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第28話 ダイイングメッセージの先

 藍川(あいかわ)巡査は電話を切らずに、テーブルの上に置く。画面は伏せて、通話中であることを隠している。

「何点か、差し支えなければ教えていただきたいのですが」

 そう言うと、落合(おちあい)専任課長と野方(のがた)は「は、はい……」と了承し、

「被害者の杉戸(すぎと)さんは、過去に金銭面で困っていたりは……?」

 すると、落合さんが答える。

「特には。困ってそうには、感じなかったですね。お金がないとか、そういうのは、杉戸主任の口からは聞いたことないですね」

 藍川巡査は申し訳なさそうな表情で

「実際、お給料とかは……」

「給与は30万~40万ですね」

 ということは、ざっくり手取りは25万~35万とかだろうか。いや、もっと引かれるだろうか。いくら引かれるかは、個人によるだろうが……。そうなると、都内の家賃は10万以上が多いだろうし……。でも、聞きたいのはそっちではなく

「なるほど。会社としても売り上げは良いのでしょうか? 例えば、昨年の売上高とか」

「2億1千万で、中小企業の平均が4億~5億と言われておりますので、正直、低いですね……」


 会話は、鐃警が電話経由で聞き、それを悠夏へ伝える。

「2億1千万で、進めますか?」

 悠夏が数字を打ち込み、決定ボタンを押すと、

「進みました。でも、よく答えてくれましたね」

「アプローチの仕方は、やっつけ感が否めないですが……。結果、情報が聞けたので、そこは言わないことにします」

 悠夏が主人公の橋爪(はしづめ)を操作して、先へを進めると……

「経理課って、表示が出ましたね」

 鐃警の言うとおり、画面左上に経理課と表示された。VRのため、背景は悠夏が見る方向によって動く。一つ前の事務所の部屋と変わらない。使い回しだと分かるつくりだ。普通なら、それを気付かせないように配慮するのだが……。特に、いろんな所が見えるVRだし。そういった、使い回しやストーリーが成立しない会話。さらに、プレイヤーが解けないクイズ。なんとなく、嫌な予感がする……。悠夏は一応、確認で

「警部、この画面って、撮ってるんですよね……?」

「えぇ、ハードディスクに保存してますよ。一瞬の映像でも、あとで証拠として使えるように、バッチリと」

 機器とモニタとを繋ぐ配線の途中に、録画できるレコーダーと挟んでおり、冒頭から録画している。すでに3時間以上連続でプレイしているが、レコーダーが自動で区切り、容量もたっぷりあるので、問題は無いだろう。ちなみに、途中で鐃警が保存された動画をコピーして、再生できることを確認済みだ。で、

「ここにきて、経理部……。嫌な予感がするんですが……」

「被害者のダイイングメッセージが、そろそろ分かるってことですかね? 主人公と同行者の会話が続いているので、こちらで調べたことを話しますね。ゲームは続けてください」

 鐃警はそう言って、藍川巡査が持ってきた事件に関する資料と、自身が調べたことをまとめた文書をパソコンの画面で開き、

「有限会社リアーリャ・チバティルは、従業員が49人。創立は2005年ですので、有限会社法が廃止される1年前ですね。当初は、有限会社ファーディアルでした。VR元年と言われる2016年に、社名を変更。2006年5月1日以降は、特例有限会社という制度になり、新規に有限会社は設立できないようです。さらに、新たに特例有限会社を設立することもできないみたいですね。あくまでも、会社法施行以前に、有限会社だった会社のみですねかね。細かい点は省きますが。社名変更はできたようですが、有限会社の文字は必ず使用することが決められています。で、この特例有限会社は、決算の公告義務はないようですね。あと、有限会社は50人以下って書いてますが、この特例有限会社は、その50人以下という制限が撤廃されたみたいです」

 鐃警はそのあとも、調べたことを話す。例えば、特例有限会社だと、取締役の任期制限が無いとか。なお、株式会社は任期が最大10年である。監査役を設置しても、業務監査は行わず、会計審査のみとか……。

