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第5話 年末の捜査会議

 犯行グループは、蜉蝣(かげろう)と名乗っており、警視庁へ何度か電話をかけ、4人の子ども達と幼稚園教諭を誘拐していると話していた。すでに、事件発生から1週間以上が経過しており、一刻も早く救出をしようにも、蜉蝣からの電話がない。捜査としては、これまでの現場近辺での調査を継続する。

 そして、12月26日の捜査会議にて、事件の全体像が分かってきた。

 特課の悠夏と警部は、いつもと同じ最前列である。自由席なのに、初回の席順が固定化するのはなぜなんだろう。みんな同じ席に座りたがる。そして、今日は捜査一課と合同捜査した情報を特課が説明を行う。そのため、悠夏は緊張が高まっているようだ。

「では、12月26日。『港区連続誘拐事件 ~蜉蝣の策略~』について、捜査会議を行う」

 一体、だれがそんな捜査会議名を決めてのだろうか。サブタイの主張が強い。まるで、映画やドラマのタイトルみたいではないか。

「まず、特課から重大な報告がある」

 参事官から振られて、悠夏と警部が席を立つ。悠夏は唾を飲み込み、

「特課から捜査一課との合同捜査の結果を報告()()()

 しまった、噛んだ。しかも、みんな無反応だ。警部がフォローで

「噛みました?」

「失礼しました」と、悠夏は咳払いして、額の変な汗を手で拭う。

「今回の事件、まず被疑者の身元ととして、蜉蝣の3名は港区の花火職人でした。浅羽(あさば) 泰敏(やすとし)さん、58歳男性。登根(とね) 雅司(まさじ)さん、39歳男性。有塚(ありつか) 悠未奈(ゆみな)さん、30歳女性。全員、前科はありませんでした。登根さんと有塚さんは、恋人同士で、浅羽さんは、有塚さんの里親とのことです。有塚さんの家族は早くに亡くなり、近所付き合いのあった、浅羽さんが親代わりになったそうです。3人とも職場は同じで、花火の製造を行っている小さな町工場ですが、12月20日から年末年始のお休みだそうです」

「事件発生日か……」

 参事官の言うとおり、12月20日が事件の発生日である。

「20日の仕事納めの後、17時半に工業を車で出て、18時過ぎに現場付近にいたことが分かりました。大通りから狭い路地を抜けた先のため、人通りは少なくところで、浅原さんたちの帰宅ルートでした。登根さんが浅原さんと有塚さんの家に行くのは、よくあったそうで、職場の人は何ら不思議には思ってなかったそうです。事件発生当時、誘拐された(さとる)君と(たかし)君、教諭の稲月(いなつき)さんのほかに、6歳の三輪(みわ) 明菜(あきな)ちゃんもいたことが分かり、明菜ちゃんから当時の状況を聞くことが出来ました。怖いスーツの男の人たちが、迫ってきて、明菜ちゃんは3人の協力があって、物陰に身を隠すことで、その場を逃げることが出来たそうですが、先生、つまり稲月さんがその男性たちに捕まり、悟くんと隆君は別の大人に捕まって、車に乗せられたとのことです」

 少し会議室がざわつき始める。

「組対五課からも報告があります」

 と、宇野沢警部が立ち上がる。

「明菜ちゃんが証言した、怖いスーツを着た男は、取引を行っていた(あきない)組と剛謁(ごうえつ)組といわれる犯罪組織の一員だと考えられます。22日も、同じ組同士で取引しているところに、誘拐事件が発生しています。なお、どちらの組織も小規模で比較的新しい組織ですが、違法な取引を行っており、証拠が揃うのも時間の問題かと」

「わかった。組対五課は引き続き、2つの組織を念入りに調べてくれ」

 小渕参事官は、そう言ったあと、「続けてくれ」と、再び悠夏に話を戻す。

「12月25日、港区のスーパーの防犯カメラに、有塚さんと思われる人と一緒に、(つかさ)君と結紀(ゆき)ちゃんが買い物をしている様子が映っていました。映像から調べたところ、大人3人と子ども4人の食べ物としては十分な量を買い込んでおり……」

