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第60話 盗難被害の車

 香我美(かがみ)警部補は免許証の番号を控えると、「確認しましたので」と、伊上(いがみ)に返却する。

「中古で購入されたそうですが、購入したお店と時期を教えていただけませんか?」

「自分が買ったわけではないので……」

 伊上は盗難車の購入先を知らないか、もしくは隠しているのだろうか。

「この車が盗難車って、どうやって分かったんですか?」

 少し話をずらすために、伊上がこちらに質問してきた。香我美警部補は

「それは行政経由で……。ある日、市役所宛てに『山中に車が放置されている』と連絡があり、市役所から警察に通報という流れです。市役所からナンバープレートと車種に関して、情報をもらい、ナンバー照会を行いました。すると、盗難届が出ている車であることが分かりました。そして、今日現地に来たみたところ、偶然持ち主の伊上さんを見かけたわけです」

 これは、本当のことだ。この道を利用している住民から、市役所に電話があった。偶然会ったというのは、真っ赤な嘘だが。実際には、Nシステムこと、車両ナンバー自動読取装置により、運転しているのが、伊上であることも調べている。さらに、助手席に廣村(ひろむら)もしくは、(せき)と思われる男が同乗していたことも。

 香我美警部補は、こちらの流れに戻し、

「では、車検証を見せていただけないですか?」

「車検証……」

 伊上は、ようやく、このタイミングで気まずいような表情をした。これまでは余裕そうだった。どう動くのか観察していると、ポケットを触り始め

「すみません……。電話が……」

 伊上のスマホは、バイブレーションしていない。相手から電話がかかってきたのではなく、それを装って、自分からかけるつもりのようだ。香我美警部補は、赤野(あかの)巡査の方を向いて確認すると、赤野巡査が頷いたため

「どうぞ」

 と、電話に出るのを許可した。実際には、これからかけるのだろうが。会話が聞こえないように、伊上はスマホを耳に当てて離れる。

 赤野巡査は、香我美警部補にだけ聞こえるように小声で

「警視庁の方と合流して、突入したみたいです」

「おそらく、伊上は連絡が取れなくて焦るだろう。もし逃げる素振りをしたら、すぐに確保する。本当は、向こうからの連絡を待った方が良いが……」

 向こうとは、突入組のことである。予想していたよりも、早い突入で助かった。察するに、警視庁のメンバーを引き連れた佐川(さかわ)巡査が、吾桑(あそう)警部たちと合流して、即座に突入したのだろう。


    *


 インターホンを鳴らし、扉を開けて出てきたのは、碩 成敏(なりとし)だった。家の中なのに、帽子を被っている。

「どちら様?」

 吾桑警部が警察手帳を見せて、

「渡川警察署 捜査一課ならびに」

 悠夏も吾桑警部に倣い、警察手帳を見せ

「警視庁 特課」

 それに続いて、田旗(たばた)巡査も警察手帳を見せ

「同じく、組織犯罪対策部です」

 警察手帳を戻し、吾桑警部が捜索差押許可状を見せ、

「被疑者に対する、自動車窃盗の容疑について、捜索及び差し押さえを行う。また、伊上(いがみ) 彰代(あきよ)廣村(ひろむら) 達夫(たつお)(せき) 成敏(なりとし)。3名には署で話を聞かせてもらう」

 鐃警(どらけい)具同(ぐどう)巡査が先陣を切り、突入する。碩は慌てて

「おい、勝手に何するんだ!?」

「何って、家宅捜索ですよ」

 鐃警はそう答えて、奥の部屋へ。奥の部屋には廣村がおり、こちらも驚きを隠せず、電話が鳴っているものの、出るよりも捜索を力尽くで止めようとし、鐃警が

「公務執行妨害になりますよ」

「はぁ? お前達が勝手に不法侵入してるんじゃないのか?」

「令状はあります」

「何の?」

「自動車窃盗の容疑です」

 鐃警は廣村の後ろに、地下への階段があることに気付き、

「すみません」

 といって、階段を下りる。廣村が止めようとするが、具同巡査が先に廣村の腕を掴み、

「捜査の邪魔はしないでください」

 鐃警が階段を下までおりると、扉があった。悠夏が急いで駆け下り、

「警部。先ほど連絡があり、車検証が照会済みの情報と不一致であり、偽装が判明。道路運送車両法違反容疑で、伊上を逮捕したそうです。それをもとに、廣村と碩も逮捕し、連行します」

