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第33話 アフターストーリー ~平成31年1月4日~

 3月8日。藍川(あいかわ)巡査は、特課(とっか)のところに来て、缶コーヒーを飲んでいる。鐃警(どらけい)悠夏(ゆうか)は、一切喋らずに、目の前の資料に集中している。

 藍川巡査はわざとらしくため息をつくが、二人とも無視だ。

「警部。この事件ですが、供述した”東京ゲートブリッジが見えるレストラン”の映像、見つけました。SNSでカップルが投稿した動画に被疑者が写っていて、時間も供述と一致しています」

 悠夏は鐃警に報告して、事件の担当者へメールで連絡する。藍川巡査がまた咳払いするけれど、今度は鐃警が

「例の、道警からの協力依頼ですが、犯人が見つかったらしいですよ。牧羊犬が、羊じゃなくて隠れていた犯人を見つけたとか」

 さらに、藍川巡査が咳払いする。もはや、二人ともガン無視だ。

「警部。今、メールが届きましたが、新宿区の飲食店で起きた騒動ですが、店内に撒かれたのは殺虫剤ではなく、殺鼠剤(さっそざい)だったようで、多くの人が殺鼠剤を殺虫剤って間違えたらしいです」

「それって、現場に(ねずみ)がいたって証言もあったところですか?」

「そうですね」

「確かに、鼠はチューって鳴きますけど……。でも、殺チュー剤っていうのは、間違い率高そう……」

 鐃警は笑って、

「殺鼠剤だろうが、殺虫剤だろうが、事件には直接関わらない気がしますけどね……」

 普通に考えて、そこに重点を置く必要はなさそうだ。藍川巡査がこれでもかと咳払いしようとすると、なぜか()せて、本当に咳き込む。

 さすがに、突っ込まずにはいられず、鐃警が

「なんで、それで噎せるんですか……?」

 折角、話を振ったけれど、当の本人は噎せてそれどころではない。悠夏は、気にかけず、次のメールを確認していると、電話が鳴る。コール音から察するに、内線ではなく外線のようだ。ここの直通番号を知っている人は限られている。

 悠夏が受話器を取り、

「もしもし、警視庁 特課です」

「捜査一課の榊原です。佐倉巡査?」

 電話は榊原警部からだった。悠夏は、「はい」と応答すると

「いくつか確認したいことがあって、連絡したんだが、今、時間は大丈夫か?」

「えぇ。近くに藍川巡査がいるぐらいです」

「なんだ、藍川がいるのか。まぁ、いい……」

 聞かれたところで、藍川巡査がこっちに来ることはないだろうと判断し、榊原警部は話を続ける。

「被害者の毛利 貴之(たかゆき)君だが、火災直前に失踪した可能性が高いと思うんだが、佐倉巡査の見立ては?」

「私は、弟妹(きょうだい)の話から、昨年12月21日の夜から、今年の1月2日の明け方までの期間だと思います」

 2018年12月21日は、金曜日で終業式があった日だ。翌12月22日からは、冬休みである。冬休みのしおりに名前の記載があったことから、失踪は冬休みの間と考えられる。さらに、悠夏の弟妹から怪奇現象として相談があったのは、1月2日の午前中である。とはいえ、悠夏は年末の事件で1月1日の夕方に帰省し、そのとき、妹と弟は中学の友達と初詣に行って、会っていない。話のタイミングから、失踪した日がいつなのか特定することは難しそうだが……

「初詣は、どこへ?」

「確か、鶴城(つるぎ)神社……」

 鶴城神社は、西阿波市四国三郎6丁目にあり、年越しの時は、4軒ほど出店がある。近場の子ども達がよく集まり、顔見知りとの遭遇率は非常に高い。家族なら、車で初日の出を見に、剣山(つるぎさん)に行く人や、徳島市内の有名な神社に行く人が多いだろうか。神社では無く、四国八十八カ所霊場に含まれるお寺へ行く人もいるみたいだ。