「ちょっと待て。大人3人? 4人の間違いじゃないのか?」

 小渕参事官が割り込んだように聞いたのは、教諭がいるのであれば、4人になるはずである。

「今日までの捜査により、捜査一課と特課が出した結論は、取引を偶然目撃してしまったため、商組か剛謁組に誘拐されそうになったところ、悟君と隆君は蜉蝣によって救出されたが、稲月さんは連れ去られてしまった。そのため、蜉蝣は次の取引の現場を張り込み、現場に偶然居合わせた宰君と結紀ちゃんを、同じように救った。つまり、蜉蝣と子ども達が協力して、商組と剛謁組から稲月さんを救出しようとしていることが考えられます」

「その推測は確実だと言えるのか!?」

 小渕参事官が思わず立ち上がって叫んだ。どこからそんな推理に行き着くのだろうか。警察は探偵ではない。捜査会議は臆測で話す場ではない。そうでなければ、捜査に混乱を来す。

 悠夏は警察手帳をパタンと閉じ、

「裏は取れています。それに、誘拐された4人の子ども達()、無事であることも確認済みです」


 ここからは、組対五課が中心に捜査を展開する。しかし、表向きは、誘拐犯である蜉蝣と交渉を続けている。と言っても、蜉蝣からの連絡はない。

 報道規制は継続。報道規制とは、協定によって進行中かどうかを含まず、事件について貴重な情報などが外に出ないように、報道しないことを約束することである。

 あと、子どもたちの家族にどこまで話すかだが、本当のことは隠した。しかし、無事であることを伝えるため、スーパーの防犯カメラの映像を見せた。他にも、映像が見つかれば、その映像を確認してもらった。

 12月27日に、蜉蝣から、大晦日に連絡するという一方的な電話があった。そして、12月31日の大晦日、午後6時過ぎに急展開を迎える。

「入電です!」

 一同に、緊張が走る。岩橋警部が電話を取ると、

「例の物を受け取る。場所は、高輪ゲートウェイの3番線ホームだ。21時までに来い。受け取りが出来ない場合は、駅とその近辺を爆破させる。以上だ」

 電話が切れると、会議室がざわつく。高輪ゲートウェイ駅は、山手線と京浜東北根岸線の新しい駅であり、港区の品川駅と田町駅の間にある。

「高輪ゲートウェイ近辺を緊急配備!逃走に山手線と京浜東北根岸線が使われる可能性がある。品川駅と田町駅にも配備を忘れるな」

 参事官達はすぐに近辺を走行するの鉄道会社へ連絡する。近辺を走行するのは、駅に停車する山手線と京浜東北根岸線以外に、東海道新幹線や総武線(横須賀線)、東海道本線(東京上野ライン)、羽田空港アクセス線が走行するほか、都営浅草線(京急本線)の泉岳寺駅が近くにある。少し離れた位置には、モノレール羽田空港線や都営三田線、地下鉄南北線、リニア中央新幹線があり、こちらにも事件の連絡を行う。

 なお、高輪ゲートウェイの3番線は京浜東北根岸線の上り、東京・大宮方面である。反対側の4番線は下りで、品川・横浜方面である。また、すでにホームドアを完備している。

 捜査員がドタバタと慌てて移動するなか、特課の2人は椅子に座ったまま、周りを見る。悠夏は、どう行動しようか迷っているようだ。警部は何を考えているか分からない。ロボットだから、表情とかもそんなに分からないし……。ただ、実は目の部分は液晶ディスプレイみたいで、表情はいろいろと出せるらしい。そんな表情、今のところ見たことが無いけれど。

「警部、私たちも港区に移動した方がいいですかね?」

「知ってる? さっきからずっと、参事官がこっちを見てるんだけど」

 警部に言われて、小渕参事官の方を見ると、目が合った。凄くこっちを見ている。

「何でしょうか?」

 悠夏は座ったまま小渕参事官に聞くと、

「重要なミッションを与える」

 そう言われて、もしかしてと思ったが、もしかしてだった。


To be continued…

実在する場所で、事件を展開するのもアレなので、

2018年に存在しないところを中心に、事件を展開します。

フィクションなので、いろいろと詰め込んでみました。

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