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第48話 犯人の心当たりを探る4日間

 4日間。厳密に言えば、もっと短いけれど、そんなことはどうでもいい。2019年4月1日、正午過ぎ。冷蔵庫を開けると、綺麗に整理されて、手書きで4/1の付箋が密閉容器に貼られている。中身は、どうやら昼食用のご飯のようだ。妹思いの良い兄なのだなと思いつつ、容器を開くと炒飯(チャーハン)だった。

 まだテレビは点けっぱなし。温めた炒飯とインスタントラーメンを食べながら、どうするか考える。憑依という表現も曖昧だが、この子の身体を借りている状況だ。さらに、時間が巻き戻っており、自分はまだ生きている。そうなれば、1択だろう。事件の抑止。ただ、その場合、自分はどうなるのだろうか。生き残った本来の自分に戻るのか? 全く分からない。俺はこのまま、君島(きみじま) 舞彩(まい)として第二の人生を歩むのだろうか。それだと、この子に申し訳ない。

 4日までの自分の行動を思い出すと、喫茶店に通うことになったぐらいだ。誰かから恨まれているようなことに、心当たりはあるか言われれば、真っ先に思い浮かぶのは、会社の関係者だ。しかし、退職や電話に出ないことに怒ったとしても、なぜ殺傷する必要があるのだろうか。寧ろ、拘束して連れて行くのではないだろうか。電話なら、何か聞きたいことがあるということだろう。

 会社の関係者は、おそらくシロだろう。自分が入社して携わったプロジェクトは、1つ目が古くなった社内システムのリプレースだった。サポートの終わるバージョンのパソコンで動いており、それを現在最新のバージョンのパソコンで動くように、改修する作業だ。自分含めて、3人ぐらいでシステムの全体的な流れは何も変わっていない。社内システムといっても、メールや経費とは一切関係せず、行き先掲示板というシステムだ。ドア横の端末にICをかざすと、ロックが解除される場所が事務所内にいくつかあり、その情報をもとに、誰がどの部屋にいるか分かるようなシステムである。電話を繋ぐときや用事があって人を探すときに使うぐらいで、他のシステムとの連携はない。

 ただ、よく煙草休憩に行って不在になることが多い人は、このシステムでバレることはある。たまに「また不在かよ」という、上司の声が聞こえてきたことがあった。ただ、それで恨まれているのは、勘弁して欲しい。

 2つ目は、河川流量監視システムだ。正直、売れたという営業からの話は聞いたことはない。河川や用水路などの流量を測定し、定期的にクラウドにデータをアップロードして、どこからでも変化や履歴が見えるシステムである。これは、開発体制が4人だった。実際に流量を測定する機器は、別会社の既製品で、提携を結んで開発していた。売れたら、クラウドの年間サービス料で儲かるのだが、設置された話も聞いていない。だから、会社関係で恨まれることはないはずだが……

 3つ目が退職理由になったシステムだ。開発体制が定まっておらず、ころころと変わる仕様に、一時対応していくがあまり、複雑な構造になって、開発5年目らしい。関わる人が次々と辞めていく、魔の仕事である。俺がそこに人員として投入され、それまでと圧倒的に違う仕事環境に、精神的にもたなかった。会社自体でも、明暗はあるだろうが、その会社の中でも、部署や仕事によって、大きく変わる。3つ目の仕事以外は、安泰だった。3つ目の仕事ガチャに負けたのだろう。

 会社関係者はやはりシロ。となれば、仕事関係以外で恨まれるようなこと……、考えても心当たりがない。そうなると勘違いとか無差別ということか? いや、自分が気付いていないだけで、なにかしでかしたのか?

 考えたが分からない。悪いことをした人ならすぐに、「もしかしてあの件を知っている者か」とか「ヤツに勘づかれる前に、あの証拠を消さなければ」とか、絶対に日常会話で言わない台詞が発動するのにな。

 異性関係については、そもそも考えるような出来事がないので、秒で終わった。家族関係も別に。仕送りを続け、長期休みは帰省していた。ただ、この前の年末年始は休みが無かったので、帰れなかったが。実家で何かあったという情報は、一切聞いていない。

 よし。こうなったら、自分を遠くから見て、周囲を探るしかない。もし、計画的な場合やこの4日間で切っ掛けとなるものがあった場合、気づけるはずだ。気づいた後にどうするかは、あとから考えるしかあるまい。相手が屈強な人間なら、こんな華奢な少女で対抗できるはずなどない。


    *


 3日間。喫茶店で、音楽を聴きながら勉強をする中学生を演じつつ、周囲を探ったけれど、何も無かった。ちなみに、喫茶店に行く服装は、長髪を帽子の中に隠し、長ズボンに、派手ではない色のアウターを羽織って、あまり記憶に残らないように考えて行動していた。

 4月3日。喫茶店から家まで帰る自分を見送り、終わってしまった。次は事件当日だ。

 今日は、家に戻ると兄の光也(みつや)がまだ帰っていなかった。今日はバイトが遅いのかと思い、代わりに料理を作ろうか悩んだが、食材を持って帰ってくることが多いため、待つことにした。

 舞彩の部屋で、明日の予定を考えていると、玄関の扉が開き「ただいま」と、光也の声が聞こえた。

 俺は、帰ってきた光也に

「おかえり、今日は遅かったね」

「交代するバイトの子が電車遅延に巻き込まれて、長くなった」

 そう言って、光也は靴を脱いで揃え、「お腹すいただろ? すぐに作るから」と、優しく言った。

 この数日間、妹のふりをして過ごしており、その優しさがすごく申し訳なかった。光也君はこの事件に巻き込みたくないと思い、事情は話さなかった。きっと、優しい性格の妹思いだから、妹の状況を聞いて、協力してくれるとは思った。そう言える理由は、1日の夜に帰ってきたとき、駅前で困っていたおばあさんの手助けをして、帰ってくるのが遅れたと謝っていた。失礼ながら、最初に光也君の部屋にも現状を調べるために入ったが、警察の感謝状やボンティア活動の表彰状などが引き出しの中に綺麗に入っていた。それを見て、光也君の素性について、それ以上調べることをやめた。

 明日に備え、その晩は早く寝た。事件発生は、午前11時とかそのあたりだったと思う。時計を禄に見ていなかったため、なんとなくその時間かと。念のため、1時間前くらいから待機しておけばいいだろう。


    *


 4月4日。朝食を光也と食べているとき、

「舞彩、最近どこかに行ってるのか?」

 俺は舞彩として、特に考えず、素直に

「静かな店を見つけたから、そこで勉強してる」

 と、答えた。光也は笑って、「そうか。よかったな」と。今日も、光也君はバイトのようで、朝食を食べ終えるとすぐに「いってきます」と、出かけていった。

 特に変わった様子はなかった。でも、なんであんなことに……


To be continued…


再び、被害者視点。主人公が登場しない回です。

一気に3日間が経過し、収穫なし。そして、事件当日へ……

24歳の男性が、女子中学生になって、何もないのかと思われるだろうけど。まぁ、自分の身を優先しており、異性に興味の薄い男の話なので、知らない。

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