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第82話 合同の捜査会議

 警視庁刑事部捜査一課は、4月の人事異動で公安部からの出戻りが多く、本来の人数近くまで戻り、約350人体制である。榊原(さかきばら)警部や長谷(ながたに)警部補と関わっていたことが多く、知らない人の方が圧倒的に多い。千石(せんごく)警部は、公安部からの出戻りで、鐃警(どらけい)悠夏(ゆうか)は、千石警部の名前も顔も知らない。

 捜査会議はいつもの最前列。特課の特等席で固定化が懸念されるが、もう慣れた。慣れたけれど、出来れば少し後ろの方が……

 捜査会議は、捜査二課の新野(あらたの)警部からの報告からスタートした。鐃警に話した内容を報告したあと、

「文科省からの報告ですが……、確固たる証拠は見つからなかったそうです。今朝の時点では、今日中に証拠が掴めると報告を受けていましたが、どうやら難航しているようです」

 次に、捜査一課からの報告。秋川(あきがわ)巡査長が代表で立ち上がり、報告する。

「捜査一課から報告します。事件当夜、被害者が乗ったタクシーが分かりました」

 会議室の大きなモニターに、タクシーの車内を録画した映像が流れる。

「被害者の加賀沢(かがさわ)さんは、”路地ウム”というバーを利用しており、その帰りにタクシーを利用したようです」

「タクシーを使ったのに、自宅まで帰らなかったのか?」

 誰かが、そう発言した。飲んだ後にタクシーを使うなら、普通は自宅まで乗って帰るだろう。しかし、現場は自宅から遠い。

「ご指摘の通り、被害者はタクシーを途中下車しています。ドライブレコーダーにも映っていない、進行方向右側、通りから離れたところを見て、運転手に止まるように叫び、支払いは紙幣を渡していました」

 映像には、お釣りを受けとらずに急いで下りている。途中下車したところは、現場からかなり近い。

「タクシーの運転手によると、かなり驚いた表情をしてた、と。下車後に、気になってそちらを見たが、何も見えなかったそうです」

 タクシーの映像が終わり、画面が真っ暗になる。秋川巡査長は、自身の手帳を捲り、

「すでに報告済みですが、被害者の遺留品からは、スマホが発見されませんでした。しかし、現物は入手できなかったものの、クラウドのデータを入手しました。そこには、事件当夜に撮られた写真がありました」

 1枚の写真が表示されると、響めきがあった。そこには、かなりぶれた写真で、二人が対面して立っている。全体が暗く、腰よりも下で、個人を特定するのは難しいだろう。しかし、その2人とは別に、こちらを見ている人物がいる。黒川(くろかわ) (たけ)君だ。写りに多少のブレはあるが、着ている私服や身長からも間違いない。

「被害者と、被害者を騙っている男児が、事件当夜に遭遇していたようです」

 鐃警は、今日本人を見ている悠夏に小声で確認すると、

「似てますね。としか、言えないです。今日も、写真と同じような服装でした。背中にしょっているのは、ランドセルですね……」

 はっきりとは写っていないため、確実なことは言えない。

 秋川巡査長が「この」と説明の最中に、ひとりの大柄な男が割り込んで、

「左に写っているのは、学校関係者と思われ、右に写っているのは、文科省の人物と考えられる」

 決めつけるように発言する人物を、悠夏と鐃警が振り向いて確認する。秋川巡査長の隣に座っており、肘をついて話している。

「被害者がタクシーから急いで下りたということは、どちらかが知っている人物である可能性か、もしくは事件を目撃して止めに入ったか。考えられるのは、前者だ。そこで、文科省の人物で知り合いがいないか確認を取った。すると、被害者の叔父が勤めていた。その叔父を、今日の昼に尋ねたところ、亡くなっていた」

 画面には、部屋で倒れている男性の写真が表示された。

「死因は、毒殺だ。口封じに殺されたとみた。部屋は物色され、携帯電話とパソコンが見当たらなかった。マウスやキーボード、充電機はあるのにな。叔父は、被害者から見て、母方の妹の夫で、無津呂(むつろ) 一範(かずのり)という。無津呂が不正を行っていたかは、文科省でも捜査しているが、そこは捜査二課の範疇だ。うちが出る幕はない。怪しいのは、その場に居合わせていた学校関係者だ。そっちの捜査は?」

