第282話 居場所と関連がありそうな事柄
倉知副総監は、徳島城跡の公園で周囲に目を光らせていた。遠くから阿波踊りの活気が聞こえてくるが、この辺りは人影が少ない。とはいえ、人混みに酔ったり休憩のためだったり、色々な理由でここに来る人もいるようだ。
明治時代に”全国城郭存廃ノ処分並兵営地等撰定方”、別名”廃城令”が出された。全国の城郭を存城させるか廃城させるか決定し、これにより多くの城が解体されたそうだ。徳島城もこれにより解体された。唯一残った鷲の門だったが、空襲により焼失。平成元年、鷲の門が復元されたそうだ。
ちなみに、鷲の門と徳島中央警察署は、国道の交差点を挟んだ向かい側の位置にある。この交差点は、一方通行や左折専用となっており、信号が2方向しかないそうだ。
倉知副総監は周囲を見ながら、鷲の門まで来ると電話がかかってきた。電話は小渕警視正からだ。
「依頼の件、県警に真っ先に確認しましたが、どこも空振り」
「わかった。ありがとう」
「城址も対象にするかどうかは、現場の余力次第で」
20秒ほどの会話で電話を切った。
*
病院の会議室で悠夏と鐃警、榊原警部、藍川巡査が捜査資料やこれまでの情報を整理しつつ、遠賀の居場所を考える。しかし、遠賀の情報はあまりにも少ない。
各局関係者に電話をかけ、榊原警部は情報を収集し
「高知県警からの情報だと、元々会社のあった付近を捜索しているが目撃情報もないそうだ」
新潟県警に団三郎狸に対して捜査協力を依頼したい旨は伝えている。しかし、この短時間で連絡がつくわけもなく、時刻は20時30分を迎えようとしていた。
警察無線から新たな情報が伝達される。
「SNSのアカウントの所有者を特定。アカウントに登録された電話番号は飛ばし携帯と判明」
SNSのアカウントと言われ、そういえばと、悠夏は当時の投稿内容を調べ始める。内容は”諸君。君たちに絶望を与える。陸海空を封鎖し、孤島となった4県。抜け出す者がいれば、誰かが犠牲となる。この地に住む者も無関係ではない。火災か爆発か、殺傷かそれとも……。これより4県より飛び立つであろう銀翼に刮目せよ。そして、この封鎖された地には国際手配犯が複数いる。不安に怯えるがいい”という複数の音源を混ぜた声で真っ黒の動画であった。
「これ……銀翼に刮目せよって、高知空港の狸人が起こした火災って意味だと思ってましたが、4県って言ってたんですね」
「いずれの空港も滑走路を閉鎖したので、飛ぶことはなかったんですよね」
「飛行機を飛ばすな、着陸させるなという脅迫の意味だろうな」
「国際手配犯もブラフでしたし。とはいえ、本件に関わらず、実際に潜伏しているかもしれませんけど」
そんな不穏なことを言うのは藍川巡査だ。悠夏はそんなことをいちいち指摘するよりも、投稿内容を見返して
「アカウントは”魔王”……。これを投稿したのが、本件をリークした人物だとしたら……。警部、フツー、魔王ってどこにいると思いますか?」
「魔王ですか? 城?」
鐃警に言われて、悠夏は四国の城を調べ始める。四国で現存する天守は、高知県の高知城、香川県の丸亀城、愛媛県の松山城、同じく愛媛県の宇和島城の4つである。
「遠賀が城にいる?」
榊原警部に聞かれたが、確証はないし、まるで連想ゲームだ。
「この四国で事件が起きることは、秋田で誘拐事件を起こした真犯人からのタレコミでした。この投稿も同じ人物がリークしたとしたら……」
悠夏はこの考えを一度倉知副総監に相談するかどうか考えていると、丁度倉知副総監から電話がかかってきた。
「もしもし、佐倉です」
「そちらの状況は?」
「はい。あの……、SNSの投稿内容から遠賀は城にいるのではないかと思いまして」
