第81話 捜査二課との情報共有
2019年6月3日 月曜日、朝7時40分頃。都内某所の千帝小学校にて、潜入捜査の初日、警視庁特課の佐倉 悠夏と警視庁生活安全部の綿貫 真悠子巡査長は、職員室にある会議室で話を聞いていた。上野教頭と等々力 狛江教諭に、5月29日の夜に発生した殺人事件に関して説明をすると、上野教頭と等々力教諭はどちらも
「そんなことが……」
「信じられない……」
と、驚きを隠せなかった。事件被害者の加賀沢 蒼羅。そして数日後に、受け持つ小学1年生の黒川 岳が「自分は加賀沢 蒼羅である。転生した」と話した。親友の那須君のことも憶えておらず、小学1年生とは思えないような知識を持っている。
「犯人の手がかりはなく、転生したと本人が言っていることを信じるとすれば、しなければならないことが2つ。1つは、事件当夜に関する証言を聞くこと。もうひとつは、このことを聞きつけた犯人が、黒川君を狙うおそれがあり、事件を未然に防ぐこと。転生の話云々よりも、加賀沢さんを名乗って犯人に襲われる可能性は十分考えられ、どちらかといえば、そちらが本命です」
さらに、犯行を未然に防ぐと同時に、未遂で逮捕し、取り調べで犯行を吐かせることも考えている。
*
千帝学校の校門と道路を挟んで向かい側に、2階建てのアパートがある。2階のある一室を短期間借り、2名がモニターを見ながら待機している。カーテンは閉まっており、暗い。
「学校の校舎と校庭が見えるアパートなんて、よく空いてましたね」
鐃警がカーテンの隙間から覗くと、校庭で生徒たちがサッカーをしている。おそらく、体育の授業の一環だろう。
「先月、ここの住民を検挙して、差し押さえてるだけ、だけどな」
そう話すのは、警視庁刑事部捜査二課の新野 隼佑警部である。
「この部屋ですか?」
「あまりに気持ち悪い話なんで、事件の詳細は省くが、危うくそこの生徒が被害者になるところだった。被疑者不在時に、消防設備点検で、部屋の中に消防隊と大家さんが入ったら、壁に盗撮写真があったそうだ。それも、かなりの量の。通報により、捜査一課が駆けつけ、未遂で逮捕に至ったらしい」
「あぁ……それで。プールの周囲を工事してるんですか……」
防音シートでプールが囲われ、重機も入って工事をしている。遮蔽用の壁を建設しているのだろうか。
「なんか……知りとうなかった。そんなことがあったなんて……、わしはこんなとこ、来とうはなかった」
唐突に、鐃警がテレビで聞いたことがありそうなセリフを放つが、新野警部はパソコンに向かって文字を打ち込んでおり、こちらのことなど気にしていない。
しーんとした時間が流れ、鐃警は「コホン」とわざとらしく咳払いを演技し、
「ところで、こっちのことって、生活安全部は知ってるんですか?」
鐃警は自分達のいる状態のことを指すと、
「上は知っている。潜入中のふたりは、まだ知らせていない。タレコミがあったのは、昨日今日の話で、何の捜査もしてない状況で、その話を鵜呑みにするわけにはいかないからな。事件内容的に、明け方から捜査二課で調べているが」
新野警部の携帯電話に着信があり、「早速、情報が来たみたいだな」と、部下からの電話に出る。部下からの報告は2分ほどで、電話を切ると鐃警に対して、
「どうやら、一課も関わってきそうだな……」
「新野警部、それはどういうことですか?」
「今日の潜入捜査が終わり次第、捜査会議を開いて、生活安全部と一課と、うちで合同捜査に切り替わる」
「えっ……特課は?」
「引き続き、お願いする」
特課も事件捜査継続とのことだが、1つ不満が。鐃警は新野警部に対して、単刀直入で
「捜査継続はいいんですが、各部署で完結させずに、ちゃんと報連相していただけないですかね? うち、なんで潜入捜査なのか、理由があやふやな状態で動いてるんですけど……」
全体像や本来の目的も知らされずに、やれ動けと言われても、不明点が多く、知らないことによる見落としが一番怖い。ミスや手戻りに結びつくだろう。もし上も十分理解していないのであれば、鶴の一声で、全然違う方向性になるかもしれない。そんなのは嫌だ。
「特課は、転生の件と殺人事件の発生状況しか知らないんですよ……。二課が動いているから、そっち系ってのも分かりますけど……」
そっち系とは、二課が担当する事件、つまり詐欺や脱税などの金銭犯罪や知能犯罪、汚職関連という意味合いである。鐃警の困惑した表情を見て、新野警部は二課に限定した情報として
「二課としては、千帝小学校と文科省が。おそらく、単独な。それと、それを何らかの経緯で害者が。としか」
「えぇっ。それ、相当重要な情報じゃないですか、なんでそれを言わないんですか」
どうやら千帝小学校と文部科学省に在籍する被疑者と、良くない話があり、それを被害者が目撃して、口封じに殺害されたということらしい。ちなみに、新野警部が言った”害者”とは、被害者のことである。
「この件は、文部科学省も内部調査をしており、今日にも尻尾を掴めそうとは聞いているが、本当に証拠が出てくるかどうか」
「ん? ってことは……、転生者のことが」
「被疑者は100%、知っているだろうな。しかし、保護するにしても、転生者だから保護しますなんて言えるわけがない。保護する理由を見繕っても、いろいろと難しい。結局、入院が一番手っ取り早い。解離性遁走で、精神科の病院に入院という話にすれば」
「かいりせい……?」
「確か解離性遁走とか、健忘だとか、どっちだったかは忘れたが……。聞いた話によると、苦痛から逃げたい願望が強くなって、住まいから遠く離れて、過去の記憶を失う病状らしい」
解離性健忘や解離性遁走、解離性同一性障害、離人症といった解離性障害の種類であるが、ここには精神病に詳しい人はいないので、今は触れない。あと、小1でそれが起こり得るかどうかは重要ではない。あくまでも、保護する目的として、考えられた一つの手段である。おそらく、考えたのは新野警部ではなく、別の捜査二課の人物か、はたまた別部署の人物か。
鐃警は聞いた話をもとに、改めて自分の中で整理すると、犯人に関して
「……あれ? もしかして、今回の事件の犯人って、千帝小学校の関係者ってことですか?」
「可能性は十分にある」
新野警部は今回の犯人に関して、さらに続けて
「文科省側もシロではないと思われるが、一課によると学校関係者の方が考えられると。訳は一課から聞いてくれ。自分も知らない」
「一課って、担当は?」
「千石警部。多分、知らないよな?」
「そうですね……」
To be continued…
異なる部署同士の連携って、色々と難しいの何ででしょうね。同部署内でもありそうな…
次回は、捜査会議ですかね。ストックがないので先のコメントができないの。
小説以外にもやりたいことがいっぱいあるのは、幸せだけど、同時に大変ね。
8/31追記。誤字修正




