかけた。
途中であのカップルと目があった。
軽く会釈をして、心の中でお礼を言った。
彼らのおかげで、ララに目標ができたからだ。パーラーに振られて振り出しに戻った人生が、何故だか今は輝いて見える。
ダンジョンに恋愛感情になろうとして挑む人が過去に私以外にいるのかしら。
ララは考えた。
ダンジョンのミッションをクリアし功績を挙げることができれば王から表彰され社会的地位や金が手に入るのだ。
簡単に言えば、貴族ランキングも上がる。
おそらくパーラーも参加するのだろう。
しかし、ダンジョンに参加するためには行く必要のある場所があった。
ララはそこに向かって足を動かし続けた。