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第46話 被害者の俺が加害者の妹に憑依して、なぜか令和発表を2回も経験した件

タイトル長いっ。

 2019年4月4日木曜日。午前11時。神奈川県横浜市若葉区おぎ野。住宅街と学校があり、地下鉄の”おぎ野駅”がある。おぎ野駅は、市営地下鉄の新横浜線、新百合ヶ丘駅からあざみ野までの途中駅であり、さらに行けば、新横浜、横浜を経由し、湘南台駅まで結ぶ。

 ついこの前までは、おぎ野駅から横浜方面へ通勤していたが、職場環境に耐えられず、先月付けで退職した。ただ、転職活動もしていなかった俺は、無職となり、これからどうするか何も考えていなかった。最終日の31日は日曜日だが、仕様があれこれ変わる、一向に終わらないプロジェクトを進めていた。そして、その日に耐えられなくなり、退職を宣言して会社を去った。

 4月1日から、職場に行く必要はなくなったが、部屋に籠もると辛くなり、近くの喫茶店に行くことにした。逃げである。

 辻埜(つじの) 直斗(なおと)こと俺は、今日も漠然としたまま、喫茶店へ向かおうと歩いている。おぎ野駅の近くの交差点。信号が変わり、横断歩道を渡っていると、突然意識が朦朧となり、目の前が真っ暗になった。

 朦朧とする意識の中で憶えていることは、俺は何者かに刺されたということだけだった……


    *


 目覚ましの音。聞いたことの無いアラームが、鳴り続けている。手探りで音の出所を探して、アラームを止めようとするけれど、止め方が分からない。眠気と戦いながら、体を動かして時計の方を見ると、デジタル時計で”AM07:01”と表示されている。朝7時か……。アラームの停止が、時計上部のボタンだと分かって、アラームを止めたあと、もう一眠りしようとしたが、扉がノックされ

「春休みだからって、早く起きろよ! 今日もバイトだから、遅くなるからな」

 ドア越しに高校生ぐらいの男子の声が聞こえ、異変に気付いた。布団を蹴飛ばして、起きると見たこと無い部屋。クローゼットの扉には、鏡があり、ベッドに座ったままその鏡越しで確認する。

(だれ、この女子中学生?)

 鏡越しには、女子中学生に見える。部屋も女の子っぽい。最近見たアニメや映画の影響だろうか。過度なストレスで、人間はこんな風になるのかと、24歳にして何かを悟る。俺はどうなった?

 玄関のドアが閉まる音が聞こえ、俺(もしくは私?)は、リビングへ。テーブルの上には先ほどの声の主が作ったと思われる朝食がある。点けっぱなしのテレビでは、ニュースが流れており、俺は首を傾げる。頬を引っ張り、頬を叩き、古典的な現実と夢の確認方法を試したが、不明。そして、極めつけはテレビから流れてきた情報である。

 朝の情報番組の恩田(おんだ)アナウンサーが、タレントの都筑(つづき)と会話しており、その内容が

「さて、いよいよ今日。次の年号が発表されますが、どんな年号が発表されるのでしょうか。楽しみですね」

「そうですね。みなさんもいろんな予想をしていますが、私はやっぱり、”安明”を推したいですね」

 テレビに釘付けになり、思わず声が出て

「そんなはずがないだろ……。年号は”令和”になったって、4日前に……」

 しかし、テレビでは年号予想をしている。ただ、”令和”なんてどこにも書いていない。チャンネルを変えると、さよなら”平成”特集のコーナーをしていたり、エイプリルフールのネタを集めて紹介するコーナーをしていたり、まるで今日が……

 それを認めたくなかったが、天気予報のコーナーになり、今日の天気と一緒に、日付がテロップに出ていた。

 ”4月1日(月)今日の天気(関東)”

 天気予報士は、スタジオの外で中継しており、画面には江ノ島をバックに、天気図や天気のマークが表示され、

「4月1日、本日の天気です。日本海には2つの低気圧があり、強い寒気を伴っており、四国から東北にかけて、雨や雪の地域が多いでしょう。東京は、今は晴れていますが、夜はにわか雨に注意です。折りたたみ傘をお忘れ無く。横浜では、桜が満開を迎えており、金沢市で桜が開花したとの情報もあります」

 今日は、4月1日……?


   *


 思い出せば、1度目の4月1日、11時半過ぎ。昼過ぎまで寝ようかと思っていたが、携帯電話は電話コールが鳴り止まず、電源を切った。起き上がってテレビを点けると、どこのチャンネルも、そこには誰もいない首相官邸の記者会見室が映されている。テロップは、”新元号まもなく発表”。

 シャワーを浴びて出てくると、丁度発表の瞬間だった。(くめ)官房長官が出てくると、一斉にシャッターが焚かれる。 

「先ほど、元号を改める政令を閣議決定しました」

 そう言って、元号が書かれた額縁を持ち上げ、”令和”を発表する。

「新しい元号は、”令和”であります」


    *


 そして、2度目の4月1日。現状、どうして良いか分からず、この子の名前や情報を部屋で探して、テレビを聞きながら整理する。名前は、君島(きみじま) 舞彩(まい)。新中学2年生である。罪悪感はあったが、数日間だけ日記を読み、その情報からこの少女は磯貝(いそがい) 潤一(じゅんいち)というクラスメイトに恋をしているらしい。その恋路は邪魔しないようにせねば。兄は、新高校3年生の光也(みつや)。両親については、母親は他界しており、父親についてはまだ不明。でも、この2DKを見渡す限り、兄と妹の2人暮らしのようだ。兄の光也君は、バイトをして、生活費を稼いでいるようだ。24歳が言うのも何だが、若いのに凄い。

 あれこれ調べていると、11時半を過ぎ、やはり、どこのチャンネルも、そこには誰もいない首相官邸の記者会見室が映されている。テロップは、”新元号まもなく発表”。

「ネットで先に”令和”って言えば、バズりそうだな……」

 自分で言って、思いついた。この子のスマホは?

 テレビでは、(くめ)官房長官が出てきて、

「先ほど、元号を改める政令を閣議決定しました」

 そう言って、元号が書かれた額縁を持ち上げ、”令和”を発表する。

「新しい元号は、”令和”であります」

 少しだけ、令和ではなかったらどうしようかと心配していたが、杞憂だった。ただ、落ち着いて考えると、現状ってかなり恐ろしいと思う。

 学生時代に、甘酸っぱい恋なんてしたこと無いし、中学時代なんて、学校が終われば友達の家でゲーム三昧だった。高校も同じだし、大学は研究室に籠もりっぱなしだった。それに、女子からは優しい人止まりで、誰か同士が恋人だとか噂話にも興味は無く、特に後悔もしていない遊んでいたあの頃。

 さて、仕事を辞めて4日後に……多分、俺は殺されたと思われ、その犯人を探すまで……、この子には申し訳ないが、コントロールさせてもらおう。そのあと、この子が戻るかどうか、俺自身がどうなるかも分からないけれど。


 俺は、このときはまだ知らなかった。自分が憑依した少女、舞彩ちゃんは、自分を刺した犯人、光也の妹であることを……


To be continued…


やっと、作中で令和が発表されました。しかも2回も。4月になるまで、かなりかかりましたね……。

ただ、現実では令和元年も残すところあと少し。来年もよろしくお願いします。


今年最後の話は、主人公が登場しない回でした。

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