第294話 親族
有事につき、親戚が一気に集まったので、ここで一旦整理する。まずは父方の佐倉家について。悠夏の父親、秋風は次男であり、兄の駿清と姉の九紅がいる。
長男、佐倉 駿清の家族は大阪で生活しており、妻は友璃、娘は夏波の3人家族である。ちなみに、悠夏と夏波の2人に”夏”という漢字が含まれているが、偶然らしい。悠夏の名前は、秋風がいくつか提案した名前の1つであり、夏波の名前は、友璃が提案したそうだ。家族3人とも教諭であり、夏波は大阪府内の中学教諭である。
長女、豊崎 九紅は夫の智貴と娘の廻里の3人家族である。智貴が広島県出身であり、3人は広島に住んでいる。智貴は豊崎家の車屋を継いでおり、ディーラーとして整備と販売を行っている。廻里はもともとイラストレーターとして上京してチャレンジしたが、残念ながら期待していた成果は得られず、実家に帰ってきた。もともとバイクには興味があったため、実家の仕事を手伝っている。廻里も悠夏と同い年である。店は臨時休業し、こちらに駆けつけてくれたそうだ。ただ長期間店を閉めるわけにもいかないので、九紅と廻里に任せて智貴だけ広島へと戻っている。
次に、母方の凪野家について。悠夏の母親、佳澄の旧姓は凪野であり、姉がいる。既に結婚しており、潮本 栞凪は徳島市の西に位置する麻植郡麻植町在住である。病院から20分ほどで到着できるため、凪野家と潮本家の二世帯住宅が拠点になっている。栞凪と佳澄の両親(つまり悠夏からしてみれば母方の祖父母)は、凪野 潤哉と凪野 樋月。ただし、父の潤哉はすでに亡くなっている。栞凪の夫は克充。栞凪には娘と息子がおり、娘の美翠は中学2年生、息子の琥白は小学3年生。
最後に、秋風の両親は佐倉 海樹と佐倉 益世。海樹はここ数年入院しており、益世が毎日看病している。この事態を知ってはいるが、駿清から「遙華たちのことは俺らで支えるから」という連絡をしており、無理はしないでと直接的には言っていないが、自分達の身体を優先してくれと伝えたのだ。
*
2019年8月14日午後9時20分頃。
悠夏と遙真が遙華の病室に戻ると、友璃伯母さんが2人に
「おかえり」
「……帰ってきました」
悠夏の返事が少しぎこちなかった。昨夜はあれこれ考えていて余裕がなかったものの、改めて考えると親戚と会うのは2018年の年始の集まり以来で、かつ自分達が楽しんでよかったのかという迷いが脳裏を横切った。2018年12月31日は事件捜査に追われていたため、正月休みの帰省は親戚の集まる日からずれていた。
「どうやった? 行ってよかったやろ?」
悠夏が頷いて応えると、友璃は笑って「よかったよかった」と言ってくれた。
「明日、佳澄さんがこっちに転院予定で、そこの隣のベッドに来るって言うとったよ」
「ありがとうございます」
「私にお礼なんてええって、私らも昨日ここに来るまで、なんにもできんかってごめんね」
「そんなことないです。一番必要なときに、駆けつけてもらって」
悠夏は友璃の隣に座り、遙真は遙華の顔が見える近くへ。ベットの周囲にはイスが5つほど置いてあった。
花瓶には昨日はなかった花がある。
「今日は色んな人が来てくれたけど、今は親戚しか会えへんから、みんなには悪いことしたな」
家族以外の面会遮断。これは警察からの指示も入っている。理由は様々ある。ひとつは主犯が捕まっていないため、見舞いを装って近づいてくる危険性があること。他には、怪奇薬品の使用を疑っており、その情報を外部に漏らさないため。
友人で、かつ唯一怪奇薬品の一種”廃忘薬”を知っている毛利 貴之にも情報は伏せられている。他言無用であり、ここにいる親戚さえも説明を受けていない。原因不明の昏睡状態とだけ。
