表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/295

第74話 永遠の謎

 午後10時50分。石川県知事の指示により、避難用の船が港に到着した。島民の多くが、すでに待機しており、災害派遣要請をもとに、自衛隊が中心となって、誘導している。

 それに混じって、警視庁特課の悠夏と鐃警も島民の誘導をしていた。

「慌てないでください。ゆっくり前の人に続いてください」

 乗船の際は、広浦(こううら)村長が名前を確認して島民のリストにチェックをつける。住民票が五月雨(さみだれ)村ではない旅行者や帰省者については、別で用意した紙に記入を促している。

 キャンプ場の方面から、爆発音が轟く。そのたびに、皆が不安になっていく。

 自衛隊の1人が広浦村長のもとへ駆け寄り

「住民の避難状況は? 逃げ遅れがいる場合、その地区へ隊員を派遣します」

「それが……」

 と、広浦村長はリストを捲って

「西の五月雨老人ホームと、その近所に住む住民が見当たらないです」

 すると、乗船待ちをしていた住民のひとりが

「そういえば、康弘(やすひろ)さんとこ、老人ホームの人たちを避難させるために車を出すって……」

 それを聞いた自衛隊の人は

「それはどの辺りですか?」

「西3丁目」

「ありがとうございます」

 と、情報提供者に謝辞をし、改めて広浦村長に

「西3丁目方面に、隊員を派遣します」


    *


 時刻は午後12時を過ぎ、日付が変わる。ニュースでは、犯人が死亡した可能性があると報道している。民放各局も、この非常事態を見て、特別編成でニュース番組を放送していた。

 自衛隊によって誘導していた、島民や観光客、帰省者の乗船が完了し、30分ほど前に出港した。

 警視庁特課と捜査一課のメンバーは公民館で、SATの状況を(くれない)警視長から聞いていた。

「あれから、長髪の女性と思われていた怪物は暴れておらず、焼死していないか慎重に確認をしている」

「結局、あの異形な被疑者は、何者だったんですか……?」

 鐃警(どらけい)は、誰かがその答えを知っていないかと聞くが、

「残念ながら、分からない。こちらで、有識者に確認を依頼しており、報告を待っている状況だ」

 妖怪や幽霊、怪物……。一体、何だったのだろうか……。

「万が一に備えて、明け方までは待機だ……」

 紅警視長はそう言って、席を立つ。しばらくすると、テレビ電話の画面に、田口(たぐち)警視正が現れて着席する。

「紅警視長は、今回の件について、記者会見の打ち合わせに行きましたよ」

 それよりも、悠夏(ゆうか)が気になったのは、田口警視正が持つ図鑑らしき厚い本である。

「田口警視正。それは……?」

「これか? 妖怪百科事典。もともとは、息子のものだが、なにか情報があればと。……至って、真面目だからな」

 と、小学生向けの妖怪辞典を読む田口警視正。


 その後、明け方まで大きな出来事も無く、時間だけが過ぎていった……


    *


 2019年5月4日の土曜日。明け方のニュースでも、五月雨島の話題で持ちきりだった。朝8時頃から記者会見を行い、被疑者死亡が伝えられた。

 実行犯は、身元不明の女性。年齢不詳。20年前の事件の犯行も同じ人物であると考えており、人的被害は20年前の女子中学生1名が死亡。同じく当時、その兄が意識不明となり、次第に回復。その兄が現在の広浦村長であることも発表された。今回の事件では、男女3名の中学生が一時意識不明。現在、3名とも回復している。そのほかの被害として、キャンプ場の一部が爆発により全壊。水道管が破裂。事務所はガラス破損の被害。

 捜査員は何名かが軽傷ぐらいで、投光器が数機破損。SITならびにSATにより事件の鎮圧を確認。村長の迅速な対応により、民間人に被害が出なかったと説明していた。


 警視庁に戻ってきたころには、夕方で報告の会議に参加した。

 広い会議室だが、出席するのは、悠夏と鐃警、榊原(さかきばら)警部、藍川(あいかわ)巡査、長谷警部補、田口警視正である。

 まず田口警視正は、石川県から帰ってきたメンバーに対して

「遠くまでご苦労であった。本件は、すでに発表の通り、被疑者死亡で送検だ。ただし、焼死により、身元特定は困難。自爆テロ事件として決着がついた。被疑者に関して、科捜研や有識者からの報告としては、人間では無いということだけ……。報道発表では、”日本国籍の女性と推測される”といったあたりで、留めている。被害者の証言で、日本語で話しかけたから。判断材料はそれしか無いが……」

 榊原警部は現地で聞いた情報として、

「今回の件で、キャンプ場はしばらく閉鎖になるそうです。石川県警が要請を出した大学機関が、当分の間、調査に当たるようですが」

「おそらく、永遠の謎になりそうだな……」

 田口警視正は唸りつつ、深く腰掛ける。鐃警が気休めで

「塩でも撒いておきますか?」

 それには、誰も反応せず、沈黙が流れた。仮にも”なにか”が死亡しているのだ。下手な発言で、祟られては困る。

「田口警視正、この後についてですが」

 長谷警部補が今後の予定を確認しようとすると、田口警視正は咳払いをして

「本件については、こっちと石川県警で引き取る。捜査一課と特課は、明日から通常通りだ。あと、榊原警部は休め。勤務時間が長いからな。あと、特課の佐倉(さくら)も。帰省先まで捜査して、休んでないだろ?」

 と、勤務時間を確認しつつ小声で「榊原はまだしも、特課は自分も管轄外のはずなんだが……」

 どうやら、倉知(くらち)副総監にでも言われたのだろうか。

 五月雨島の事件に関して、情報の共有と今後の扱いについて再度説明した後、会議は終わった。

 会議室から出ると、鐃警とともに特課のデスクへと移動する。移動中に鐃警は、前置きをしつつ

「一応、伝言しますけど……、動くのは休暇後にしてくださいね。佐倉巡査がいない間に、電話がありました。電話番号と伝言内容は、メールしてますけど、今回の事件で見てないですよね……?」

「確かに、メールは確認できてないかも……」

「確か、用件としては自称中学生探偵が」

 鐃警の説明ですぐに思い出した。えっと、名前は

柊哉(しゅうや)君ですかね?」

 当時、斑鳩川(いかるがわ) 柊哉という小学6年の男子。年次が変わって、中学1年生になったようだ。会ったときに、名刺を交換していた。

「名前は……、憶えてないです。メールを見ないと」

「用件は、何でしょう?」

「確か、日付指定でしたね。6日だった気が……」

「戻ったら、メールを確認して、帰る前に連絡してみます」


To be continued…


五月雨島の物語は今回で終了です。次回は久しぶりに短い話の予定です。

作中では5月ですが、この話の執筆時点も5月下旬です。一時期、ストックが無くてギリギリでしたが、時間に余裕ができ、ストック増産中。

通常であれば、被疑者の正体を明かすのが、小説としてはセオリーな気もしますが、そう簡単に分からないと思いますし、そもそも『エトワール・メディシン』は一般的な刑事モノと違って、事件の背景や犯人の供述、吐露は二の次三の次ですので……、たぶん。特課の立ち位置的に、事件に最初から最後まで付きっきりではないので、真相はかなり後に知りそうなイメージです。もしくは、聞けずじまいが多そうですかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