「佐倉巡査。この扉の先、気になりますよね?」

「そうですね……」

 扉は錆びており、ドアノブのつまみで鍵をかけているようだ。悠夏がドアノブに手をかけると、中からドンと音がした。

 鐃警と悠夏は互いに見合わせ、つまみを回して解錠。軋む音を立てながら扉を開くと、

「誰か!」

 と、口元の布を自力でずらして叫ぶ。どうやら監禁状態だったみたいだ。

 悠夏と鐃警は急いでかけよると

「待って! その扉は」

 そう言われて、悠夏は急旋回。閉まりかけた扉に右足を差し込み、完全に閉じるのを阻止した。

「もしかして、オートロックですかね……?」

 鐃警が推測で言い、悠夏が阻止した扉を目一杯開いて、自分自身で抑える。手先が器用ではないので、結び目を解くのは悠夏に任せるようだ。

「警察です。大丈夫ですか?」

「えぇ」

 悠夏が固い結び目を解く間、扉を押さえている鐃警が身元の確認として

「あなたのお名前は?」

図子(ずし) 真海(まみ)です。この建物のオーナーです。掃除をしに来たら、見知らぬ人たちが占領していて……」

 図子は37歳の不動産経営者である。清掃でこの建物に来たのは、今朝だという。榊原警部と川喜多巡査が転落したのは、昨夜で、搬送が今朝。つまり、その間は誰も張り込んでいなかったのだ。

「住居不法侵入と監禁容疑も追加ですか……。佐倉巡査。あっちの未成年略取誘拐と監禁、放火、殺人の容疑の捜査は、ここでの事件をまとめてからの方がよさそうですね……。一度整理しないと、取調べの時間も限られてますし……」

 思った以上に容疑が多くなり、ひとつひとつ区切りをつけ、次の罪状で再逮捕して勾留(こうりゅう)期間を延ばさなければ、捜査しきれないだろう。


 その後の捜査で、盗難車であることは3人とも知らなかったようだ。ただ、購入先についても3人は知らないと言い、譲渡されたのかどうかについて問うと、黙秘した。逮捕した3名以外に、指示を出している人物がいると推測される。携帯電話の通話履歴から、頻繁に連絡を取っていた番号を調べるが、一般的な電話ではなく、匿名利用が可能な通話アプリを使用しており、アプリの運営は海外だった。情報開示を運営会社に依頼したが、そちらの法律は適用されないと一貫して、それ以上の情報は得られなかった。


 次の週末、4月20日の土曜日。悠夏は西阿波市駅で、待ち合わせしていた。伊上被疑者たちに関して、もっとも関連する彼らを連れて、渡川警察署へ向かうためだ。


To be continued…


渡川警察署が事前に色々と下調べしており、スムーズに進んでいるような印象ですかね。

道路運送車両法違反とか、罪状を調べるのが大変だ。特に、組対五課で”廃忘薬”を何罪で検挙すればいいのか、分からずに調べ中。薬物だけど、法律的には薬物全般ってのはなさそうな気が。別の罪状で検挙ですかね……? 危険物とか?

さて、続き物ですが、次回は別の話が始まります。平行して進むわけでは無く、割り込みですかね。

この話の続きは、1話飛んで62話で。


追記(2021/03/31)。

第115話を執筆中に、拘留だと意味が違うことを知り、勾留に修正しました。あと誤字修正もついでに。

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