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第47話 被害者と被疑者の不可解な関係

 現場はおぎ野駅から近い交差点。特課の佐倉 悠夏とロボット警部の鐃警は、別件で2つ隣のあざみ野駅にいたため、要請で現場へ駆けつけた。

 交差点には、血痕があり一時的に封鎖されている。栗平(くりひら)警部が指揮を執っており、伊下町(いかちょう)の事件で協力した藤沢(ふじさわ)巡査の姿もあった。あれ? 藤沢巡査は、管轄外だと思われるのだが……。

 栗平警部は、悠夏と鐃警の姿を見て、会釈し

「ご協力、感謝いたします」

「いえ、こちらこそ、お力添えになれば」

 簡単に自己紹介をして、事件の概要を伺うことに。

「事件発生は、午前11時過ぎ。被害者は、この近所に住む独身男性の辻埜(つじの) 直斗(なおと)。24歳の男性。腰を刺され、重傷。通報により駆けつけた救急車で、近くの病院に運ばれたが、容態は悪く、一刻を争うらしい。状況としては、ここの信号はスクランブル式で、要は歩車分離式だ。歩行者の信号が青に変わった後、横断していた被害者が後ろから走ってきた少年に刺された。被疑者は、この4月に高校3年になる少年。場所を移動して、現在事情聴取をしている最中。今のところ、被害者と被疑者の面識は無いが、被疑者は被害者の辻埜に対して、強い殺意を抱いていたような発言を、目撃情報で聞いている」

「具体的には、どのような?」

 鐃警は目撃者が聞いた言葉について、栗平警部に聞くと

「目撃者の証言だと、”お前なんかに……”といった発言だ」

「なるほど。被疑者は無差別ではなく、狙った犯行だと」

 鐃警の質問に続き、今度は悠夏が

「被疑者が高校3年生って……」

「まだ未成年だ。名前はこんな外で、無闇には言えない」

 どうやら、被疑者に関してはここではなく、署に移動しないと聞けなさそうだ。それならば、悠夏は被疑者ではなく被害者の身元に関して聞くと、

「被害者の辻埜さんは、先月の3月31日に会社を辞めており、現在は無職。で、会社は、最寄りが横浜駅のソフト機器開発を請け負う会社で、聞き込みを予定しているものの、別件で動いているらしく……」

「別件……ですか?」

 栗平警部の言い方的に、その会社が動くわけでは無く、まるで会社の外が動くようなに捉えられ、鐃警は

「別件の捜査ってことですか?」

「”かとく”が動いているらしく……」

 ”かとく”とは、過重労働撲滅特別対策班という、数年前に労働基準監督課に新設された特別チームである。早い話が、文字通り、過重労働をなくすため、所謂(いわゆる)ブラック企業に対する捜査を徹底し、悪質な長時間労働を取り締まる。

「詳しい話は、”かとく”に聞いてくれ。被害者が退職した理由も、それでなんとなく察したが……」

 ただ、いきなり聞きに行くのも難しいと思われ、悠夏は

「警部は、”かとく”に知ってる人っていますか?」

「いえ。そういうのは、捜査一課か、二課ですかね……」

 そう言われて、1つ気になったことが。そもそも、なんで今更って感じもするけれど、悠夏は鐃警に関して結構知らないことが多い。

「警部って、もともとはどこの所属だったんですか……?」

 警視庁には、刑事部、公安部、組対こと組織犯罪対策部のほかに、経理に相当する”総務部”や人事に近い”警務部”、少年犯罪やサイバー犯罪など防犯保安活動にあたる”生活安全部”、交番勤務などのお巡りさんのイメージが強い”地域部”、交通犯罪や運転免許業務を行う”交通部”、機動隊が所属する”警備部”、そのほか対策本部がいくつか存在する。

