表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/295

第291話 開場

「結局、その女性は無事だったの?」

 悠夏の話を途中から聞いていた美和(みわ)は、うちわを人数分確保して、いつの間にか戻っていた。

「無事だったって話は聞いた」

「で、そのあとのライブは?」

「楽しんだよ。あのときよりも、今日の方が何曲か聞き直せてるから、イントロでどの曲か分かるようにはなったよ」

 移動時間や作業用として聞いていることが多く、曲名までは覚えられていないが。

 イベントスタッフが開場をアナウンスし、徐々に会場内へ人が流れていく。

「早いけど、もう中はいる? 外にいてもだし」

 里穂(りほ)の案にみんな「そうしよっか」と同意し、入場列に並ぶ。2日間の通しチケットやS席、一般席、グッズのありなしなどで入場口が異なる。今回はCDに付属する先行受付用シリアルコードを使い、グッズ付きのS席という競争率が一番高いエリアをもぎ取ったそうだ。

 入場の列には、表が透明な鞄にぬいぐるみを詰めたファンやライブシャツを着たファンもいるが、中には別のバンドグループやバーチャルライバーのTシャツを着ている人もいる。海外から今回のライブに参戦する外国人もいる。喋っているのは、英語や中国語、韓国語など幅広い。海外での人気が窺える。

 列が進むにつれ、最初は金属探知機によるチェックがある。スタッフが前と後ろに金属探知機を近づける。「大丈夫です」と言われ、前へと進む。すると、後ろで音が鳴った。悠夏と美和が後ろを振り向くと、亜衣が慌てている。どうやら検知器にベルトが引っかかったようだ。対応にはそれほど時間を要しないだろう。

 次は持ち物の確認がある。自分で鞄を開けて、スタッフが中を見てチェックする。「ではそのまま先へ進んでください」と言われて進むと、次のスタッフが「チケット拝見しますので、画面を表示してください」。スムーズな入場を行うため、事前に画面を表示するように協力を促すアナウンスが繰り返し流れている。悠夏はスマホのスリープを解除し、すぐに電子チケットを見せる。スタッフが画面をスワイプすると、未使用から入場済みに切り替わる。

 今回はグッズ付きなので、最後に注意事項が書かれたA4サイズの紙1枚とグッズを受けとった。

 注意事項の紙には、文字がぎっしりと書かれている。開演前は写真撮影を禁止しており、閉演後は周囲の人々のプライバシーに配慮し、周りの迷惑にならない程度で、写真のみ撮影可能とのことだ。また、終演後は混雑を避けるために規制退場を行うことや、上演中の光り物についての注意事項も書かれている。公式のLEDリストバンドのみ使用可としており、本公演に限り、他のペンライトの使用は禁止としている。これは無線によってリストバンドのLEDの色を集団で制御するためである。自動制御により会場内が一体となる空間を生み出すそうだ。

 会場内の入口正面には色とりどりのフラワースタンドが並んでいる。協賛企業によるフラワースタンドだけではなく、ファンによるフラワースタンドも展示されている。ファンによるフラワースタンドは、よく見るとイラストボードや出資者の名前が掲示されているものもある。

 多くのファンがフラワースタンドを撮影しており、悠夏達もスマホで写真を撮ってフラワースタンドを眺めていると、先程金属探知機で引っ掛かった美和が

「ごめん、ベルトで引っ掛かって」

「どうする? もう席に行って待つ?」

「先にトイレ行っとこう」

「それはそう」

 開演に近づけば近づくほど、トイレが混雑するのは目に見えている。すでに、どこのトイレも6人くらいの列ができている。まだ短い方だ。


 今回のライブ、バンドグループ”IRyS Note(アイリスノート)”は5人の声優がそれぞれキャラクターを演じつつ、バンド演奏を行う。

 ボーカル担当のキャラクターは、真瀬(ませ) 夜白(よるしろ)。高校2年生。演じる声優は綾坂(あやさか) 紫苑(しおん)。新人声優であり、他出演作ではいずれもモブキャラであり、メインキャラクターであり名前付きのキャラとしては真瀬が初めて。中学高校生のとき、動画サイトに歌ってみたを14曲ほど投稿していた。落ち着いた低音ボイスであり、高校時代は演劇部に所属し、舞台で演じていた。

