表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/295

第84話 確たる証拠なき状況

 ”トーカー・メッセージ”。スマホを持っている人が、最初にインストールするであろうアプリの1つである。写真やメッセージをグループや個人宛でやりとりできるアプリで、スマホやパソコン、タブレットに対応している。これまでも、メッセージのやりとりはこのアプリを使用している。作成したグループの設定によっては、見たことを示す所謂(いわゆる)”既読機能”というものをオン・オフできる。それぞれのアイコンがメッセージの右下に表示され、誰が何処まで読んだか分かるのだ。ただ、人数が多いと、読んで欲しい人が見ているか、アイコンを確認するのが大変だ。特に、アイコンを頻繁に変える人がいれば、なおさら。

 ”トーカー・メッセージ”は、東北のIT企業が開発したが、それに逸早(いちはや)く目を付けた大手の海外企業が買収し、現在は海外企業の傘下である。どうやら、その海外企業は、運営と管理を支援しており、日本向けに関しては、開発元に一任しているそうだ。

 とはいえ、どこかのサイトに書かれていたインタビュー記事だから、本当かどうかはよく分からない。先日、週刊誌が、当時銀行はそのアプリ開発に関して、融資をしてくれず、応援してくれたのが海外企業だったと、素っ破抜いたが、それは本当だろうか。

「確か”トーカー・メッセージ”は、海外サーバーだろ?」

 新野(あらたの)警部は、鐃警(どらけい)が業務で”トーカー・メッセージ”を使用しているのを見て、そう言った。機密保護の観点から、気になって新野警部はこのアプリの使用を敬遠している。

「お言葉ですが、警部」

 と、どこかで聞いたことがあるようなセリフを言いつつ、鐃警は新野警部に対して

「メールも、各社キャリアの国内サーバーや海外サーバーですし、結局、変わらないですよ。仮にも、管理会社が情報漏洩をするなら、僕らは警察官ですよ。(しか)るべき処罰をするでしょう」

「そもそも、機密が漏れてはいかんだろ」

「新野警部、ご(もっと)もですけど……。そんなレベルの高い機密情報なら、そもそも口外する時点で気を配るべきではないですか? 電話であれ、口頭であれ、そもそも……。あくまでも、連絡手段の一つですからね」

 さらに、鐃警は気になったことをひとつ。

「珍しいですね。そこまで毛嫌いするの。失礼ですけど、新野警部って、おいくつなんですか?」

「いくつに見える?」

「あっ、そういうの嫌いです」

 新野警部の質問に、間髪入れず意見を告げた。少し新野警部は悲しげな表情をしていたが、鐃警はそんなことなど気にもせず、悠夏(ゆうか)からの最新のメッセージを読む。

 千帝(せんみかど)小学校の校門と道路を挟んで向かい側にある、2階建てアパートの一室で、ふたりは学校周辺の警戒に当たっているが、この時間は動きがなく、外を見ても校庭で無関係な生徒が遊んでいる光景が見えるだけだ。

佐倉(さくら)巡査からの報告で、一言、”マズい状況になったかもしれません”と」

「ん? どういう意味だ?」

 新野警部は眉間に皺を寄せる。外見では若そうに見えるけれど、仕草が古かったり、一部のアプリを毛嫌いしたり、本当に何歳なのだろうか。少なくとも、榊原(さかきばら)警部よりは年上なのは分かっている。もし同期とかなら、それはそれで……

「”(たけ)君が日に日に抜け落ちていくと発言”。”ぜん、と言いかけて、誰からの圧を感じ、口を(つぐ)みました”。あとは、”見失いました”」

「見失った? 校舎内にいるはずだろ」

 新野警部は立ち上がって、双眼鏡を手にし、窓から校庭を確認する。

「あ、電話です」

 鐃警は悠夏からの電話に出ると、

「警部、すみません。見失いました」

「佐倉巡査。順を追って、報告してください。あの言葉の羅列だと、ちんぷんかんぷんです」

「これは、私の予想なんですが……。岳君は、前世の記憶といいますか、被害者の加賀沢(かがさわ)さんとしての記憶が、徐々に薄らいでいるのではないかと思われます」

「その根拠は? そうだとしたら、こんな回りくどくて悠長なこと、やってる暇は無いってことですかね?」

「今朝、等々力(とどろき)教諭から、直近の話を色々と聞いたんですよ。そしたら、昨日言っていたことを憶えていないことがあったらしく、その内容が、岳君ではない記憶ですね」

