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第53話 憑依と霊

 数字そのまま”ニーヨンロク”と呼ばれる国道246号線を南下し、若葉警察署へ向かっている。東名高速道路を走るか悩んだが、君島(きみじま) 舞彩(まい)がパニックになって車から降りようとしたときに、高速道路だと非常に危険であり、後ろを走る藍川巡査が安全を確保できるか難しい。一般道なら、速度が遅いし不測の事態でもリスクは少しでも下がるかと。それに、金曜日の18時過ぎは帰宅ラッシュで渋滞だろう。

 舞彩が起きて、「あれ? お姉ちゃんは……?」と、いないはずの姉について聞いてきた。川喜多(かわきた)巡査は、暗い車内で資料を開き、君島の家族について確認したが、やはり姉はいない。長谷(ながたに)警部補はバックミラー越しで、

「姉というのは、誰のことかな? 教えてもらっても良いかな?」

「兄さんのコレ」

 バックミラー越しで、舞彩の手元を確認すると、小指を立てていた。今の子でも、そんなジェスチャーをするのだなと思いながら、

「彼女さんか」

「へぇー。おじさんには伝わるんだ」

 思わず川喜多巡査は吹き出した。直後にしまったと思い、横目で見ると、おじさん呼ばわりされた長谷警部補が(にら)んでおり、震えた声で「すみません……」と謝って、萎縮(いしゅく)する。

「今の子だと、伝わらないよ」と言い、舞彩は自分の小指を見て「あとで爪切らないと」とも呟いていた。

「ところで、かなり冷静だな」

 長谷警部補は、舞彩がパニックにならずに、起きてからずっと落ち着いており、かなり不思議に思っていたようだ。

「憑依されてても、憶えてるから」

「なるほど。つまり、現状は把握しているということか。ならば、事件のことも被疑者のことも」

 バックミラー越しに、舞彩を見ると静かに頷いた。長谷警部補は、先ほどの話に戻し

「お兄さんの彼女さんは、どんな人なんだ?」

「とても、兄さん思いだった。私と違って、兄も凄く優しくしてた」

 目の前の信号が赤になり、長谷警部補はブレーキを少し強めに踏んだ。停止線に止まり、

「違って……?」

 気になるワードだった。他にも、過去形であることも気にはなるが、順番に聞く。

「兄さんは、私のことを毛嫌いしてたから……。それがすごく辛くて、他の人には優しいのに、自分にだけ強く当たってた。ある日、精神的に苦痛になって、友達にも相談できずに、気付けば見えないモノがみえるようになって……」

 黙って聞いていた川喜多巡査だが、その手の話は苦手で身震いし、

「み、見えないモノですか……?」

 精神がボロボロになり、見えないモノが見えるようになったということだろうか。病気とも捉えられる。

「兄さんが変わったのは、お姉さんが死んでから……。それまでは、私にも優しかった。でも、あのころの兄さんはもういない……」 

 交差点の信号が青に変わり、進み出す。

「憑依体質が強くなったのも、それから。でも、憑依したのはお姉さんだった」

 さらに詳しく話を聞くと、彼女が憑依して兄を驚かせた。兄は疑っていたが、心にぽっかりと空いた穴を埋めるように、すぐに受け止めた。生前、幼馴染みで両想いだった。中学の頃に告白して、付き合い始めた。兄は私を妹としてではなく、彼女として接していた。ときどき、別の霊が影響し、それを見破るために2人で偽りの日記を考えついた。ただ、憑依したままの生活がずっと続くわけもなく……


    *


  取調室を一時退室した悠夏(ゆうか)が、再び戻ってくると

「警部。新たな情報が入ってきました」

 新たな情報とは、舞彩が話した内容である。川喜多巡査が電話で悠夏に連絡したのだ。

「警部が言っていた、憑依に関してですが……、ある時期から強くなり、被害者が憑依するまでは、基本的に1人の人物が占有していたようです。それも、知っている人だから、離れても心配ないと」