「なるほど。しかし、高知城と丸亀城、松山城、宇和島城なら県警が数分前に調べ済みだ。空振りだったが」
「同じ考えを……」
「指示を出したのは私だが。それに、徳島城跡を調べたが、遠賀らしき人物は見当たらなかった。一応、それ以外の城跡も順次調べることにはなりそうだが……」
「今工事中の場所とかがあれば、身を隠せそうですけど……」
悠夏は少し考えると、倉知副総監に1つ質問をする。
「倉知さんは、魔王と言われたからどこにいるイメージですか?」
「どこにいる……。城だな。高いところにある。もしくは孤島か」
「……孤島、高いところですか」
悠夏はネットで様々なワードを付けて、城跡を調べてみる。すると
「もしかして……」
「何か見つかったか?」
「倉知さん。小豆島の捜索を依頼したいです」
*
瀬戸内海に浮かぶ小豆島。香川県小豆郡の小豆島町と土庄町の2町からなり、人口は2万6千人ほど。小豆島を管轄するのは、小豆警察署。島の南西に位置する。そして、島の東部には瀬戸内海最高峰の星ヶ城山がある。標高は817メートル。西峰山頂には星ヶ城跡があり、人気の景勝地である。星ヶ城と美しの原高原の間には、寒霞渓という渓谷がある。しすて寒霞渓には、ロープウェイがある。とはいえ、ロープウェイの営業時間は17時までのため、すでに営業終了だ。寒霞渓には、ドライブコースとしても人気のスカイラインがある。
夜景を見ようと、スカイライン沿いの展望台には、バイクや車が数台駐まっている。観光客が写真や動画を撮影していると、サイレンの音が聞こえてきた。パトカーが5台ほど、走り去っていく。さらにヘリコプターの音が近づいてくる。
先頭のパトカーの助手席に乗る堀越警部は警察無線で
「こちら小豆警察署。指示通り、星ヶ城山へ緊急走行中。あと3分ほどで登山口には着くが、山頂までは」
報告中に、ヘッドライトに照らされた何かの影が横切る。運転手の見目巡査が思わずアクセルを緩め、ブレーキを少し踏んで、スピードが落ちる。
「あっちは駐車場だな」
横切った影が向かったであろう駐車場へと向かうと、真っ暗な中に大勢の人影が見える。
「何ですかあの人影……」
真っ暗な闇を照らすヘッドライトとサイレンの光。パトカーに気付いた20人ほどの人影が一斉にこちらを見る。
「狼狽えるなよ」
堀越警部に言われて、見目巡査は「はい」と一呼吸してパトカーから下りる。
「警察だ。こんなところで何をしている?」
観光客ではない。周辺に車は見当たらない。到着したパトカーからも警察官が車外に出る。それでも、相手グループの方が多い。
20人近くいる人影の中で、1人が動き前へと出る。
「ヤツに対して、我々は恨んでいる。救護はしない。ここに来たのであれば、処遇は任せる」
そう言って、人影が広がる。囲んでいたところには、誰かが倒れている。
「見目、救急車だ!」
堀越警部が駆け寄ると、泡を吹いている男がいた。写真から随分と窶れた姿になっているが、遠賀で間違いない。
To be continued…
愛媛県の今治城は復元天守らしく、結果、愛媛県のには3つの天守閣があるみたいです。徳島には復元された天守閣はないそうです。
ついに遠賀を逮捕。事件は一旦幕を下ろしそうです。未解決の関連事件が残っていますが……
次回からまとめに入り、関連する事件はそのあとにでも
一旦区切りがつけば、短い話をいくつかして、300話以降長編をやるかどうか考え中です。正直、この四国狸の話がどんどん要素が増えていき、当初の想定よりも何倍以上にもなりました。もう少しだけ書いて、次の話をできればと思っています。




