仇討ちの訴え
「仇討ちの決闘を認めて欲しい?」
目の前の年端も行かぬ少女の願いは、納得だが、突拍子も無いものだった。いや、決闘は王では解決できない問題やいさかいの解決手段として貴族に与えられた権利ではあるし、仇討ちというのも、特に伯より下の軍人貴族にとっては半ば義務のように存続しているものだ。しかし…、目の前の剣すら握ったことがないような、たおやか、とでも形容すべき少女が言い出すのは少し予想外だった。
「コトがコトだけに陛下もお怒りでねぇ…、そういう『名誉』を形式だけでも与えるのすら難しいかもしれないけど…」
「構いません、私は、父と母の仇を、愛すべき民を辱しめたあの男を許せないのです」
決闘では貴族として死ぬ事になってしまう。それは上が望んでいないので、難しい。まぁ、確かに断頭台の露と消えるとか、晒し者にするより、この、『血縁の少女』に殺される方が当のアレは有効活用できるだろう。お涙頂戴の小話は事欠かないし、決闘は女人禁制の為、こういう場合代理人が付くのだが。この美貌だ。英雄志望の代理人には事欠かないだろう。適当なロマンスでもあれば演劇や詩になりさらに広まるかもしれない。…こういうのは好みではないが、仮に実現したら警衛局の元上司や、情報局の末成り辺りが嬉々として工作に勤しむだろうし、王立劇場のおぞましいナニかは悶えながら脚本を製作するだろう。…ただの警衛局職員だったはずなのになんでこんな奇異な人脈持ってるんだろう…。
「…一応、伝を辿ってはみるが…、期待はしないで欲しい。それに、君みたいな娘にあまり血生臭い真似はして欲しくない。僕も君の父上には世話になっているんだ。こう言ってはなんだけど、若造なりに君の保護を申し出た責任もある」
「それは…わかっています」
やりきれない顔でそう呟いて退出する娘の背中を見ながら、どうしてこんなことになった。と顔をしかめた。
事の始まりは、フィングルス男爵夫妻の事故死である。落石により、馬車ごと潰され。フィングルス男爵には跡継ぎがおらず、一人娘も成人前であったため、叔父が繋ぎとして継承、ところがこの叔父、公金横領をやらかしてくれた。丁度街道整備の大事業で付近の領主達多数に工事割り当てが為され、金も投入されている為に管理が御座なりになっていたという問題もあったが、だからといって反王権主義者達に金が流れている…というか叔父自体がそうであったらしく、情報局主体で警衛局がそこらじゅう駆けずり回ることになり芋づる式に幾つか組織を壊滅させることができた。当然というかフィングルス男爵夫妻の事故も叔父の仕業であり、まぁ、軽く見積もっても公開処刑の上晒し首位の罪を叔父は犯していた訳だ。この一件で仕方がないとは言え、このような醜聞の広まったフィングルス男爵家は貴族籍を剥奪、フィングルス男爵領は、前警衛局長の息子であり、この一件で功績をあげたグルハルト子爵が封じられ、周辺の天領をいくらか加えた新領地として再興することになった。ここで割りを食ったのがフィングルス男爵令嬢、リーゼマリーだ。叔父のせいでお家は取り潰し、貴族で無くなったためまとまりかけていた婚約はお流れ(妾としてという打診もあったらしいが、拒否)、領民からは同情こそされるも、公金横領の上搾取されていた彼らに人助けする余裕はなかった。そこで手を差し伸べたのが、王室とグルハルト子爵だった。王室はリーゼマリーに男爵相当の年金を支給、さらに、将来産まれるであろう子供に対してフィングルス男爵の継承を認めた。領地こそ都合されなかったが、破格と言っていい対応である。グルハルト子爵はリーゼマリーに旧フィングルス男爵邸を与え、家庭教師や使用人を都合している。どこから探してきたのか知らないが叔父に解雇されたはずのリーゼマリーに馴染みのある使用人だ。グルハルト子爵は23歳と年若いとはいえ成人直後に継承し、8年、警衛局員としてそれなりの功績を立ててきた男である。蓄えもあり、政治手腕も確かなので、一人の令嬢が貴族令嬢らしい慎ましい生活を営む世話をするくらいは問題なかった。
まぁ、そのグルハルト子爵というのは僕なのだが。
「はぁ…、まぁ、見誤っていた、というか侮っていたってところかなぁ…」
かよわい女性。そうとしか思っていなかったが、彼女だって貴族だし、騎士の家系の子どもだ。成る程、確かにジェラルドさんの娘なんだな。
「代理人…うーん…、適度に人気のある剣士の知り合いは一杯いるし、これを期に彼女の婿も決めちまうか?…まぁ、その辺も加味すると…、歳は…。いやそれ含めて本書きは上に任せた方がいいかなぁ…」
というか、まぁ、最低限従士として使い物になる人が欲しいので、その辺の利害調整も含めて人選は丸投げかなぁ…。
なんにせよ、まずは話を上にあげないと
と思い、グルハルト子爵、レオン・フォン・グルハルトは手紙を認めるのであった。




