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第45話 市場の鬼

 3月26日、火曜日の午後11時過ぎ。東京都台田市場(だいたいちば)区の台田市場(だいたしじよう)。規制線が張られ、警視庁の捜査が行われている。特課も出動しており、悠夏(ゆうか)鐃警(どらけい)はすでに市場の中を捜索していた。

 事の発端は、SNSでなぜか流行った”鬼ごっこ”である。台田市場で、夜中に鬼が現れるため、それから逃げるという傍迷惑(はためいわく)な遊びである。台田市場の責任者が、夜間は出入り口を完全に封鎖するが、それでも数日続いており、警察にも相談が来た。不法侵入ということで捜査を始めようとした矢先、昨夜、負傷者が出た。興味半分で入った高校生グループのうち、女子高生1人が腕に、軽い傷を負った。病院に行くほどでもない軽傷だが、負傷者が出たため、責任者が激怒。さらなる負傷者というか、そもそも侵入者が出る前に、警察で解決してくれと通報。

 悠夏と鐃警は、懐中電灯を持って、暗い市場を探索している。契約事情により、夜間は電気を点けられないらしい。一体、どんな契約なのだろうか……。鐃警は、懐中電灯で事件資料を照らしながら、

「侵入したのは、若い男女のみならず、4、50代の男女もいたみたいですね」

「被害者……、じゃなくて、被疑者?は、侵入方法に関して、憶えていないと供述しているそうです。あと、南浜部(みなみはまべ)警察署による聴取で、該当者は霊感の強い人らしいですよ。高校生グループは、台田市場が目的では無く、所謂(いわゆる)、幽霊スポットに行った帰りらしく、止めようとした男子高校生のひとりは、様子がおかしかったと証言しているそうですね……」

 悠夏は、事件資料から得た情報を元に、霊の可能性について否定してくれると思って、鐃警に言ってみると

「ゴーストの可能性も、無きにしも非ずってことですかね」

 なんて言うもんだから、悠夏は足を止めて、

「警部。なんで、否定しないですか……?」

 鐃警もその場で止まって、悠夏の方を振り向き、

「あくまでも、可能性ですよ」

「それって、我々がゴーストを逮捕するってことですか?」

「逮捕なのかバスターなのかは、ケースバイケースだと思いますがね」

「バスターは、映画の話でしょ……?」

「なんなら、妖怪かもしれませんね」

「それこそ……」

 本人達は真面目な話をしているつもりだが、傍から見たら笑われそうだ。

「負傷者の傷から察するに、鎌鼬(かまいたち)とかですかね。もしかしたら、それよりも適した妖怪がいるかもしれませんが」

 と、鐃警はさらに被疑者が妖怪の線で話す。

「なんなら、負傷したのが12時過ぎですし、12時に死者が出るかもしれません」

「それこそ、ゲームの話でしょ……」

「あら、よくご存じで」

 鐃警が感心したけれど、そんな某ゲームの話をしているつもりはない。現実を見なければ。鐃警は、正面を向いて歩き出し

南浜部(みなみはまべ)警察署によると、防犯カメラの映像から、侵入者は全員取り調べをしており、元凶はいなかったそうです。ずっと市場に潜伏しているか、人ならざる者かってところですかね」

 市場ならば、食糧に困らないだろう。窃盗の容疑も増える。あと、こういう話をしているときに限って……

「あっ!」

 鐃警が急に大きな声を出したので、悠夏は萎縮し、

「な、なんですか!?」

「いえ、あの刑事さん。まるで取り()かれたみたいだなって」

「冷静に分析しないでくださいよ……。そんなわけ……」

 悠夏が鐃警の背後から、ゆっくりと顔を出して確認すると、明らかに普通の歩き方ではない警官がいる。しかも、こちらに向かってくる。鐃警は冷静に

「ようするに、これは怪異だったわけですね」

「そういう、なんかどこかで聞いたようなの、いらないですからっ。なんで、警部は冷静なんですか!」

「だって、ロボットなら、憑かないと思って」

 そう言われて、悠夏は納得してしまった。確かに、ロボットに霊は憑かない……のか?

