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第9話 大晦日の大混乱

 2018年12月31日21時15分。

 各局が特番をぶった切って、ニュース特番に切り替わる。ニュース速報のテロップに、都内の列車運転見合わせテロップもあり、情報が多い。ちなみに、通常通り放送を継続しているテレビ局もある。

「番組の途中ですが、ニュースをお伝えいたします。21時過ぎ、都内で爆発ならびに、発砲などの情報があり、列車の運休が続いています。鉄道会社からの最新情報によると、20時ごろから一部駅にて入場規制を段階的に実施。20時30分頃から、列車も運転見合わせを発表していました。警視庁からの正式な発表はまだありません。視聴者からの提供で、SNSに拡散された動画を見る限り、線路に降り立った男が拳銃のようなものを所持していることが考えられます。また、先ほど都内で、久保(くぼ) (さとる)君と鈴本(すずもと) (たかし)君が無事保護されました。誘拐事件との関連性はまだ分かりません。では、現在の最新情報をお伝えいたします」

 報道規制は一部破られたが、現場中継をしない約束事は守られている。しかし、中継車がスタンバイしており、事件の経過によっては中継が入るおそれもある。 

 警部と悠夏は、線路のバラストの上を走る。非常に走りづらく、最終的には、枕木の上を走ることに。すでに、全ての列車が止まっており、捜査官が線路上で活動できることは確認済みだ。とはいえ、あまりにも非日常的なことなので、不思議な感覚であり、後ろを振り向いたら電車がいたらどうしようとか考えてしまう。余計なことを考えるだけの余裕は、まだあるみたいだ。

 線路上で黒埜に掴みかかった登根だが、2発目の弾丸が左肩を掠って、負傷。しかし、黒埜が倒れた拍子に、線路に右腕を打ち、よその方向に3発目の弾丸が飛ぶ。車内にいた捜査官が線路に降りて、黒埜の拳銃を奪い取ろうとするが、握力が強くてなかなか奪えない。

 4発目の発砲。しかし、これも全然違う方向だ。

「ウィンターソルトプレス!」

 警部がそう叫んで、2人の被疑者に覆い被さるようにプレス攻撃。でも、ウィンターソルトって何だ?

 悠夏は手錠を取り出して、叫ぶ。

「警部! サマーソルトのサマーは、そういう意味じゃないです! 銃刀法違反で現行犯逮捕!」

 悠夏が黒埜の両手に手錠を嵌めた。他の捜査官は、腕時計を見て

「21時18分! 逮捕」

「登根さん、あなたからも事情を聞かせて貰いますので。ただ、まずは、略取誘拐罪と列車往来妨害罪の疑いで、同行してください」

 ちなみに、サマーソルトはとんぼ返りや宙返りを意味し、夏ではない。英語の綴りも違う。

 間髪入れずに、インカムから報告が上がる。

「こちらSIT。2名の無事を確認。籠城していた商組のメンバーを確保し、一度組対五課に引き渡します。繰り返します。2名は無事。子どもたちも無事を確認しました」

 その報告を受け、会議室では、参事官が立ち上がり

「よくやった! これより、報道規制を一部解除する。被疑者を連行しろ。子ども達は、救急車で病院へ搬送し検査を。親御さん達には、こちらから連絡する」

「ただ……」

 犯人逮捕に歓喜を挙げたが、その言葉にみんな黙った。嫌な予感がする。

「ただ、被疑者が1名負傷し、現在応急処置を行っています。かなりの重傷です。これから、救急車で緊急搬送します」

「負傷したのは誰だ?」

 小渕参事官も、おおよその予想は出来ていたが、SITの隊員は

「浅羽被疑者が重傷です。おそらく、突入後、2人を救出する際に商組の人物に、やられたのかと」

 ビルでは、救急隊員が浅羽の止血を行い、ゆっくりと担架に乗せる。有塚は泣き崩れている。宰君と結紀ちゃんは稲月さんに縋り付いていた。稲月さんの判断で、宰君と結紀ちゃんを抱き込んで視界を覆った。その判断は正解だった。結果、宰君と結紀ちゃんは、そのときを見ずにすんだ。


 テレビでは、中継が始まり商組の逮捕が実名で報道され、蜉蝣のメンバーも実名で報じられた。蜉蝣の行いを美化するような報道もあれば、批判する報道もある。

 蜉蝣の2人と子ども達は、集中治療室の扉の前で祈っていた。時刻は、23時を越えていた。

 警視庁では、商組の事情聴取や事件の情報整理、記者会見等で慌ただしく、特課の2人は病院で彼らを見守ることを命じられた。悠夏と警部は少し離れたところで、彼らを見守る。声をかけられるほどではない。

「警部、こういうとき、見守るしかできないんでしょうか」

「……サマーソルトのサマーって、夏じゃなかったんですね」

「……今、そんな話をする空気ですか?」

「……てっきり、夏だと思ってました」

「いや、だから……」

「……みんな、何も食べてないんですよね?」

 警部に言われて、気付いた。そういえば、夕食はまだ食べてないんだろうか。少なくとも、私たちも準備でそんな暇がなかった。

「……年越しそばでも、みんなで食べますか?」

「でも」

 悠夏は否定しようしたが、警部は

「年越しそばを食べて、みんなで無事に、新しい年を迎えられるように準備することは、大事ですよ。当然ながら、新しい年を誰一人欠けることなく迎えられるようにと、願いも込めて」

「そうですね。浅羽さんが無事に新しい年を迎えられるように。もちろん、領収書は警視庁で」

 悠夏は病院で待機している警察官に伝えて、年越しそばを発注した。警部の言うように、願いを込めてと元気で迎えられるように、みんなで年越しそばを食べる。稲月さんが子ども達に、みんなで食べるようにと、やさしく言って協力してくれた。有塚さんや登根さんも最初は黙って拒否したが、子ども達に言われて、年越しそばを食べる。

 浅羽さんも無事に、新しい年を迎えられるように願って。


    *


 後片付けを行っている捜査本部で、長谷警部補がひとりだけ座って、自分の捜査手帳を見ながら唸っていた。

 それを見た藍川巡査は、近くのパイプ椅子に座り

「長谷さん、どうしたんですか? 商組の聴取に行かないんですか?」

「藍川、お前はどう思う? この事件」

「結果的には、蜉蝣が、子ども達と教諭を救った事件って感じですけど」

「そうだ。ただ、覚えてるか? 車の持ち主のこと」

「花火の仕掛けがあった車は、登根さんが持ち主ですし、浜松町駅の周辺にあった車は、浅羽さんの所有していた車でしたね」

「じゃあ、最初の事件の時の車? あれ、誰のだ?」

「……あ」

 藍川巡査は思わず声が出た。蜉蝣と商組の件で、すっかり忘れていた。

「そういえば、盗難の被害届が出ていた車でしたね……」

「そうだ。つまり、それを調べないと、まだこの事件は終わりじゃない」

 長谷警部補と藍川巡査は、捜査一課のメンバーを招集し、捜査が再開される。もっとも、必要な情報は熱心な捜査のおかげで、かなり集まっている。少し追加捜査すれば見えてくるかもしれない。


To be continued…


年末の事件が、かなり長くなりましたが、次回がラストになります。

平成のうちになんとか区切りがつきそうです。

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