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第98話 獣人社会

 時は少し戻る。探偵業を営む青年、斑鳩川(いかるがわ) (ひょう)。依頼者は、未成年の少年、萱島(かやしま) 城陽(じょうよう)。依頼内容は、行方が分からない柴垣(しばがき) 欣一(きんいち)の捜索。報酬については、要相談となった。流石に、未成年からお金を巻き上げるのは忍びない。しかし、仕事であるからして、何らかの報酬は頂く。

 依頼者の城陽君から話を聞くと、自分は鼻がきくから居場所がわかると答えた。獣人であり、嗅覚が人間との比較にならないほど効くらしい。そこで、捜索費用はとらずに、同行することで依頼を受けることにした。

 そして、伴野(ばんの) (たがや)という人物の所有する建物に行き着いた。城陽君によると、この建物にいるらしい。


 そこから、特課の悠夏と鐃警が加わった。伴野がすでに死亡していることは、非公表のため、2人とも口にしない。

 飃は、インターフォンを鳴らす。音が反響するが、誰も出てこない。もう一度インターフォンを鳴らす。すると、家の中で何かが落ちる音が。階段から、何かが転げ落ちるような音だ。

 不審に思い、玄関の引き戸に手を伸ばす。しかし、鍵が掛かっている。両開きのため、もう片方にも手を伸ばす。

「開いた」

 声に出たのは、鐃警だった。どうやら、片方には施錠していなかったようだ。引き戸を目一杯開くと、廊下の先に階段が見えた。その階段の下に、横たわるようにして……

「欣一君!?」

 城陽は、玄関で靴を乱暴に脱ぎ、階段の方へと急ぐ。飃は、建物内に別の人物がいる危険性を考え、すぐに城陽のあとを追う。悠夏もそれに続き、鐃警は

「入り口は任せて下さい」

 と、その場に残る。犯人が戻ってくる危険性もある。

 城陽君のことは飃に任せ、悠夏は廊下から繋がる各部屋を巡回する。どの部屋も照明は点いておらず、人影も見当たらない。

 飃は、横たわった欣一を束縛する紐を解き、健康状態を確認する。

「大丈夫か? 意識はあるか?」

「うん……」

 弱々しい声で、衰弱している。すぐさま、携帯電話で救急車を呼ぶ。


    *


 京都府警の山科(やましな)警部が現場に到着すると、すでに救急隊員が到着していた。大阪府警の八尾(やお)巡査が、規制線を張っており、出迎えた。

 事件は、欣一君の証言で大きく動く。悠夏は事件の経過を倉知(くらち)副総監へ報告する。鑑識が到着し、建物内の捜査を行うため、お邪魔にならないように、悠夏と鐃警は一度規制線の外へ出る。

 建物周辺に野次馬はおらず、京都府警の捜査員が近所のお宅へ訪問して、聞き込みをしている。人通りが少ないというよりも、ゼロだ。警察官しかいない。

「警部。最新の情報です」

 悠夏は、大阪府警と京都府警、奈良県警、それぞれの状況報告をまとめて

「先程、大阪府警からの連絡で、夏枝(なつえ)さんを殺人容疑で逮捕したそうです。奈良県警の鑑識からの報告で、伴野さんの事件現場から夏枝さんの指紋が出たそうです。凶器として使用されたと思われる縄が、近所のゴミ収集所から発見されたそうで、大阪府警で逮捕後、身柄を一度奈良県警に引き渡すそうです」

 ここで、改めて今回の事件について考えるため、鐃警は最初の事件から振り返り

「最初の事件は、祠の近くで駿稀(しゅんき)さんが殺害された。これは、伴野さんの犯行ってことで決まりでしょうかね。それを目撃した夏枝さんは、自分の夫が被害者だとは分からなかった。しかし、殺害されたのが、夫だと分かり、犯人である伴野さんを絞殺した。……あれ? でも、駿稀さんが発見されてから、夏枝さんはずっと大阪府警にいたんですよね? 夫だと分かっていないけど、犯人を絞殺したってこと? いや、欣一君が誘拐されたタイミングが、駿稀さんの殺害の直後で、おそらく誘拐したのは伴野さんだろうから……」