付喪神(つくもがみ)……」

「確かに。ゼロではないですね」

 悠夏に「付喪神」と言われ、警部は簡単に認めた。鐃警は続けて冷静に

憑依(ひようい)合体した警官。かなりこっちまで来ましたね」

「そういうのいいですからっ」

 すると、通路の横から赤い腕が伸びて、警官を殴り飛ばした。これには、どちらも目を疑って、

「今の何……?」

「佐倉巡査。大変です」

「そうですね……。別の霊が……」

「傷害事件発生です!」

「そうなんですけど……」

 人間が相手ならば、確かに。余所見をしていたら、鐃警が走り出していた。悠夏は怯えながらも、置いてきぼりは嫌なので、あとを追いかける。すると、赤い腕が出てきたところは、小さな神社があった。懐中電灯で壁に埋め込まれた石碑を読むと、どうやらこの市場の守り神のようだ。通路の壁に埋め込まれた、小さな(やしろ)。警官の様子を確認すると、気絶している。生きている。

 悠夏は神社と気絶した警官を交互に見て

「どういうこと……?」

「全く、困ったもんじゃな」

 鐃警でも悠夏でも無い声が聞こえて、神社を見ると赤い鬼が胡座(あぐら)をかいて空中に座っている。悠夏は目を掻いたが、やっぱり見える。現状に理解できないでいると、鐃警が

「すみません。この人を殴ったのはあなたですか?」

 と、赤い鬼に聞いた。赤い鬼は鐃警を見て

「夜な夜な来るから、追い返したまでよ」

 悠夏は声には出さなかったものの、(普通に会話が出来てる……)と、ますます意味が分からない。

「では、傷害の容疑で現行犯逮捕です」

(ぬし)らは、警察官か」

「警視庁特課です。ちなみに、現行犯逮捕は一般の人でも出来ますので」

 鐃警の言うとおり、私人逮捕という逮捕状を持たない一般人でも逮捕が出来る。ただ、いろいろと条件はあるため、110番が望ましいだろう。

「ご同行願えますか?」

「残念ながら、守り神(ゆえ)、ここから動くことが出来ぬ」

「それは困りました。じゃあ、ここで聴取させてください」

「まず、(ぬし)らに話をさせてもらえぬか?」

「どうぞ」と鐃警が言うと、守り神の鬼が語り出した。

「ここ最近、夜間の海が荒れており、(わし)を倒しにくる(やから)がおる。輩は、無関係な人間に憑依し、ここまでやってくる。最初はここまでたどり着く前に、力尽きておったが、昨晩からはここに辿り着くようになった。儂の力が弱くなっておるようじゃ。仕方なく、攻撃を受ける前に、倒さざるを得ない。ただ、負傷はさせまいと手を抜いたが、思ったよりも強かった」

「つまり、正当防衛と?」

「怪我人を出したことは詫びよう」

 鐃警と守り神の鬼との会話で、落ち着いた悠夏は、鬼に対して

「力が弱くなった原因は何でしょうか?」

「良い質問じゃな」

 そう言われて、思わず警部に向かって言うのと同じように、「そういうのいいですから」と言いそうになった。

「社の腐食が原因じゃ。それにより、力が段々弱くなっておる」

 悠夏が守り神の鬼に対しても、警部に対しても確認の意味で

「つまり、修繕すればこの件は解決って事でしょうか?」

「左様。どうにかできんかの?」

 まさかの守り神の鬼から依頼されることに。神にお願いすることがあっても、神からお願いされるのは初めてでは無いだろうか。というか、絶対無い。

「責任者に言うしかないですね。事件としては、逮捕したとしてもどちらも署に来られそうにないので、そのまま送検して、処理しますか……」

 逮捕せずに検察庁へ送るのは、俗にマスコミ用語でいう書類送検である。守り神の鬼とその後も話していると、榊原警部が合流し、鬼を見て驚いていた。他にも、南浜部警察署の警官も現着するなり驚き、同行した責任者は顎が外れていた。

 責任者が直に守り神の鬼を見たため、翌日から改修が始まった。着工前に感謝のお供えとお祓いをし、市場内でお引っ越し。営業時間内も通路を閉鎖した。社の大きさが通常よりも小さいとは言え、大人数で改修工事を行い、その日の夕方には改修作業が完了した。新聞紙やワイドショー、週刊誌では、この異例の対応に様々な記事や報道をしたらしい。特に、警視庁が妙な書類送検したと噂になり、1週間ほど話題になった。そのおかげで、台田市場の売り上げも上がったらしい。

 修繕後、台田市場に侵入者が現れることはなかった。しかし、守り神の鬼を倒しに来る輩って、一体なんだったのだろうか……?


To be continued…


輩は一体、何者だったんでしょうか……?

最近、長編ばかりで、たまにはこういう話もいいですね。ちょこちょこ、伝わらなくてもいいネタがありつつ、怪事件でした。妖怪のせいでした。

さて、年越しになりますが、次回から長編開始です。

ついに作中で令和が発表される4月に突入です。平成最後となる4月へ。なお、現実は令和2年へ。

今年も残り少ないですが、よろしくお願いします。

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