 1人が占有していたことで、悪霊が憑くこともあまりなく、ずっと同じ状況を保っていた。ただ、問題は半年前のことだ。

「憑依していたのは、あなたの彼女ですね。ただし、半年前に彼女が妹からいなくなった」

「いなくなってない。連れ去られた」

 霊を連れ去る……。どう反応すればよいものかと困ったけれど、なにも考えずに思った通り言うことにした。もはや、ありえないことが前提になっている。憑依と霊が存在するという、どう考えても事件資料にそのまま書けないことが前提だ。傍から見れば、妄想だとか精神的な病気だとか言われるだろうか。

「つまるところ、磯貝(いそがい)に攫われたと?」

 悠夏はそう聞いたが、光也(みつや)はまた黙り込んだ。今度は、話を聞いた鐃警が

「確認ですが、光也君が受け子としての最初は、半年よりもっと前ってことですよね? そうしないと、磯貝 潤一(じゅんいち)という名前が、日記に出てこないはずですよね? 自分の推測ですが、ピザ屋のバイトと受け子として犯行は両立していた。ある日、彼女が受け子のことに気づき、日記にも名前を忍び込ませた。だが、受け子であることを知ったが故に、狙われた。光也君を脅すために、誘拐したということを考えたのですが……」

 鐃警の推理は当たっているだろうか。悠夏は支給のタブレットに通知があり、タブレットを取り出して届いた資料に目を通す。

「彼女の名前は、大極(おおぎわ) 舞彩(まい)。妹と同じ名前だったんですね……。趣味の登山中に、不慮の転落事故で意識不明になり、病院に搬送後、息を引き取った、と。前日の雨で地盤が緩く、足元が崩れて転落」

「本来は、俺も行くはずだったんだ……。だけど……」

 急な呼び出しで行けなくなり、キャンセルしてしまった。その際、大極は「いいよ。下見って事で、1人で行くから。今度は一緒に行こうね」それが、生前の最期の言葉だった。

「詐欺師の受け子は、もっと前から強制されていた。父親が残した借金が原因だ。家族の誰も知らなかった」

 長かった沈黙を破り、光也が自供を始めた。

「磯貝 潤一なんて人物はいない。だって、俺が呼ばれる偽名だから……。仁志銘(にしな) (さい)も偽名だ。……言えば、必ず捕まえてくれるんだよな? ……首謀者はピザ屋の店長だ」

 マジックミラー越しに聞いていた栗平(くりひら)警部が、すぐに捜査員へ連絡する。鶴川(つるかわ)巡査部長と羽沢(はざわ)巡査長も、情報を他の捜査員へと展開する。

 首謀者を話した光也は、背もたれに寄りかかり

「霊なんて、誰も信じないと思ったんだけどな……。どうせ話しても、妄想だとか病気だとか言われて……」


 後日の捜査で、呼び子の少年少女は同じ店のバイトを経験していた。半数は、光也と同じように借金の返済絡みで。店長は、その日も店で働いており、逮捕に至るまでは早かった。さらに、逃走しようとした副店長も共犯の容疑で逮捕。店長が「お前は逃げるのか」と叫んだことで、共犯容疑が濃くなり逮捕となった。光也は、辻埜(つじの) 直斗(なおと)さんの殺人容疑で送検。事件は幕を閉じた。


To be continued…


犯人がピザ屋の店員は、作者も予定してませんでした。相変わらず、流れに身を任せて書くので、今回のように、犯人がギリギリまで決まってないことはあります。せめて、名前を決めておけば良かったな。ちなみに、途中で証言したのは店員なので、店長と副店長が警察と接触したのかは不明です。ただ、勘づいたら店におらず、逃亡してそうな気がしますが。

描写し忘れましたが、取調室の一角には盛り塩がされていたとか、いなかったとか……。

光也が自供したことで、急に終わりましたね。かなり前から受け子をしていたってことは、おそらく中学からってことですかね……? そのあたりは、特課ではなく若葉警察署が捜査するかと。光也が妹の舞彩を毛嫌いしていたのは、巻き込みたく無かったから、それとも単純に彼女と同じ名前だからなのか……、そのあたりは、本人にしか分からないのでしょう。そして、辻埜は成仏できたのでしょうか? アフターストーリーやったとしても、そこまで詳しくやらない気がするので、ご想像にお任せするかもしれません。いずれにせよ、次回の冒頭でもう少しだけ話がありそうです。

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