 いろいろと言うけれど、悠夏は右から左へ、頭に入ってこない。ゲームの会話で頭がいっぱいだ。ただ、これだけは聞き取れた。

「特例有限会社って、会計監査の義務がないみたいですね」

 鐃警がそう言ったあと、ゲーム画面に変化が。

 主人公の橋爪が経理課のデスクで何かを見つけたみたいだ。「これは!?」とセリフが出て……

「あれ……?」と、悠夏が焦る。

 それに気付いた鐃警は

「どうしました?」

「フリーズしました……。何の操作も受け付けない状態です」

 画面上には、会話ウィンドウに”http://”で始まるURLが表示されている。

「URLですね……。ここにアクセスしろ、ってことですかね?」

 鐃警はURLをパソコンの文書ファイルに転記する。勝手にハイパーリンクが生成されるが、無視だ。無闇矢鱈(むやみやたら)に、見知らぬリンクを開いてはいけない。

「サイバーセキュリティ課に依頼します。ウイルスとかだと、いろいろと問題になりますので」

 鐃警が内線を使おうとしたが、今は外線で藍川巡査に繋がっている。特課の固定電話は1つのみ。子機はない。鐃警は、藍川巡査の電話を切り、再度電話をかける。


 テーブルの上に置いた携帯電話が着信音とともに震える。藍川巡査は「すみません」と断って、再び会議室の端で電話に出る。

「もしもし、売上額は大丈夫でした?」

「おかげさまで。藍川巡査は、そのままリアーリャ・チバティルで聞き込みをお願いします。我々は、『狭霧の鍵』で手に入れたピースを確かめるために、サイバーセキュリティ課に協力を依頼しますので。その結果次第では、リアーリャ・チバティルに対して、追加捜査が必要かもしれません」

「警部、分かりました。予定を延長して、こちらも聞き込みを続けます。場合によっては、他の人にも聞き込みをしてみます」


 サイバーセキュリティ課。瀧元(たきもと)君は不在らしく、伊與田(いよだ) 武章(たけあき)という男性が対応する。伊與田は、眼鏡をかけた30代後半で、独り身とは思えないような出来る人って感じの風貌だ。悠夏(いわ)く。

「警部の要望とあれば、対応いたしますが、見たことないドメインですね」

 そう言って、パソコンを操作してドメインを打ち込み、所有者情報を検索する。ドメインとは、ホームページなどでアクセスする際に、URLの"www."を含んだり、".com"や".co.jp"で終わったりするような固有の識別子である。その宛先の所有者を調べると、

「所有者は、大手のインターネットプロバイダで、サーバーの所在はレンタルサーバー会社ですね。2社に問い合わせれば、エンドユーザーは比較的簡単に特定できると思いますよ」

「そのユーザーも気にはなりますが……」

 と、鐃警は本題を調べて欲しいと急かし、伊與田は

「肝心のURLの件ですが、ここからアクセスするのは危険ですので、最悪の事態を想定して、ウイルスに感染しても影響が出ない環境でアクセスします」

 そう言って、ノートパソコンを開く。ノートパソコンは、データが全く入っていない初期状態である。あくまでも、見た目は。実際は、かなり設定がされているらしいが、聞いたところで分からないだろう。ユーザーは架空で作成し、ネットへのアクセスも、専用のLTEルーターを使用し、万が一に備える。伊與田が言うに、ネットワークウイルスに感染させるために、使用することもあるという。無論、事件の捜査上で必要があれば。

「さて、URLにアクセスしますね」

 すると、ファイル名がずらりと並んだページが開いた。伊與田はページを見てすぐに

「サーバーに入っているデータが、そのまま見えてますね。普通は、こういう表示をさせないように設定するんですが」

「上から開いても?」

 鐃警が確認し、伊與田が一番上の”20180322231128.pdf”というファイルを開く。読み込みが終わり、ファイルの内容が表示されると、”決算書”と書かれた文書だった。文書の右上には、手書きで赤いバツ印が書かれている。

「決算書……」

 悠夏の嫌な予感が当たりそうだ。

 次のファイル”20180328021155.pdf”は、同じく決算書で、右上に赤字で税務署提出用と書かれている。

「ぱっと見だと、分からないですね……」

 鐃警の言うとおり、2つを比較してもあまり分からない。見た感じだと、金額は変わってなさそうだ……


To be continued…



有限会社って、もう新設できないんだと今回の話を書きながら初めて知りました。株式会社以外に、合同会社や合名会社、合資会社とかあるんだな。ただ、今回はあんまり関係ないかな……。鐃警が頑張って説明してますが。

『龍淵島の財宝』で登場したサイバーセキュリティ課の伊與田さんが本編に初登場です。

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