第65話 ゴールデンウィーク
2019年5月2日。ゴールデンウィークのため、新幹線は人が多い。東京駅に着いた榊原警部と藍川巡査は、在来線へ乗り換える。
「東北の次は、千葉ですか。眠いですね……」
藍川巡査が欠伸しながら言うと、
「お前は、新幹線で爆睡してただろ?」
「眠いときは眠いんですよ……。榊原警部は眠くないんですか?」
「気が緩んでないからな」
「それって、自分の気が緩んでるってことですか?」
「自覚してるならいい」
千葉方面行きの通勤電車に乗ると、乗客は観光客が多い。座席はところどころ空いているが、つり革を持っている乗客もいる。
「今日は、1人でも話が出来れば収穫ありですか?」
「そうだな……。一応、アポは取っているし、被疑者に関する裏取りができれば事足りるだろうな」
「そうしたら、休暇ですかね……」
「どうだろうな。新野警部の担当。アレを特課から情報を得た場合、この前の事件が進展するかもしれない」
榊原警部の言う事件とは、悠夏が調べている結婚詐欺と、それに関連しそうな都内で発生した殺人未遂事件である。被害者の女性は、城戸 信太と名乗る人物に襲われたと証言している。
事件発生は4月上旬。詳細な描写は省き、要は被害者が住むアパートの一室で、被疑者と一晩過ごしていたら、ネックレスなどの金目のもの、財布やカードまでもが奪われたとのこと。証言によると、未明に物音で目が覚めたら、丁度、城戸が被害者の通帳を鞄に詰め込んで立ち去ろうとしたため、止めようとしたが、暴力を受けたとのこと。殺人未遂であるから、それ相当であろう。
「他にも、結婚を装い、相手が気を許したときに、金品を強奪することがあったらしい」
「単独ですかね……?」
「どうだろうな……」
詳細は、二課が知っているだろう。今は、別の事件を捜査しており、協力要請があれば対応するが、今のところ、その気配はない。
電車はひとつ、またひとつと駅を出発し、千葉方面へ進む。
*
警視庁特課。鐃警は、事件資料とにらめっこをしていた。そこへ
「1人か?」
と、倉知副総監がやってきた。
「佐倉巡査は、休暇と捜査を兼ねて、地元に帰省しています」
「そうか」
「副総監が、わざわざ何のご用でしょう?」
「少し話をしたくてな」
そう言って、倉知副総監は近くにあった椅子に座る。鐃警は黙ったまま、開いていた事件資料を閉じる。
「特に思い出さないか?」
「特には……。正直、自分が人間だったってこと自体、実感が無いですけど……」
「前世……。その表現が合っているかも分からないが、言い方を変えれば、転生だな」
「あり得ないと思うんですが……。そもそも、副総監は何故、僕が元人間だと思うんですか……?」
「確証があるからだ……。それが無ければ、我々も信じなかっただろうな」
「毎回、”確証”、”確証”って言いますけど、それって何なんですか?」
「……ちょっとでも、思い出してからではないと、まだ言えない」
「それがキッカケになるかもしれないのに、ですか?」
「それを言えば、思い込むおそれがある。純粋に思い出してもらうためには、情報を言うわけにはいかない」
副総監からの情報が嘘でも誠でも、思い出すのと、思い込むのは違う。思い込むことで、記憶を改竄し、肯定することがあってはならない。鐃警も、それを分かっているようだが……
*
同日。午後1時過ぎ。
石川県の離島、”五月雨島”。キャンプで訪れていた中学生の男女3人。部活動の一環である。その割には、顧問がいないが……。
ポニーテールの中学1年の女子、沢崎 ふみは、薪を両手で抱えて持ってきた。
「知樹。まだ火をおこせないの?」
「しゃーねぇだろ。元々、和倉が持ってくる予定だったのに、あいつが今朝になって、体調崩したって連絡があって……」
同学年の男子、良川 知樹は火起こしに失敗して、滅入っているみたいだ。親友の和倉 堤も来る予定だったが、風邪を引いたらしく、今朝になってキャンセルになった。
キャンプ場には、いくつかテントがあり、家族連れや女子会、恋人同士でキャンプをしているみたいだ。あとは、ソロキャンプを優雅に過ごしている格好いいおじさんもいた。
沢崎は薪を良川の隣に置くと、
「男子は、あんた1人なんだから、しっかりしてよね」
「和倉がいるときと、態度が違わねぇか?」
そんな喧嘩腰の2人を見て、
「ちょっと、キャンプ中は喧嘩しない」
と、管理棟から帰ってきた砺波 鈴。どうやら、ライターを借りてきたみたいだ。「知樹君、これを使って」とライターと新聞紙を渡す。
「ところで、今日フェリーに乗る前から、ずーっと、気になってたんだけど、その鼻の絆創膏ってどうしたの?」
砺波は良川の鼻を指差すと、良川は
「いつも甘噛みしてくるのに、今朝はちょっと噛まれたから……」
「飼ってるの、チワワだっけ?」
「そう。なんか今日は出かけるときの様子がおかしかったんだよな……。いつもより、行かないでオーラが」
「いいなぁー。ペット。うちも飼いたいのに、絶対許してくれないんだよねぇ」
砺波はうらやましそうに感じている。そんな会話をしていると、ライターで着火に成功し、新聞紙と薪を置いて、ようやく焚き火になった。良川が一仕事を終えた気持ちになったが、沢崎が非情にも
「私達のテントは設営したから、知樹は自分の分の設営、頑張ってね」
「1人で、かよ」
「当然でしょ?」
その夜、花火をするために花火専用エリアへ移動。道中は街灯が少なく、自分達の持つ懐中電灯だけが頼りだ。いざとなったら、スマホもあるけれど、暗闇で少し怖さを感じた。
花火専用エリアに人影は無く、バケツに水を入れて、3人で花火を楽しんだ。花火の最中は、怖さなど微塵も感じず、スマホのカメラで写真を撮りつつ、風邪でダウンしている和倉に”早く元気になれよ”というメッセージとともに、写真を何枚か送った。
良川は、バケツに突っ込んだ花火のゴミを、専用のゴミ入れに移す。沢崎と砺波は、2人で話し込んでいる。
分別を終えると、急に声をかけられた。女性の声だ。良川はびっくりしながら、声のした方を見ると、長髪の女性が
「花火をしてたの?」
と声をかけてきた。良川は「そうだけど……」と返事をすると……
To be continued…
先週に引き続き、忙しさが落ち着くことも無く、今回も”更新すること”を最優先にして、なんとか間に合ったものの、予定外の引き延ばし中です。本来は前後編ぐらいかなと思っていたものの、あまり時間がなくて、ストーリーを組み立てる余裕も無く、こんな状況になってます……。
次週も影響は続きそうです。『黒雲の剱』は優先度を下げ、こっちの毎週更新はなんとか繋ぎたい。
そんなこんなで、5月の予定も少なくとも上旬は厳しそうだなぁ……。5月下旬は代休取ろ。




