第97話 アフターストーリー ~令和元年5月31日&平成31年4月4日~
倉知副総監は、警視庁刑事部捜査一課の長谷警部補と会議室でとある話をしていた。そこへ悠夏から”トーカー・メッセージ”で報告が届いた。
「どうしました?」
「特課から報告だ。今、関西での事件を捜査している」
倉知副総監は、次々と届く情報を読み
「少し、京都府警に相談する」
「どうぞ」
長谷警部補は、ペットボトルのお茶を手に取り、リラックスする。倉知副総監は京都府警へ電話し、手短に報告した。電話を切ると、
「どうやら事件は、決着がつきそうだ」
「それは何よりです。では、こちらの事件も片付けますか」
長谷警部補は、テーブルの上にある資料を手に取り
「報告通り、二課が担当した、真帆薬品工業の信州工場で、オレンジ色の薬品が見つかっていたことが分かりました。阿木神が所持していた薬品は偽物でしたが、同じような瓶に入っていた薬品からは、別の成分が検出されたそうです。こちらが科捜研からの報告書です。あと、当時の少年事件課と二課からの報告書に添付された写真です」
少年事件課と捜査二課からの報告書に添付された写真は、押収した薬品の瓶。中身は水だった。科捜研からの報告書には、水ではなく、なにやら難しい成分がずらずらと書かれている。その中には、
「成分不詳?」
「科捜研によると、検査できるどの分類にもヒットしなかったそうです。ただ、こちらを」
長谷警部補は、追加報告書を1枚出す。
「例の成分に酷似しているという報告が。怪奇薬品特有の物質」
「”ユーネヌ”が見つかったのなら、関係者には確認したのか?」
「それが……、架空の会社からの納品物らしく」
「ペーパーカンパニーだとしても、調べれば特定できるだろ?」
「その代表者は、すでに死亡しており、家宅捜査でも何も出てきませんでした。証拠は処分された後かと……」
倉知副総監は、資料を机の上に置き、
「策はないのか?」
「服用したと思われる人物は、すでに元に戻ってますし……」
服用したと思われる人物とは、黒川 岳君のことである。普通に生活ができるレベルまで回復しており、記憶の混合はない。転生したと言っていた、あのころの人物とは思えない。倉知副総監は腕組みをして、策を考える。手詰まりなのだろうか……。
「似た事件……。確か、無かったか?」
「似た事件ですか……?」
「少女に憑依した事件。いや、少し違うか……」
「もしや、君島兄妹の事件ですか」
「そうだ。神奈川の事件だ」
被害者が加害者の妹に憑依して、自分の殺人事件を止めようとした。
「黒川君の事件当夜よりも前の情報って分かるか?」
倉知副総監に言われて、長谷警部補は捜査資料を読み返す。だが、事件発生よりも前の情報が記載されていない。長谷警部補は、捜査二課の新野警部に電話をして確認を取る。
「黒川君については、あまり分かりませんね……。すみません、ご期待に添えず。綿貫巡査長に確認をお願いします」
次に、生活安全部少年事件課の綿貫巡査長に電話をする。しかし、こちらも事件より前の行動については、詳しく調査していないそうだ。
「明確に、何日から黒川君の様子が変わったのかという確認は出来ていないですね……。事件の翌日には、様子が違っていたという裏取りはできていますが……」
綿貫巡査長の話を、そのまま倉知副総監に報告すると、
「至急、捜査をしてほしい旨を伝えてくれ」
その電話で、綿貫巡査長に詳しい事情は伏せつつ、情報収集を依頼する。
「分かりました。おそらく、黒川君の担任教諭と教頭先生に確認すれば、すぐにご報告できるかと」
電話を切って、10分後。折り返しの電話がかかってきた。長谷警部補は一言断った後、スピーカにして、スマホをテーブルに置いた。倉知副総監は、スマホに向かって
「綿貫巡査長。報告してくれ」
「はい。千帝小学校の等々力教諭と上野教頭から、当時のことが確認できました。黒川君の様子が変わったのは、事件発生の2日前からとのことです。大きく変わったのが事件の翌日からでしたが、その2日前から違和感があったそうで、黒川君の名前を呼んでも反応が遅れ、あまり喋らず、本人は体調が悪いと言っていたそうです」
「ご報告、ありがとう。またお願いするかもしれない」
綿貫巡査長との電話を終えると、倉知副総監は
「どうやら、ふたつの事件に共通点が出てきたな」
「しかし、どちらも憑依中といいますか、転生中といいますか、怪奇薬品の効果期間と思われる時間から、かなり経っています」
「精密検査の報告書はあるか?」
「お持ちします」
長谷警部補は、電話をかけて資料を持ってくるように指示を出す。しばらくして、藍川巡査が封筒を2つ持って現れた。
「資料、お持ちしました」
「藍川巡査。ありがとう」
と、言って入り口で受けとると、長谷警部補は藍川巡査を部屋に入れずに扉を閉めた。藍川巡査が不服そうだったが、耳を傾けずに、封筒から資料を取り出し、テーブルに並べる。
「こちらが黒川 岳の精密検査。検査したのは、保護したあとの入院時です。一方、こっちが君島 舞彩の精密検査。検査したのは、若葉警察署で保護したあとになります」
「どこかに共通点があれば、怪奇薬品の突破口になる。血液検査なのか、身体的特徴なのか」
倉知副総監は2枚の検査結果を見比べ、
「はっきりした異変があれば、医師から報告があったかと」
長谷警部補は、医師のコメントを先に見る。しかし、報告には
「平常。悪いところがない」
「長谷。これを」
倉知副総監は、ある項目を指差す。
「血液検査結果。どう思う?」
「基準値ですね」
「おそろしいぐらいに、基準値じゃないか?」
「基準値であることは、別に不思議でも」
長谷警部補は言い切る前に、「ん?」と驚いて前のめりに
「2人とも基準値と0.1単位で同じ……。血液検査の結果が全て……」
「データがあまりにも足りないが、毛利 貴之の検査結果もあったよな。3人とも一緒なら、1つの可能性が見えてくる。ただ、2回目の検査結果だと、バラバラの値になっている。1回目の検査結果について、調べてみる価値はありそうだが」
「そちらについては、こちらで調べてみます」
長谷警部補は、資料を整理し封筒に戻す。倉知副総監のスマホには、悠夏からの事件の報告があった。
「どうやら、区切りがついたようだ」
「事件解決ですか。では、特課に例の事件について……」
「それについては、まだ回答してない。機動隊と米澤班の担当だ。協力するなら小板橋にお願いする」
「え? 小板橋さんって、まだ刑事をされてたんですか?」
「今は、”ゼロ”として活躍していると聞く」
「……”ゼロ”。しかし、小板橋さんは、昔……」
「昔の話だ。公安から話がくれば、特課に指示する。何せ、元刑事が関わっているからな……」
To be continued…
毎年恒例の12月1日全連載作品同刻更新。もはやブログ亡き今、この日にこだわる必要はないのですが。さて、『エトワール・メディシン』は、今回、アフターストーリーで、本編進行は木曜日に。
それと、今日から始まるクロスオーバーの『K3』には、悠夏たちが中心で進みそうです。




