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第51話 手紙

 2019年4月5日。警視庁の取調室。自分への質問は少なく、ほとんど刑事同士で話している。思っていた取り調べと違うけれど、この状況はどうすれば……

「君がいた場所。時間。被害者が持っていた手紙に、その住所と時間が書かれていて、一致しているんだが……? 手紙を盗み見でもしたのか?」

「いえ……、分かりません……」

 目が泳いでいるのは、自分でも分かっている。だから、顔を伏せて、分からないようにする。

「記憶にないのか?」

 長谷(ながたに)警部補は、女子中学生の君島(きみじま) 舞彩(まい)に問いかける。しかし、現在は被害者の辻埜(つじの) 直斗(なおと)が憑依しており、本人ではない。

「ないです……」

 すると、長谷警部補は「そうか」と言った。どんな表情をしているのかは、自分が顔を伏せているため分からない。さらに、長髪が視界を隠している。沈黙が続き、長谷警部補は

「中学の友達も心配しているぞ。特に、磯貝(いそがい) 潤一(じゅんいち)という少年。君のことを心配していた。ただ、事情が変わって、彼にも疑いがかけられている。容疑は幇助だ。ただ、君はあの場にいたんだろ? 君の証言で、彼を救えるかもしれない」

 長谷警部補は、内ポケットから写真を取り出し、机の上に置いた。その写真を見て、事件現場にそんな真面目そうな少年はいなかった。確か、磯貝は舞彩の片思いの少年だ。これは証言しておかないと、この子に申し訳ない。そう思って、

「磯貝君は、現場で、見てないです……」

 そう答えると、また沈黙が訪れた。長谷警部補も川喜多(かわきた)巡査も、何も言わない。

 長いような短いような静寂の時間が流れ、川喜多巡査が

「この写真……、違う人ですよね……?」

「えっ……?」

 驚いて、声が出た。この少年は磯貝君じゃないのか? 状況が理解出来ないまま、長谷警部補が全然違う話を始める。

「この手紙は、事件前日の4月3日に、被害者が喫茶店の店員から受けとった手紙だ。住所しか、書かれていない。店員は、ある人物から受けとっている。3月25日に、君島 舞彩が渡していた。本来は、別の人に渡す予定だった。その人は、毎週水曜日に現れ、決まって同じテーブル席に座っていたそうだ。ただ、4月3日の水曜日は、現れなかった。そして、偶然被害者の辻埜 直斗がそのテーブル席に座った。被害者は、とばっちりだ。偶然、そのテーブル席に座ったが故に、刺された……」

 俺はとばっちりで刺されたのか? とんでもない不運じゃないか……。

「舞彩の部屋に置いてあった日記についても、すでに調べている。磯貝 潤一は中学生でも、舞彩の片思いの少年でもない。君島兄妹を操っていた黒幕だ。若葉区警察と警視庁が、所在を突き止め、そろそろ逮捕されるだろう。兄の光也(みつや)は、バイトをしていたが、実際は磯貝 潤一のもとで働いていた。光也が以前働いていたしていたピザ屋は、半年前に辞めている。丁度、舞彩の死亡偽装があった頃だ。妹を人質に取られ、脅迫されていた。おそらく、光也に妹の死亡宣告を伝え、それは嘘だと言い、指示通りに動けば妹を返すといった手法だろう。この方法については、ほとんど裏が取れている。ちなみに、磯貝と光也は、ピザの配達先で会っており、そのとき磯貝がかなり悪質なクレームを言ったらしい。そのあたりについては、ピザ屋の店員が証言している。磯貝のバイト内容は、受け子だ。他にも受け子の少年少女がおり、現在保護している」

 なお、長谷警部補は、悠夏たちの報告をもとに話している。しかし、君島 舞彩を保護していることは、まだ報告していないようだ。これもD要請だろうか。

「さて、君を若葉区警察署へ引き渡す前に、もうひとつ。君島 舞彩は、子どもの頃から霊感が強く、幾度となくその影響を受けていたらしい。残念ながら、私には霊感がないので、どういう状態なのかは理解出来ない。ただ、ここまでの舞彩本人とは思えない受け答えと、ある日境に服装や行動、喋り方が変わっており、信じるしかないだろう……」

 長谷警部補は、咳払いをして真剣な表情と真面目なトーンで

「被害者の辻埜 直斗は、病院で死亡が確認された。そして、今、成仏できず君島 舞彩に憑依している……。霊とかオカルトじみたものは、あまり信じないのだが、実際に目の前で起こっている以上、認めざるを得ないだろう……」

すると、黙っていた川喜多巡査が少し怖がりながら

「そんなこと……ないですよね? 君は、舞彩ちゃん本人なんだよね?」

 そういえば、川喜多巡査って、晏郷(あんきょう)神社のときに怖がっていた。おそらく、こういう類いの話は苦手だと思われる。

 すると、舞彩が突然椅子から倒れ込んだ。自分の死を聞いた瞬間に、舞彩の体から出た自分は、浮遊体として取調室を見下ろしている。自分は死んだのか……?


    *


 横浜市若葉区警察署。悠夏が事件資料を持って、捜査会議を行う会議室へと移動していると、電話が鳴った。長谷警部補からだ。

「はい。佐倉です」

「長谷だ。被疑者の妹を保護した」

「本当ですかっ」

「あぁ。ついでに除霊もしている」

「……じょれい?」

 一瞬漢字に変換できず、悠夏は長谷警部補の言葉に耳を疑った。

「君島 舞彩は、憑依体質だった。そう報告があったはずだ」

「ですが、除霊って何の霊を……?」

「被害者だ」

 長谷警部補はストレートに言った。悠夏は足を止め、廊下の窓際で壁に凭れて、考え込む。ようやく理解して、

「被疑者が、被害者の妹に憑依していたって事ですか?」

「そういうことだ。今は、憑依が解けて気を失っている。兄妹が考えた、嘘しか書いていない日記の内容で判断した。被疑者は、おそらく浮遊霊となって、もしかすると被疑者のもとに現れるかもしれない。十分に注意してくれ」

「注意って、どうすれば……。相手は霊ですよ?」

「う~ん、そうだな……。盛り塩だな」

「……それで防げればいいんですが……」

 一応だが、2人とも、ふざけているわけではない。真面目に話している。……たぶん。傍から見れば、滑稽だが。

 舞彩は、憑依体質であり、昔から霊の影響を受けることが多かった。そのため、嘘の作り話を日記にして、わざと読みやすいところに置いていた。取り憑かれたときに、その日記で舞彩になりすますことが多く、兄の光也はその内容を話したときは、取り憑かれていると判断でき、これまで舞彩を救ってきたらしい。ただ、どうやって除霊したかについては、兄妹のみぞ知る。


To be continued…


1月に終わるかなと思ったら、もう少しだけ続きそうです。

晏郷神社は、第22話に登場したところですね。気付けば、『エトワール・メディシン』の話数が50話を超えました。作中は12月~4月の5ヶ月分。どこかでキャラをまとめた総集編というか、キャラのリストみたいなものを設けようかな。話数がどんどん増えると、登場人物の管理もしておかないと。


追記。被害者と被疑者を間違えてた部分を修正。

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