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第68話 五月雨島

 2019年5月3日の金曜日。西阿波市駅から四国縦断新幹線に乗り、瀬戸大橋を渡る。早朝だが、ゴールデンウィークで乗車率は高い。岡山を経由し、終点の新大阪駅へ。新大阪駅では、北陸新幹線に乗り換えて、福井を経由して目的の金沢駅へ。金沢駅で、石川県警の人が待っていると聞いている。

 悠夏(ゆうか)は、北陸新幹線の中でお弁当を食べる。朝ご飯である。昼食は、状況によっては食べられないかもしれない。なお、お弁当は、新大阪駅のホームで目に付いた駅弁である。少し高いが、滅多に食べない駅弁を食べつつ、状況を整理する。


 昨夜。ホテル1階のロビーにあるATMコーナー。銀行や郵便局の4つのATMが並んでいる。悠夏が連絡を受けて急行すると、海部(かいふ)巡査長が城戸(きど)被疑者を取り押さえていた。その近くには、男装するために着けていたカツラが落ちている。

 ロビーには、徳島県警捜査二課と警視庁刑事部捜査二課の人が5人ほどおり、江口(えぐち)巡査が状況を説明していた。悠夏はそこに合流して

「被疑者は、平原さんの貯金50万を下ろさせ、前金として振り込もうとしていたため、振り込みが完了する前に取り押さえました。振込先は、新野(あらたの)警部から提供いただいたリストに載っていました」

「すみません。江口巡査。平原さんは?」

 悠夏は平原の所在を確認すると

「今は、パトカーの車内で事情の説明と、話を聞いています」

「分かりました」

「被疑者の検挙は、特課のご協力があって、達成できました。御礼申し上げます」

「お力になれて、なによりです」

「城戸被疑者については、これから阿北警察署で取り調べを行います。佐倉巡査は、同行されますか?」

「それについては、上に聞いてからですね……」

 悠夏は遠回しに断ろうと思った。友人が被害者のひとりであり、自分の中で公私混同しており、冷静に判断できそうに無い。ロビーの離れたところで、鐃警へ報告の電話をかける。

「警部。被疑者を確保し、このあと阿北警察署で取り調べを行うそうです」

「佐倉巡査も同行ですか?」

「いえ、それは……」

「できれば、別件で明日東京に戻ってほしいそうですよ。徳島県警の取り調べが終われば、身柄を警視庁に移送するか、捜査員を徳島に派遣して、東京の事件の取り調べを行うそうですし」

「別件ですか?」

「特課の増員の件らしいですよ」

 そういえば、多数の協力要請を捌くために、先月から特課の人数を増員して、その期間も延長中である。悠夏が東京に戻るまで、その延長は続ける方針らしい。結婚詐欺に関して解決し、しばらく、四国には戻ってこないだろう。


 東京に帰る予定だったが、今朝になって(厳密に言えば深夜3時)、状況が変わった。実家で睡眠中、携帯電話が鳴る。悠夏は布団に潜り、唸りつつ右手でスマホを探す。なにやら、ふわふわしたものに手が当たり、無理矢理退()かそうとすると、鳴き声とともに、猫パンチされた。痛い思いをしながら、鳴り止まないスマホを取り、布団に潜ったまま電話に出ると

「夜分遅くにすまない。申し訳ないが、始発で金沢まで来られるか?」

「しはつ……? かながわ……?」

「金沢だ。石川県の。事件の通報があり、警視庁に協力要請の電話があった。長谷警部補からの指示で、藍川と鐃警をピックアップして、今、首都高だ」

「……うんてんちゅうのでんわは、あぶないですよ」

「運転は長谷警部補がしている」

「……そうですか。おきをつけて……」

 悠夏は、まだ寝ぼけている。

「事件の詳細だが、現場は石川県の離島、五月雨(さみだれ)島。キャンプで訪れていた、男女3人の中学生が被害者だ。キャンプの管理人が第一発見者。深夜の巡回をしていたところ、花火ができる広場で3人が倒れているのを見かけたそうだ。時刻は深夜1時ごろ。通報を受けた駐在所の警察官が、5分ほどで現場に駆けつけたが、状況が不可思議だった。管理人もどうすればいいか分からず、診察所に電話して対処法を聞いていたため、発見時のままで……。警察官が見た話によると、3人がうつ伏せで重なって倒れており、粘膜のようなモノが覆い被さっていたらしい」

 榊原警部がそこまで説明すると、悠夏の反応が無いため

「佐倉巡査。起きてるか?」

「……ねてませんよ。どっかのまんがのはなしですか……?」

「現実だ。診察所に運び、2時頃に1人が意識を取り戻し、こう証言したらしい。『突然、女性の人が現れ、ふたりが飲み込まれて』。そのあと、本人も被害に遭ったが、気を失って憶えてないそうだ。唯一、その加害者の女性が告げた言葉として、『魂はふたり分あれば十分だわ』、と」

 説明を聞きながら、悠夏は布団から出たが、それでも聞いた話があまりにも非現実的に聞こえ、もしかしてまだ寝ぼけているのではと疑いながら、

「……ん? 犯人は、妖怪ってことですか……?」

「状況が状況だけに、駐在所だけでは対処できず、石川県警に協力依頼をしたが、そっちでも対処できるか分からず、警視庁に協力要請があった」

 悠夏の質問はスルーされ、榊原警部は説明をなおも続ける。

「被疑者は、まだ島に潜伏している可能性が高い。島に上陸したら、また連絡する」

 そう言って、電話を切られた。

「……私は、夢でも見てるのかな?」

 悠夏は、白い猫のマシュにも問いかけるが、マシュは悠夏の方を見た後、眠りにつく。


    *


 金沢駅。高さ13.7メートルの鼓門(つづみもん)で、石川県警の内灘(うちなだ)巡査と合流した。

「警視庁特課の佐倉 悠夏です」

「石川県警捜査一課の内灘 (こう)です。港までここから車で移動して、五月雨島へはこちらで手配した船で移動します」

「よろしくお願いします」

「こちらこそお願いします」


    *


 悠夏が金沢駅に到着した頃、藍川巡査は、石川県警の女性刑事である氷見(ひみ)警部とふたりで、和倉(わくら) (つつみ)君の家を訪問していた。

 玄関先で、堤君の母親は

「堤はまだ体調が戻っておらず、今は自分の部屋で寝ています」

 氷見警部はどうするか悩みつつ、

「そうですか。可能であれば、良川(よしかわ)君たちのことについてお伺いしたかったのですが……」

「良川君って、知樹(ともき)君のことですかね?」

「そうです。いくつか確認したいのですが、よろしいですか?」

「えぇ……」

 母親は状況が分からずに首を傾げ、玄関先だと近所の目が怖いため、リビングへと案内する。


To be continued…


北陸新幹線は金沢までしか開通してないですが、作中では開通済みの設定です。鉄道は度々登場しますが、そういえば飛行機はあまり登場してない気がしますね。藍川巡査たちが鹿児島に行くときに、文中で登場したぐらいですかね。

あと、いつも現地の描写って無いので、鼓門だけ出しました。

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