 なお、鐃警のメンテナンスなどで度々登場する”サイバー犯罪対策課”は、生活安全部にある。

 悠夏の質問に鐃警は、

「あれ? 言ってなかったですか?」

「聞いてないですよ」

「てっきり、副総監が説明済みかと……」

 最初に会った時を思い出しても、倉知(くらち)副総監から聞いてはいないし、書類にも書いていなかったはず。

「生活安全部から、特課に異動になったんですよ」

 ちなみに、組織図的に言うと、特課は副総監の直轄らしい。しかし、倉知副総監に会ったのは、配属の日が最初で最後。それ以降、会っていない。書類の捺印も、デジタルで行うので、システムを介してやりとりをしているが、実感は無い。刑事部や公安部といった部門の隣に、特課が並んでいるぐらいにしか思っていない。


 横浜市若葉区警察署。区役所もあるのに、最寄り駅は何故か急行や準急が停車しない。

 取調室の隣の部屋に入り、マジックミラー越しで見ると、聞いた話の通り、高3の少年だ。風紀が乱れているようには感じられないが、彼には殺人未遂の容疑がかけられている。取り調べを行うのは、刑事第一課の鶴川(つるかわ)巡査部長。色々と訊いているようだが、被疑者は黙秘している。

 栗平警部が、悠夏達のいるマジックミラー越しの部屋に入り、その手には、なにやら資料を持っている。

「被疑者の身元だ」

 そう言って、栗平警部は資料を悠夏に渡した。悠夏は資料を見て

君島(きみじま) 光也(みつや)。おぎ野在住で、妹と2人暮らし。市立おぎ野高の新3年生。10年前に両親が離婚し、母親が親権者となったが、母親は5年前に他界。父親は、4年前に病気で亡くなった。5年近く、2人で暮らしており、近所の方や友人、教員も妹思いの良いお兄ちゃんだと証言している。休みの日は、バイトをしており、常連客にも好評で、店としても頼りになっているとのこと」

 ここまで読む限り、事件を起こすようには感じられない。ただ、警察官としては、そんな感情論で考えるわけにはいかず、

「妹想いの兄が、手を下す理由……」

「情報が少なすぎて、まだ何も……って、感じですかね」

 鐃警の言うとおり、動機に繋がるような情報が無い。せめて、誰か知っている人がいれば……。被疑者は黙秘。被害者は意識不明。いや、もうひとりいる。悠夏はそれに気付き、

「……栗平警部。被疑者の妹は?」

「妹の舞彩(まい)という中学新2年の少女は、現場付近にいたという目撃証言があり、救急車と警察に通報したのも、舞彩ちゃんかと思われるのですが、なぜか現着したあと、いないんですよ……」

 栗平警部は、両腕を組んでそう言った。鐃警は順を追って聞くため、まず

「最初に現場に着いたのは、誰ですか?」

「通報直後に、近くにいた非番の藤沢巡査が、被疑者を確保しました。詳しい話は、藤沢巡査から聞いていただければ」


 栗平警部から場所を聞いて、休憩室でお茶を買って飲んでいる藤沢巡査を発見。悠夏と鐃警が、改めて「お久しぶりです」と挨拶し、本題へ。

「事件当時、自分は、いとこの家に行った帰りで、悲鳴と騒ぎを聞いて、駆けつけました。被疑者は、女子中学生と揉めており、自分が加勢して、被疑者を捉えたのですが、気付いたらその女子中学生はどこかに行ったみたいで……。女子中学生は、被疑者の妹だと思います。帽子を被って長髪を隠し、デニムのパンツにジャケット姿で、最初女の子だと分からなかったのですが、写真を見て、確認したので、自信を持って言えます」


To be continued…


明けましておめでとうございます。2020年もよろしくお願いします。

”かとく”には、結局聞かなかったようですが……。

さて、警視庁の部署が出ましたが、基本的に作中と実際の部署と同じはず。ただ、細かい部分は決めておらず、場合によって、作中のみの設定を付加するつもりです。

あと、倉知副総監は、1話しか登場してないキャラですね。特課が自由に動いてますが、そういえば期限が4月って言っていたような……

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