 ギター担当のキャラクターは、久遠(くおん) 藍理(あいり)。高校2年生。第1話で真瀬の高校に転校してきた。演じる声優は、白雪(しらゆき) 詩帆(しほ)。SNSに投稿されたインディーズアニメで注目を浴び、デビューに至った新人である。アニメよりも番組のナレーションを担当することが多い。

 ドラム担当のキャラクターは、神楽(かぐら) 澪花(みおか)。高校2年生。演じる声優は、水守(みもり) ほの()。子役経験を生かし、個人で音楽活動も行っている。やや茶色かかった髪は女優の母親譲りで、父親は音楽アーティストという幼い頃から芸能の世界を日常のように過ごしてきた。来年公開予定の映画で、主演のキャラクターを演じることが決まっている。

 ベース担当のキャラクターは、火ノ宮(ひのみや) 天音(あまね)。高校1年生。演じる声優は、空木(うつぎ) ひなた。声優のバラエティ番組やラジオ出演もしており、このグループではベースを担当しているが、他の楽器も演奏できる。その特長を生かして、作中でも火ノ宮が他の楽器を演奏するシーンがあり、過去のライブでもヴァイオリンやトランペットなどの楽器を演奏したこともあるそうだ。さらに、ライブのある楽曲では、ベースをぐるっと一回転させる派手なパフォーマンス”ベース回し”を披露している。

 キーボード担当のキャラクターは、霧嶋(きりしま) 煌羅(こうら)。演じる声優は、黒瀬(くろせ) ルカ。幼少からピアノコンクールにて優秀な成績を収めており、黒い長髪で凛とした格好良さと時折見せる可愛らしさを併せ持ち、男女問わずに人気がある。


 開演まで1時間半。ライブ会場は1階から入ると、ステージがやや高く見える。これまでは2階席などから見下げることが多かったため、1階席は今回が初めてだ。会場によっては、上の階は前の席との高低差が大きくなり、少し怖さも感じた。

 会場の上部を見ると、少し白い靄がみたいなものがかかっている。どこの会場に行っても、あの白い靄を見かける。悠夏が上を見えていたので、美和が気付いて

「あのもやもやが気になる?」

「何だろうなって」

「コミケとかにできる」

 亜衣が通称”コミケ雲”について触れるが、美和は手を横に振って

「違う違う。これは、わざとスモークを撒き散らしてるから」

「わざと?」

「ライブで照明演出があるでしょ。スモークがあるとライトの光が反射して映えるから、スモークを撒いてる」

「へぇー。美和はイベント関係も関わるから詳しいんだ」

 亜衣に言われたが、美和はそれも否定して

「この前、番組で見たから。偶然見てなかったら、4人とも”なんだろね”で終わってたと思う」

 美和が見ていたのは、素朴な疑問をテーマにクイズとして取り扱うバラエティ番組である。最近はテレビが無くてもネットで見逃し配信もあり、録画しなくても時間を気にせずに見える。ただし、視聴期限が設定されていることもあり、気付いたら見逃し配信を見逃すという残念なこともあるが……。

 幕が下がった状態だが、ステージではスタッフが調整しているのか、たまにギターやベースの音が大音量で流れる。しばらくすると、ドラムの音やキーボードの音も。本番だと色々な音があるからなのか、同じ大音量でも気にならないが、開演前の静かな会場で大音量の1音ないしは3音くらいが流れるのは少々驚く。

 開演まで1時間を切ると、ステージ両側にあるディスプレイからCMが流れ始めた。


To be continued…


ライブが始まる前の高揚感。過去話を挟みましたが、このライブは参加できなくなったメンバーの代打ではありますが、友人たちからの悠夏を元気づけるために誘ったもの。親戚の手厚いフォローもありつつ、少しずついつもの悠夏に戻れているのだろうか。次回はライブ開演よりも終演以降の話をやろうかなと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