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第76話 警視庁特課

 2019年5月6日の夕方。悠夏(ゆうか)は警視庁に戻って、事務処理をしていた。すると、鐃警(どらけい)がこちらに来て

「扉の潤滑油って、いつ届きます?」

 ここ最近、特課の扉が開きにくくなったため、この前スプレー式の潤滑油を注文することになっていたが……

「ちょっと待ってください」

 悠夏はパソコンの画面上にいくつも並ぶアイコンのうち、テキストファイル”memo10-jun.txt”を開き

「この前、総務に聞いたら、交通捜査課が持ってるって話ですね」

「交通か……、遠いなぁ」

 交通捜査課は警視庁の7階。特課は3階。ちなみに捜査一課は4階である。

「同じ庁舎内で遠いと言われても……」

 遠い近いは個人の感覚に左右されるため、なんとも言えないが……。例えば、こたつでぬくぬくと過ごしているときは、手が届かない僅かな距離でも、多くの人が遠いと言うだろう。

「ところで……」

 鐃警は、悠夏の使うパソコンの画面をまじまじと見て

「メモが適当なネーミングですけど……、整理できてます?」

 モニタに映っているだけで、ファイル名が”memo2.txt”といった連番形式や”memo-line.txt”といった何かしらのタイトルを付けたもの、”memoru.txt”とか”memomemo.txt”まである。

「この”memomemo(メモメモ).txt”って、何ですか?」

「これは、内線で連絡のあった直近のことをメモしたもので……」

「じゃあ、この”memora.txt(メモラ)”は?」

「それは、”メモらないと”の略で、口頭で指示されたときのメモですね」

「一見、杜撰(ずさん)な管理っぽいんですけど……」

「杜撰じゃ無いですよ。自分の中で、命名ルールはありますから」

「ただ、それは佐倉(さくら)巡査しか知らないですよね? 他の人が見て分からないと思うんですけど……」

「自分の中で忘れないようにするためのものですので、他人が見るファイルはちゃんとしてますからね」

 悠夏が書いている文書ファイルは、”20190506_荒川区ストーカー被害殺傷未遂事件(中学生探偵の事件簿)_報告書(特課佐倉巡査).docx”と、長いファイル名になっていた。

「彼って、自称じゃないですか?」

「警部、そこですか?」

 てっきり、中学生探偵の事件簿という表現で、ツッコミが入るかと思ったが違った。ファイル名に個人名は使用できないので、流石に”斑鳩川柊哉の事件簿”にはしなかった。

 鐃警は自分の席に戻り、受話器を取ると

「交通捜査課の内線番号……」

 どうやら交通捜査課に、電話しているようだ。番号をプッシュして、しばらくすると

「特課の鐃警です。総務から聞いたんですが、そちらに潤滑油ってありますか?」

 電話の相手から返答があり、「そうです」「お手数ですが、よろしくお願いします」と、電話を切ると

「デリバリーで届きます」

 10分ほどで、扉をノックして潤滑油を持った男性が現れた。ただ、扉が重く途中で詰まり

「あ。もしかして、ここですか?」

 その声で、鐃警は扉の方へ移動し

「そうなんですよ。最近、扉が引っかかるみたいで」

「なるほど。そうしたら、扉を外して、レーンとローラーに潤滑油でやってみますか」

 と、扉を外し廊下に立てかける。悠夏は申し訳なさで、作業を止めて立ち上がり

「すみません」

「いえいえ。それに、警部からは特課と仲良くなれば、手助けがあると聞きましたので」

 確かに、他の課とは、交流も仕事も少ない気はしていた。

「交通捜査課、巡査の葛見(くずみ) 君昭(きみあき)です」

 葛見巡査は25歳で、悠夏と同い年だった。ちなみに、葛見巡査の言う警部とは、交通捜査課の滿井(みつい) 佐武朗(さぶろう)警部。40代の男性。結婚しており、10歳の娘がいるそうだ。アニメやゲームの話に疎いため、娘と話すために、課の若いメンバーから旬な情報を教えて貰っている。

 交通捜査課の話を聞きながら、葛見巡査は潤滑油スプレーで処置をする。すると、その効果で扉がスムーズに開くようになった。

「ありがとうございます」

 鐃警と悠夏はお礼を言い、葛見巡査は「何かあったときは、交通捜査課もよろしくお願いします」と、言い残して去って行った。


 葛見巡査が去って、数分後。軽くなった扉をスライドさせ、倉知副総監が現れた。悠夏が倉知副総監と会うのは、久しぶりだ。

「2人とも、仕事は順調か?」

「倉知副総監。おかげさまで、特課増員もあり、かなり楽になりました」

 続けて、悠夏は臨時増員の期限を確認するため

「増員って今日まででしょうか?」

「本来なら、4月末日だったが、佐倉巡査の捜査が継続していたため、急遽6日ほど延長した次第だ。公安がしょっ引いてきたのが多かったからな。明日からは、3月以前の2人体制に戻るが、3人目を探すのもひとつだな……」

「特課の3人目ですか?」

「すぐには無理だがな。希望はあるか?」

「希望……ですか」

 そんな唐突に言われても、すぐには浮かばない。倉知副総監は

「無ければ、こちらで決める」

「倉知副総監のお墨付きであれば、どなたでも」

「おい。それじゃ、責任重大じゃないか……。まぁいい。仮配属が決まったら、また連絡する」

 それだけ伝えて、出て行った。結局、特課を一時的に増員したけれど、特にこれといって一緒に捜査することはなく、明日からはみんなもとの部署に戻るのだろう。



 日が沈み、ブラインドの隙間から外を覗けば、夜景が見える。雨が降っていないことを確認し、悠夏はそろそろ上がろうと、

「警部。では、そろそろ上がります」

 鞄のショルダーを右肩にかける。しかし、鐃警は黙ったままだ。いつもなら、声をかけてくれるのに。

「警部?」

 近づいても、特に反応が無い。かと思えば

「どうして……」

 と呟くように、体が少し揺れる。

「なんだ……、寝てるだけですか……。ロボットとは言え、まるで人間みたいですね……」

 まるで人間みたい。そう言ったあと、リニアでの会話がフラッシュバックした。悠夏が思いきって聞いた質問。「警部って、人が操作してます? もしくは、実は人間とか……」それに対して、「もしそうだったら、どうします?」と、鐃警の回答は否定では無かった。

 鐃警は小さくボソボソと

わたる(・・・)……のためなら、兄ちゃん(・・・・)が……」

 悠夏は、その寝言をちゃんと聞き取ったけれど、意味は分からなかった。けれども、気になったことについて、今鐃警を起こすぐらいなら、明日聞こうと考えて

「お疲れ様です」

 と、小さく声をかけて、帰路につくのであった。


To be continued…


仕事でメールをするときに、メールソフトに書かずに、一度テキストファイルに下書きとして文章を書いて保存しておくことが多く、あくまでも一時的なモノなので本編中に出た”memora.txt”などのファイル名で保存とか、よくやります。どうせ1日以内に削除するので。

さて、交通捜査課の人物が登場しました。実際に、悠夏達が関わるのは少し先かなと。次回もゴールデンウィーク(2019年5月6日)です。

別作品を書いていたので、『エトワール・メディシン』のストックが無くて、急いで執筆中です。流石に来週分は間に合うかと。その後だな……

いつかのストック増産宣言はなんだったのか

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