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第69話 被疑者が人間ではない可能性

 石川県の離島、五月雨(さみだれ)島。キャンプ場の事務所に到着すると、榊原警部たちがホワイトボードを使って、捜査会議を行っていた。

「石川県警の内灘(うちなだ)です。佐倉巡査をお連れしました」

「警視庁特課の佐倉です」

 見慣れない顔は、名前が分からない。どこに座ろうかと悩んでいたら

「特課は、そこ」

 と、長谷警部補が窓際の席を指差した。そこには、鐃警が座っており、隣が空いていた。

 榊原警部は、悠夏が座るのを待ってから

「では、ふたりが合流したので、改めて説明します。先ほど、石川県警本部の科捜研から報告があり、被害者3人の衣服から検出された粘膜のようなものに関してですが、人工的なモノや人間のモノではなく、調査には時間を要するとのことです。また質問として、胃液や唾液などの分泌液ではないか、という話がありましたが、報告書を見る限り、そもそも分泌液でも体液でもなさそうだと。なお、植物かどうかは、まだ調査中とのことです」

 と、榊原警部が資料を片手に説明を続けると、隣に立っている警察官が小さく手を挙げ

「自分が現着した際、よく分からない粘液というか、粘膜というか、それがかなりの量であったかと。それこそ、バケツが何杯あっても足りないと思うんですね……」

 話から察するに、五月雨島の駐在さんのようだ。悠夏は確認のために、隣に座る鐃警に小声で

「あの人が駐在さんですか?」

「そうですよ。通報を受けて駆けつけた、第二発見者です。大倉(おおくら)巡査は、3年前から常駐しているそうですよ」

 その後、各捜査員の報告を行い30分ほどで捜査会議は終了した。警視庁のメンバー4人だけ残り、事件の詳細を悠夏に説明する。

「改めて、現在の事件詳細を説明すると」

 榊原警部はホワイトをひっくり返して、被害者の詳細を書いた方を表にする。よくドラマとかでも見る、写真を磁石で止めて状況を整理する光景、そのものである。

「まずどこから話すか……」

 榊原警部はホワイトボードを見て、まずは被害者について話すことにした。

「被害者の3人。石川県内の県立中学校に通っており、部活動の一環で、メンバーの4人でキャンプをする予定だった。しかし、当日の朝、つまり昨日の朝だな。メンバーのひとり、和倉(わくら) (つつみ)君が体調を崩し、欠席。なお、和倉君については、藍川(あいかわ)が聞き込みに出ている」

 そう言われ、藍川巡査がこの場にいないことに気付いた。確かにいない。

「残りの3人。良川(よしかわ) 知樹(ともき)君。沢崎(さわさき) ふみさん。砺波(となみ) (すず)さん。この3人が被害者であり、ふたりは意識不明のままだ。意識があるのは、砺波さんだけ。今日の夕方、ドクターヘリで診療所から、本土の県立病院に搬送する調整を行っている」

「加害者についての情報は?」

「今のところ、砺波さんの証言のみ。キャンプ場には監視カメラがあっても暗闇で判別が難しい。そもそも、現場周辺に監視カメラは1台も無い。当然ながら、目撃者もいない」

 どうやら情報は、期待できそうにも無い。長谷警部補は座ったまま

「五月雨島と本土の連絡船は、1日に1往復。事件発生後、本土からの往路は運行済みだが、この島からの復路は夕方のため、島から外に出るには個人の船ぐらいしか方法は無い。五月雨島の漁港組合にすでに依頼をしていて、船舶の紛失被害がないか調査している。途中報告として、漁師3人が乗った漁船が1隻、行方不明らしい。水上警察や海上保安庁に連絡したが、まだ報告は無い」

「被疑者がその漁船に潜伏して、逃亡した可能性が考えられるということですか?」

「あくまでも、1つの可能性として……だな」

 無事に漁船が発見され、漁師の安全が確保されることを祈るばかりだ。

「それと……」

 長谷警部補はパイプ椅子に凭れつつ

「前提として、本件は被疑者がヒトではない可能性が高い。被害者のひとり、砺波さんの証言と科捜研が手こずっていることから、察するに、害者は同時に3人を飲み込んだと考えられ、吐き出されたのだろうな」

 と、現実ではあり得ないことを普通に話した。沈黙が流れ、

「長谷警部補……、本気で言ってます?」

 鐃警がおそるおそる質問すると

「推理漫画みたいに、そういうトリックを考えて、実践できれば人間が犯人ってことになるな。これができればだけどな」

 そう言って、ポケットに入っていた一枚の紙を机の上に置いた。

「何ですか? これ?」

 鐃警が紙を広げて、中身を確認すると

「拝啓。長谷警部補。先日は焼き肉を奢っていただき、ありがとうございました。今度は銀座のお寿司に行きましょう」

「おい、そんなことは書いてないぞ」

 長谷警部補が鐃警を叱り

「失礼しました。では、改めて。”文献によると、五月雨島には人を喰う女が住んでいたという伝承があり、約20年前の未解決事件と本件が関連している可能性を考慮し、捜査すべし”」

「20年前の未解決事件?」

 20年も前となると、1990年代後半だ。内容も気になるが、

「これって、誰からの指示書なんですか?」

「当然ながら、20年前の未解決事件を知っている人で、この島の村長だ。向こうからこれを渡してきた。それと、その未解決事件の被害者が、村長の妹さんだ」



 1999年7月。五月雨島にて、同様の事件が発生しており、兄妹が被害者だった。兄はその後意識を取り戻したが、妹は意識不明のまま亡くなった。当時、18歳だった兄、現在の村長である広浦(こううら) 晃章(てるあき)と、妹の広浦 真穂(まほ)

 被疑者は女性であり、晃章の証言から似顔を作成した。しかし、島内を捜索してもそんな人はおらず、喰われたという証言は当時認められず、未解決のままである。

 当時の事件資料は、駐在所の倉庫に残っていた。

「これが当時の似顔絵ですね」

 大倉駐在巡査は、資料に挟まれていた似顔絵を悠夏に渡す。紙は変色しているが、似顔絵としては認識できる。

「ありがとうございます」

 悠夏は似顔絵をコピーし、ファックスで警視庁にも送る。送信先は、警視庁生活安全部サイバーセキュリティ課である。変色しているため、見やすく加工してもらえないかと依頼したら、快く引き受けてくれた。

 大倉駐在巡査は、必要な資料だけ取り出すと、倉庫の扉を施錠し、

「砺波さんに、似顔絵の協力を依頼したとき、『よく憶えてないです』と言われたので、その絵を見てどう反応するかですね……」

 似顔絵は、長髪の女性で目が黒く塗りつぶされていた。口元も不気味に口が長く、じっくり見ると怖い。

 周囲は段々と暗くなり、街灯が少ない分、夜中は何も見えないだろう。星や月が見えればいいが、生憎曇り空である。

 張り込みによる長い夜が始まろうとしていた……


To be continued…


なにその未知の粘液、怖い。さて、次回は張り込みの前に藍川巡査からの捜査報告があるかと。

あまり長くする話ではなさそうなので、どんどん進めましょう。

年内のスケジュールを一通り並べてみたら、どうやら12月に100話を達成しそうです。とはいえ、まだ30話ほど 半年ありますし道のりは長そうです。

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