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第90話 アフターストーリー ~平成31年2月8日~

 2019年6月15日 土曜日。令和元年になり、早くも1ヶ月半が経過しようとしている。特課の悠夏と鐃警は、現在、大阪府にいる。

 大阪市浪速区(なにわく)にある高さ103mの展望塔、通天閣から大阪の街を眺めていた。プライベートではなく、仕事である。特別野外展望台で、風を感じながら周囲を見るが、鐃警は中央で固まっている。悠夏は鐃警の方を向き、手すりにもたれて、

「警部って、高いところは大丈夫ですか?」

「一回、落ちた記憶があるんですよね。あまり憶えてないですけど……」

「バンジーですか?」

「憶えてないです」

 あまり話が広がりそうにないので、悠夏は仕事の話に切り替え

「再来週には、ここでG20(ジートゥエンティー)ですね」

「大阪府警が主導となって、警視庁や各都道府県の警察も派遣されるみたいですが、特課はまだ呼ばれてないですね」

「私達も、配備を命じられるんでしょうか?」

「指示があるとすれば、この場合は倉知(くらち)副総監からですかね」

 一応、特課は副総監の直轄である。刑事部や公安部などには属さない。G20サミットは、6月28日金曜と29日土曜の2日間に行われる、正式名称”金融・世界経済に関する首脳会議”。アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、メキシコ、韓国、南アフリカ共和国、ロシア、サウジアラビア、トルコ、イギリス、アメリカ、そしてEU(欧州連合)の首脳が毎年参加する国際会議である。この他にも、招待国の首脳や国際機関の代表などもサミットに参加する。

 ただ、今回はG20関連ではなく、全くの別件である。大阪府警から特課宛てに連絡があった。待ち合わせ場所を聞いたところ、

「ほな、明日のお昼1時に、通天閣でどうや?」

 と、ここに決まった。しかし、声の主とは違い、現地に来たのは、大阪府警捜査一課の八尾(やお) 九条(くじょう)巡査と弥刀(みと) 加美(かみ)巡査。どちらも、悠夏とあまり年の離れていない女性刑事だった。とはいえ、悠夏より先輩であり、終始敬語ないしは標準語で話す。

「あの……、ご連絡いただいた警部さんは?」

道明(どうみょう)警部でしたら、サミットの関係で忙しいゆうて、私らに仕事を振りましたので」

「せやから、ここには来んで」

 捜査一課の道明警部は不在のようだ。4人は、それぞれ挨拶を済ます。悠夏の感じたイメージで言うと、2人はこんな感じ。弥刀巡査は、妹がおり現在大学生らしい。妹の面倒をよく見るお姉さんで、八尾巡査よりも比べると、一歩引いて物事を判断する人だろうか。八尾巡査は中学の頃からテニスをやっており、活発で勢いを感じる。コンビで言えば、八尾巡査がボケで、弥刀巡査がツッコミだろうか。

 さて、本題に入ろう。通天閣から近くのお店に移動して、依頼内容を聞くことに。お店は、たこ焼き屋だ。メニューにはたこ焼き以外もあるが、八尾巡査が「1舟いくよな?」と、返答する前にさっさと8個入りを4舟注文した。「ここもまた美味いんよ」と、自分の世界にいる。

 悠夏が鐃警の方を見ると、鐃警はこちらを見て右手を激しく左右に振り、拒否のサイン。鐃警はロボットなので、1舟は誰かが食べることになるだろう。もしくは、ボケなのか? ツッコミが必要なのか?

 たこ焼きが来る前に、弥刀巡査が資料を鞄から取り出して説明を始める。

「警視庁へ依頼した訳は、この写真です」

 資料にクリップ止めされた写真を1枚、テーブルに置く。そこには、見覚えのある人物が写っていた。

「あれ? 佐倉巡査、この写真に写っているのって」

葉陽(ようよう)君ですね」

 鐃警も悠夏も憶えていた。濱千代(はまちよ) 葉陽君である。弥刀巡査は別の資料を見ながら、

「先日、この子が投稿したと思われる動画に関して、捜査依頼がありました。この投稿者について捜査しようとしたところ、特課が情報をお持ちであるとのことで、道明警部から捜査協力のご依頼をさせていただきました」