友璃から話を聞く限り、お見舞いに駆けつけたのは遙華の担任の先生や学校の関係者らしい。遙華が入院している話や誘拐事件について学校に説明したので、どの病院に入院しているか知っている。遙華のスマホが壊れていたため、クラスメイトや友達は連絡手段がない。遙真と悠夏は昨日購入してセットアップしたので、連絡手段が復活している。遙華の分は、多少の設定まで。一応、遙真が遙華のパスコードを知っていたので、電話帳くらいは戻ったが、SNS関連はアカウント管理されているため流石にそれ以上はできなかったし、しなかった。ちなみに悠夏が遙真に「なんでパスコード知ってるの?」と訊いたら、「結構隣で操作して、嫌でも見えるから。多分、遙華もこっちのパスコードを知ってるんじゃないかな」と言っていた。さらに聞くと、遙華は最初に買ってから一度も変更していないそうだ。姉としては、弟妹以外にもパスコードが流出していないかちょっと心配になった。
スマホのロック画面で時間を確認すると、もうすぐ22時。悠夏が今晩はどうしようかと考えようとしたのが、友璃には目に見えて分かったのか、
「しばらくは、凪野さんちと病院を行き来できるようにするけん、ゆっくり休み。夏波に連絡したけん、もうじきくるで」
「ありがとうございます」
悠夏はお礼を言うが、内心(そう言えばお礼なんていいって言われたっけか)と後になって思った。しばらく言葉を発しない遙真のほうを向いて「遙真も一緒に行こうか」と言うと、遙真は「……うん」とだけ、小さく返事した。
「佳澄さんの方には、今樋月さんと栞凪さんが一緒におるし、遙華ちゃんには私が今晩おるで」
「遙華のこと、お願いします」
少しすると、夏波から駐車場に着いたと連絡が入り、悠夏は遙真と一緒に駐車場へ。夏波の運転で、悠夏は助手席に座り、遙真は後部座席へ。
「2人ともちょっとは元気になった?」
「おかげさまでっていうか、ちょっと羽目を外しすぎたかも」
「遙真くんは?」
夏波が聞いたけど、返事はなかった。バックミラー越しで見ると、シートベルトに支えられながら、寝落ちしていた。
「よかった。息抜きにようで」
「夏波もありがとう。正直、事件が一段落して気が抜けるタイミングだったから……」
「最初、駿清伯父さんからうちに連絡があってさ」
聞けば、駿清から九紅に連絡をし、凪野家にも連絡して、すぐに徳島へ向かう準備をしたそうだ。
「悠夏に連絡しても繋がらへんし」
「多分突入のときかなぁ……?」
「それよりも前かな。”電源が入っていないか電波の届かない”って」
「……それ、何時頃?」
「えっと……夕方だったかな。正確な時間は履歴見ればなんだけど……、運転中だからさ」
「あぁ……、その時間は確かに圏外」
時間的に金長狸と会っていた頃だろう。あの場所は電波が入らなかった。遙真と遙華のスマホはすでに壊されて、悠夏は圏外、佳澄のスマホは警察で調査していたため、誰にも繋がらない。
自分の知らないところで、親戚が心配して行動を起こしていたのだ。本州四国連絡橋は封鎖されていたので、現地に駆けつけることはどちらにせよ困難だったが……。動けるとしたら、徳島県内にいる潮本家くらいだろう。事実として、佳澄が救助されたと聞きつけて、栞凪と樋月が病院へと駆けつけた。美翠と琥白を克充に任せて。ちなみに、克充は駿清からの連絡で、凪野・潮本家へと集まる話になり、仕事を切り上げて、家の掃除やら倉庫に片付けていた来客用の布団を準備するなど、受け入れ可能な準備をしていたそうだ。
親族総出でこの有事に対応していたのだ。
To be continued…
やっぱり登場人物の名前を決めるのが難しい。親戚の名前を改めて決めたりバックボーンなどなどを。
一度更新が途絶えると仕方なしで、書こうとしても書けなくなってしまい、気付けば11月になってしまいましたね。予定ではすでに300話突破していたのではと思いつつも、とりあえずこの話を書き上げるのでいっぱいでした。
麻植町は国道192号線沿いに存在する架空の町です。また架空の町が増えました。
画面ロック解除って、長いこと一緒にいる人の前で、何回も操作してので分かっちゃうと思うけど、最近は顔認証とか指紋認証になってきたので、パスコードを入れることももう少ないのかな。
さて基本的には木曜更新のつもりですが、今回はこの土日で2話を更新します。第295話は、明日の22時更新で予約投稿しますね。