「んー……。それだけだと、厳しいですね……」

 唯でさえ、あり得ない状況下である。選択を誤れば、どうなるか分からない。

「等々力教諭の言葉を信じるのであれば、他にも事例はあるそうです。時間の関係上、伺うことができたのは一部ですが……」

「つまり結論から言うと、岳君は被害者としての記憶が徐々に無くなってきており、早く保護する必要があるってことですか?」

「それもありますが……、私が心配しているのは、岳君の身に何も無ければ……と」

「ん? ……佐倉巡査が言いたいのは、見失った結果、加害者の手に渡ったのではないかと、そういうことですか?」

「そうです……」

「それが本当なら、非常に危険ですね。本当ならば」

 鐃警が念押しをすると、悠夏は慌てて喋っている自分を落ち着かせるために、一呼吸して

増永(ますなが)さんと木野村(きのむら)さんのどちらも姿が見えないんです。職員室にも、教室にも」

 特別支援教室の専門員である増永 郷美(さとみ)さん。5年1組担任の木野村 (さい)さん。どちらも、黒川(くろかわ) 岳君への頻繁な接触を確認しており、警戒に値する人物であった。

「今の状況証拠……というよりも、証拠とさえも言えない状況で、捜査員を校舎内に立ち入らせるのはできないと思います……」

 警察官と分かる状態で突入は出来ない。確実なことが分かっていないからだ。あくまでも、悠夏の推測の域でしかない。会話を聞いていた新野警部は

上野(うえの)教頭に協力依頼をして、空気環境測定者として、校舎内の怪しいところを捜査するなら、人員を確保できる」

 空気環境測定とは、建物内の浮遊粉塵(ふんじん)、一酸化炭素、炭酸ガスなどの量や温度・湿度といった測定を行うことである。不特定多数が利用する建物の衛生管理上、法律で定期測定が決められている。学校も学校環境衛生として、測定することはある。ただ、機材があるかどうか。

「ここから300メートルほど離れたビルで、別件の捜査をしている捜査員がいる。清掃員や空気環境測定者として、潜入捜査中だ。清掃員だと、学校では怪しまれるが、そっちならどうだ?」

 思わぬ提案に、鐃警は悠夏にそれを伝え、悠夏から上野教頭に相談することに。新野警部は、潜伏中の捜査員のうち、空気環境測定者としてのメンバーに連絡を取り、指示を出す。

 周囲がドタバタと動く中、鐃警は自身の中で引っ掛かることがあった。新野警部は指示連絡で忙しくしており、鐃警の声は聞こえていない。

「被害者の記憶が勝手に消えるのなら、被疑者は放置しておく気がしてならないんですよね……。わざわざ、被害者に手を下すような必要があるのかどうか……。もしも、記憶が自然には消えていないとしたら……。被疑者が恫喝(どうかつ)ないしは、薬物で意図的に消しているとすれば……」

 20分休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。3時間目の授業が始まるが、等々力教諭が1年2組の教室に入ると、ひとつだけ空席があり

「あれ、黒川君は? 誰か知ってる?」

 岳君の席は空席だった。さらに、5年1組は担任の教諭が姿を見せず、学級委員の子が職員室まで呼びに来た。ただ、職員室にも、その教諭の姿は無かった。


To be continued…



実際には、空気環境測定実施者って言うそうです。軽く調べたら、5日間の講習を受けると取得できる国家資格らしいです。へー。

新野警部の所属する捜査二課の捜査は、内偵捜査やら記録の洗い出しなど、情報収集が地道に時間をかけて捜査することが多いみたいです。作中の捜査描写は、あくまでも想像でしかないのですが。

さてさて、今週も更新に間に合いましたが、依然としてストックがない厳しい状況が続いています。

気付けば9月ですよ。年末年始のヤツもぼちぼち準備期間なのかな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