 時系列が分からない。いずれにせよ、夏枝さんは嘘をついていた。

「祠の位置を知っていたということは、夫が殺害されたことも知っていた可能性もありますね。欣一君の誘拐は、駿稀さんの殺害前ならば、今の状況は起こりえそうですが……」


    *


 2019年6月18日 火曜日。東京に戻って、事後処理中に本事件に関する最新の捜査資料が展開された。悠夏と鐃警は、その資料を開くと、

「事件全容。被疑者の柴垣(しばがき) 夏枝の動機は、被害者で夫の駿稀さんとの喧嘩。伴野の殺害現場を目撃したが、止めなかった。事の発端は、混血の獣人である欣一君は、獣の耳と尻尾を隠すことが出来なかった。それが原因で、引きこもりになっていた。駿稀さんは学校へ通わせることを提案し、夏枝は当初は反対したが、次第に認める。しかし、欣一君は学校でいじめに遭う。獣人であることを隠すために、帽子をしていたが、ある日クラスメイトに奪われ、秘密が明らかになった。夏枝は、その状況を知り、やはり学校へ行かせるべきではなかったと、駿稀さんを激しく非難した。駿稀さんは、学校へ生かせるべきだという考えは変えず、特別支援学校へ通うことを提案した。欣一君は、普通の友達を作りたいが、上手くいかない。夏枝と駿稀は、学校へ行かせることに関して、幸せになる、ならない、将来のためだなど、喧嘩となった」

 資料の次のページをめくる。読み手は、悠夏から鐃警へ交代。

「職場で伴野は、駿稀さんを見かけ、住まいと結婚した相手を探し出した。伴野は獣人であり、獣人社会で駿稀にライバル意識があった。年は離れているが、獣人社会は年齢よりも強さが優先される。伴野は、村のボスを決める戦いで惨敗して、醜態を晒されたことに根を持っていた。ボスとなった駿稀は結婚して人間として生活することを決め、脱退した。獣人が人間と同棲することは、タブーだったが、ボス権限で変更したため、ますます伴野は、幸せになる駿稀が許せなかった。伴野は夏枝に接触し、脅すように情報を得た」

 ここまで読んで、鐃警は率直な感想を一言。

「これ、捜査資料ですよね? まるでフィクションの小説を読んでいるような錯覚に陥るんですが……」

「捜査資料は、書く人によって個性が出ますから……。検察に出す捜査資料は、また別ですし」

 悠夏も薄々感じてはいたが、事件の全貌を読み進める。

「伴野は欣一君を誘拐し、駿稀さんを殺害。夏枝はそれを目撃したが、止めずに見届けた。その後、伴野に近づき、欣一の場所を吐かせようとしたが、一向に喋らずに、そのまま絞殺してしまった。欣一は、伴野の所有物件にて、束縛されていた」

「つまりは、駿稀さんと対立していたから、助けなかったってことですかね……」

 鐃警の推測は、おそらく当たっているだろう。それについても、取り調べですでに裏取りが終わっているのかもしれない。

 捜査資料を最後まで読み進めると、欣一君のその後に関して記載されていた。

「警部。欣一君に関してですが、人間ではなく獣として生きることを決意したみたいですね……。最後の締めに、”混血だった欣一君は、2択から獣を選択し、城陽君とともに獣の姿となって、森深くへと消え去った”」

「その一文だけだと、理解しきれないんですが……。決意によって、変わったってことですか? もう人間には戻れない……とか?」

「獣人のみぞ知る……かもしれないですね……。ただ、私個人としては、行方不明者扱いになるのではと思うんですが……。処理、どうするんですかね?」

「どうなんでしょうね……」


To be continued…


12月1日の4作品更新からすぐに更新で、ギリギリです。当日出来上がりました。

今回登場した、斑鳩川 飃は柊哉君のお兄さんですね。おそらく、今後もまた登場するでしょう。

獣人に関する事件は、今回で終了です。次回、第99話からはサミット開催直前の事件になるかと思われます。現時点で、まだ何も決められていないので、詳細はこれからです。

もう100話が目の前。自分で設定してる締め切りも目の前。

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