 納得できる部分は少なからずあるが、学校関係者と決めつけ、他の可能性を排除している。生活安全部の綿貫(わたぬき)巡査長は

「千石警部。失礼ながら、時代にそぐわない捜査をなされているようで……。では、少年事件課から報告します」

 てっきり反論するかと思えば、千石警部は黙ったまま聞いている。

「本日、千帝(せんみかど)小学校にて、特課の佐倉巡査とともに、上野(うえの)教頭と等々力(とどろき)教諭からヒアリングしました。上野教頭は文科省に友人がいるとのことでしたので、要警戒人物として考えていましたが、先程の捜査一課からの報告から考え、まだ疑いはあるものの、当事者の可能性は少し下がったかと。上野教頭は、学校内で困りごとがあれば、初等中等教育局の舎人(とねり)さんを紹介しており、どの教諭も文科省の人物との接触率は高いかと。本命の黒川君に関してですが、傍から見て、よく話しかけている教諭は、3人います。担任である等々力教諭の他に、特別支援教室の専門員である増永(ますなが) 郷美(さとみ)さん。5年1組担任の木野村(きのむら) (さい)さん。3人とも女性教諭で、増永さんと木野村さんは独身です。あまり重要ではありませんが、増永さんは猫を飼っているそうです。先に説明として、黒川君の母親に協力依頼をしており、夜間は捜査員が自宅の見える公園の駐車場で、2名が待機し、3人でローテーションを組んでいます」


    *


 黒川さんの家は、住宅街の一角にある、二階建ての一戸建てであった。午後8時過ぎだが、父親はまだ仕事から帰宅していない。少し離れた駐車場に止めている乗用車に2人の私服警官が目を光らせている。もう一人は後部座席で、交代の時間まで就寝中だ。

 運転席側に座っている男性、西府(にしふ)警部は缶珈琲を飲みながら、要点を確認する。

「銀行員である父親は、この件を知らないらしい。冗談や嘘をかなり嫌う性格で、協力を得られたのは母親だけだ。当の本人から正式に聞ければ、こんなことをせずにすむのにな」

「岳君の状況が分からないからこそ、警視庁が総出で周囲から固めているんですよ。前代未聞の転生とかいう嘘みたいな話を、誰も笑わずに真面目に」

 助手席に座る女性、谷保(やほ)巡査はノートパソコンを操作し、捜査状況の報告書をリアルタイムで作成している。

「これに関わっている人間が、すでに2人も亡くなったんだ。裏では、公安部と組対五課も動いている。上層部は、”怪奇薬品”とやらの線を疑っているとかなんとか」

「西府警部、なんですか? その怪奇薬品って?」

「詳しいことは分からないが、読んで字の如く、不可思議な効果を生む薬物だろう。劇薬かもな。警視庁の関係者でも、一部しか知らない情報だが、捜査一課が関わった事件で、何度か確認されているらしい」

 西府警部と谷保巡査は、生活安全部少年事件課少年事件第1係所属である。つまり、綿貫巡査長と同じ係だ。怪奇薬品は、事件との関係が確実であると分かり、その上で事件関係者のみに伝えられるぐらいで、他言無用のため知っている者は少ない。しかし、噂や同僚からの話、立ち話などで耳にして、不正確に伝達しているようだ。

 転生も怪奇薬品なのだろうか……


To be continued…


毎週更新の目標が危うく途絶しそうなぐらいギリギリで出来上がりました。流れに身を任せて後先考えずに進めているので、今後の展開がまだ定まっていないのが、少し心配ですが……。

千帝小学校と千石警部と、最初の文字が”千”と、同じ漢字であることにこの話で気付いたのですが、深い意味は無いです。登場人物の名前は、ほとんどが地名からなんとなく選んだり、無作為に漢字を選んで並べたりするだけなので。

千石警部は、刑事の勘を信じるタイプでしょうか。頑固そう……。

あと、西府警部が「公安部と組対五課も動いている」と言っていますが、あくまでも風の噂程度で未確認情報です。公安部の動きとか、分からないでしょうし。

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