第66話 詐欺グループ
吉野川沿いのとあるバーベキュー場。車で来た人が多く、アルコールは今回ないものの、久しぶりに会う仲間同士で話が弾む。
平原 亜衣は彼氏について、いろいろと聞かれている。平原は、恥ずかしそうにそれぞれ答えており、阿曇 里穂がそれを面白おかしく弄っている。すると、唯一反応が鈍い悠夏に対して
「悠夏? 何、こういう話は苦手?」
「いや、そういう」
”そういう訳ではなくて”と最後まで言い切る前に、内里 清子が
「なら、悠夏からも質問してあげて」
「それなら……、二人が出会ったときの話とか……聞きたいな」
仕事と混ざりそうで、一瞬聴取のような質問になりそうだった。
「会ったのは……、駅前の交差点で、突然雨が降り出したとき……。私は鞄から折りたたみ傘を取ろうとしたけど、見つからなくて……。そしたら、そっと傘を広げて、自分は濡れても良いからと傘を差しだしてくれた人がいたの。それが」
「それが、亜衣の彼氏なんだよねぇ」
と、最後のセリフを阿曇が奪って、何度も頷く。悠夏は「そうなんだ~」と聞きながらも、頭の中では
(二課の新野警部からの情報だと、被疑者は駅の近くでATMを使用しているのと、駅内で傘を購入していた。被疑者はビニール傘を持っていたのに、わざわざ紳士用の傘を購入していた。ビニール傘は、購入の際にお店の人にお願いして破棄。別に、ビニール傘を普通の傘に買い換えたと考えれば、特には不思議では無いけれど……)
*
数日前。警視庁刑事部捜査二課。4人ほどの小会議室で、新野警部と鐃警、悠夏が事件資料を見ながら話をしていた。
「被疑者の城戸 信太は、単独犯ではなく、詐欺グループの一員であることが分かっています。ただ、活動範囲は広く、一気に全員を検挙するのは難しいかと。芋蔓式に検挙して、全体を明らかにする必要があるかと」
新野警部はそう言って、資料を指し示しながら説明を続ける。
「すでに、岩手県警と長崎県警がそれぞれメンバーのひとりを検挙しており、構成メンバーの傾向がこれです」
新野警部は資料を捲る。そこに書かれた文章を、鐃警が読み上げる。
「メンバーは20代が多くを占めており、大学生や浪人生など、アルバイトにより生活している男性たち。お金に困っており、ネットで知って募集したが、まさか悪いことだとは知らなかった、と供述」
「その募集していたサイトは、すでに無く、応募した後は恐喝によって、指示を受けたとおりに動いていたそうです」
「なるほど」
資料を読み進めると、悠夏が気になった点として
「ここに、”金銭は直接受けとったが、怖くて手を付けていない”って書かれてますが……」
直接受けとったと言うことは、誰かと会っている。
「会ったのは、警察官に扮した男だったらしい。偽物であることは分かっているが……、彼らは警察も仲間だと勘違いし、通報も出来ない状況だったようだ」
家族や友人を巻き込むわけにもいかず、警察に通報すべきだが、犯人グループと接点があるのだと思い込んだとしたら、通報が出来ずに、言いなりになっていた。
「岩手も長崎も、そんな状況下で交番や警察署に駆け込んで、事情を話したことがキッカケだった」
「彼らにとっては、賭けだったってことですか……」
犯人グループと繋がりがあるかもしれない警察へ自首し、相談すること。冷静に考えれば、犯人グループとの繋がりなんてあり得ないが、そう思い込んでしまっていたら、なかなか苦しかっただろう。
「そういうこともあるが、一度犯罪に手を染めた以上、償う必要もある。何より、詐欺によって被害が出ている。事情はともあれ、被疑者の検挙にお手伝いいただきたい」
「分かりました……。ただ、私も聞いた話なので、彼女の彼氏が被疑者と同一人物かも、半信半疑です……」
*
2019年5月2日の夜。バーベキューのあともしばらく話をしていたが夕暮れになり、解散。悠夏は、実家の軽自動車を運転し、前を走る車を追っていた。乗用車を1台挟んで、国道を走っていると。目的の車が左折した。
「ここって、ディナーが有名なホテルだった気が……」
地元に住んでいるから、ホテルで宿泊することはないだろう。全国展開し、有名なホテルのひとつで、別の地方で何度か利用したことがある。彼氏と約束して、ディナーだろうという推測で、そう考えた。地下駐車場に入り、離れたところに車を止める。
エレベーターで平原が7階に上がったのを確認すると、自分はエレベーターで6階まで上り、鉢合わせをしないように、エスカレーターで7階へ。
7階には客室が無く、レストランが3店舗あった。
(どのレストランだろう……)
廊下を曲がると、レストランに入る平原の姿があった。危うく見つかるところだったが、こちらに気付いた様子は無い。
(危ない……、危ない……)
場所は分かったが、中に入ると見つかるおそれがある。そこで……
「佐倉さんですか?」
と、初めて会う夫婦が小さな声で話しかけてきた。
「そうです」と、悠夏も小さいボリュームで返事すると
「二課の江口と」
「同じく、海部です」
徳島県警捜査二課、女性刑事の江口巡査と、もうひとりは男装している海部巡査長だ。ふたりは、夫婦を装っている。
「話は聞いてますので、ターゲットはどちらに?」
「あのレストランです」
悠夏は、平原が入っていったレストランを指差した。江口と海部は確認して、
「分かりました。佐倉さんは、3階の客室で待機をお願いします。何かあれば、こちらから連絡しますので」
そう言って、海部巡査長は、悠夏に客室のカードキーを渡した。連絡先を交換し、悠夏は3階へ。
3階の客室は、シングルルーム。悠夏は落ち着かず、連絡を待っている。すると、仕事用のタブレットにメールが届いた。タイトルは無く、本文に”写真を送ります”とだけ。添付された写真を開くと、スマホで撮った写真が2枚。1枚は、平原が写っており、相手は背中しか見えない。もう1枚を開くと、平原の背中が写っており、相手の顔が確認できた。
「あぁ……」
という落胆と共に、完全な仕事モードへ。ここまでは、不確定だったため、刑事としてではなく、友人として動いていたが、相手が被疑者と同一人物であることを確認した以上、刑事として動かざるを得ない。
悠夏は、”被疑者と同一であることを確認しました”と返信し、スマホで新野警部へ連絡する。捜査二課の代表番号で電話をかけ、
「捜査二課の新野警部へ繋いでください」
そう言って少し待つと、新野警部にかわり
「状況はどうだ?」
「被疑者、城戸 信太と思われる人物である可能性が高く、二課の刑事さんが様子を見ています」
「了解した。場所と詳細を頼む」
悠夏は現状を話し、指示を仰ぐと
「佐倉巡査は、そのまま待機してくれ。被疑者の様子をそのまま注視し、応援要請はこちらから話を通す」
To be continued…
駅前の交差点で云々って、そんなシチュエーションあるんでしょうか。書いておきながら……
次でこの話を終わらせたいな。終わればいいな。前回の話の続きは、これが終わってからです。
今回で、劇中の日付との差が1年以上。この調子だと、来年になっても作中は2019年のままになりそうだな。