「知っとることがあれば、教えてえな」

 どうやら葉陽君について、まだ何も知らないようだ。八尾巡査は、面白い話が聞けると思っているのか、ニコニコして八重歯が見える。

 悠夏は鐃警に、説明しますねという意味で目配せすると、ゆっくりと頷いた。

「その写真に写っている男子は、濱千代(はまちよ) 葉陽君という子です。動画投稿は実名を使用していないのですが、SNSでは周囲のクラスメイトと思われる人物から実名で呼ばれており、ネット上でも実名を知っている人は多いと思います。捜査依頼のあった動画って、いつ頃の投稿動画でしょうか?」

「つい最近やな」

「先週ですかね」

 悠夏も鐃警も、それには思わず驚いた。

「かなり撮りためてたってことですかね……? 佐倉巡査、あれっていつごろでした?」

「えっと、2月だと思うんですが……」

「だとしたら、予約投稿って、4ヶ月も先なんてできるんですかね……?」

「警部。もしかして、他の人が、葉陽君のアカウントで投稿を継続しているってことですかね?」

 しかし、どうしてアカウントのメールアドレスとパスワードを知っているのだろうか。それと、未公開の動画があるのか。ふと思い出すのは、文化祭の写真にいた葉陽君を除いた4人。 うち1人は、山梨県警の韮崎警部たちと捜査一課の榊原警部たちが捜索して発見に至った少女、近藤(こんどう) 廣美(ひろみ)。他のメンバーについては、SNSでのハンドルネームは分かっているけれど、本名は知らない。当時の捜査資料には、もしかすると記載されているかもしれない。

「佐倉巡査の推測も可能性として考えられますけど、本人が映っている動画ということは、乗っ取りの線は低いかなと」

 事情を知らない八尾巡査は

「どういうこと? 動画がアップされとることが、おかしいん?」

「実はですね……。今年の2月に、特課と警視庁の捜査一課、管轄の埼玉県警が担当した事件ですが、元恋人で過度なストーカー行為をしていた女性被疑者が、3人を殺害しており、そのひとりが葉陽君でした。生きていれば、今は中学2年生です」

 葉陽君は、特課が最初に携わった殺人事件の被害者だった。

「そうやったんや……」

「被疑者は、葉陽君の動画や葉陽君と繋がりのある人物達のSNSから、元彼を探しだし、供述では”自分だけが不幸になるなら、いっその事、殺して永遠の存在にしてやりたかった”と」

「なんやそれ。怖いわ」

 恐怖を感じ、八尾巡査は両腕を(さす)った。一方、弥刀巡査は表情を変えず

「困りましたね。その人に聞けばすぐに分かるかと思ったのですが……」

 葉陽君については、あとで事件資料を送るとして、ここでは最低限の説明をしたため、鐃警が話を今に戻す。

「今回、大阪府警はどのような依頼があったんですか?」

「一言で言うと、ある女性から場所を聞かれました。先日、葉陽君のチャンネルで投稿された動画を偶然視聴し、そこに映り込んだ祠に関して」

「ほこら? ですか」

「神が祀られている祠の場所を調べて欲しいと。しかし、それだけで警察が動けるかというと……。すると、その女性が驚くような発言をしました。その祠に彼が埋まっているかもしれません、と」

「ほんで、捜査を始めたんやけど……。動画を見ただけやと、手がかりが分からん。場所がコロコロと変わって……。撮影時期も分からんし」

「投稿者に関して調べる際、この4月に警視庁からこっちに異動した同期から、特課が捜査した事件かもという話を聞き、ご依頼した次第です」


To be continued…


2019年6月に何か無かったかなって調べたら、G20が大阪でありましたね。各国の飛行機の写真をTwitterで見た記憶が。1年前って、覚えてないもんですね。

葉陽君は、その名前の響きがちょっと気に入ってるので、当時から動画関連でアフターを書きたいなと思ってました。あと、動画サイトにしろSNSにしろ、漠然とした表現をしてばかりなので、そろそろサービスの名称とそのサイトの仕様を考えようかな。84話でメッセージアプリは、”トーカー・メッセージ”って決めたし。なにがいいかなぁ。

ちなみに、葉陽君の事件は第18話からですね。結構、古いのね。

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