「鶴城神社近辺の捜査に、人手がいる。特課と県警に頼めないだろうか……?」

「私達なら、協力は可能だと思いますが、すでに焼死と決めている徳島県警が動くためには、それなりの理由が無いと、向こうも困ると思うんですが……」

「毛利家の火災は、1月3日午後9時ごろ。1月20日に、貴之君らしき少年を見かけた人がいる。付近の変電所に設置された防犯カメラの映像から、人影は分かったが、解析しないと弱いかもな……」

「解析で分かるようなものなんですか?」

 悠夏が言うように、映像解析には限界がある。以前、葉陽(ようよう)君の事件で、画像の解析をしたが、思ったよりも、ぼやけていた。

「最新のカメラらしく、ネット越しでは画質は落ちるが、SDカードに保存されている動画はかなり鮮明らしい。そこから解析すれば、何か分かるかもしれない。一応、変電所を管轄する電力会社に協力を依頼済みだから、近々データが送られると思う」

「分かりました」

 と、悠夏が返事したけれど、受話器から少し漏れた声をなんとなく聞き取った鐃警は、

「そういう解析なら、サイバーセキュリティ課よりも、科捜研に回した方が良いと思うんですが……。全都道府県にありますし……」

 鐃警の声は、榊原警部に聞こえてないため、悠夏がそのまま伝える。ちなみに、科捜研は科学捜査研究所で、ドラマでお馴染みだろう。あくまでも、研究員であり捜査権は無い。あと、科警研というのもあるが、警察庁が機能していないため、こちらは縮小しているだろう。

「警部から、科捜研に協力を依頼した方が……って。この場合は、徳島県警本部にある科捜研ですかね。ただ、場所的には、高松市の方が、徳島市より近いんですけど……」

 悠夏はさらに続けて、

「鉄道を使うなら、徳島市の方がリニアで近いですね。縦断新幹線だと、坂出(さかいで)で乗り換えがあるので……。在来線なら、時間帯と特急によって変わりますね……」

 と、長々と悠夏は説明したけど、榊原警部は

「もし科捜研へ依頼するなら、阿北(あほく)警察署経由でお願いするだろうな。管轄は阿北警察署だから。一先ず、人手が欲しい」

「何人ぐらいいれば……?」

 悠夏がそう言うと、何やら横から視線を感じる。言うまでも無く、藍川巡査の視線である。

「人が多くても、土地勘がない人だと、あまり意味は無いだろうな……」

 ちなみに、榊原警部は今回の件で四国に行くのは初めてらしく、事前に悠夏からいろいろと聞いていたらしい。

「分かりました。人手の件は、こちらで調整します」

 その後、悠夏は榊原警部と少し話をした後、電話を切った。

「警部、榊原警部から、現地での捜査を行う人手の依頼がありました。阿北警察署には、私から依頼を出します」

「依頼だけでなく、人員については、佐倉巡査にお任せします。本件は、佐倉巡査が適任ですから。指示いただければ、僕も協力しますので」

 鐃警は警部の自分では無く、事情を一番知っている悠夏に指揮を任せ、補佐にまわる。

 で、彼は?

「あの……、藍川巡査? 他のことでこちらを尋ねたんですよね……?」

 悠夏がやっと、藍川巡査に聞くと

「別に、もう終わった事件ですから。結局、追加捜査しても、例のゲーム会社から新しい物証は出なかったですし、経理の方々はみんな、知ってましたよ。例の注文書に関して」

 藍川巡査の話は、『狭霧の鍵』の事件に関してで、それを愚痴りに来たらしいが、人員を募集していると聞き、共に四国へ?


To be continued…


先週、もうひとつ長編って話をしましたが、これも長くなりそうな予感がしてきました。

元々1月の出来事なので、あまり放置するわけにもいかないですし、エルシーズに関しての事件を進めていきます。

話し言葉なので、「弟妹」を「ていまい」と読まずに「きょうだい」で振り仮名を付けてます。

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