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第278話 破綻し続ける計画

 高知県土伊佐村(といさむら)にある八万十(はちまんと)ダムの建設現場。去年の台風で発生した土砂崩れにより、当時の詰め所だったと思われるプレハブは半壊している。付近に街灯や照明はない。真っ暗ななか、慣れた目で相手のシルエットが見える。三入(みいり)は懐中電灯の明かりを消して、煙草の火で顔が照らされる。相手からは自分の顔がハッキリと見えるだろう。

「話はそれで終わりか?」

「随分と余裕そうね」

「俺がどうしてここに来たか知りたくないか?」

「ここを焼きに来たんじゃなくて?」

「それでも良かったが、散々言っただろ? 何度も何度も計画を変更せざるを得なかったと。()うに元の目的など、どこへやら。これ以上ここでは事を起こすつもりはない。だからさ、さっさとバリケードを取っ払ってもらえないかな?」

 三入の要求は四国を封鎖する状況を止めることだ。

「空港でやったことも見逃せと?!」

「こちらにいたお仲間を解放した。ただそれだけだ」

 冷酷な三入に激怒する女性記者は

「あんたをここから返すつもりはない」

「いいのか? 手駒はなくなっても、俺の仲間はまだ捕まってないぞ」

 三入のいう仲間とは誰のことだろうか。おそらく誘拐事件の共犯者である櫧荃(かしうえ) 立夜(りゅうや)だろう。遠賀(おが)は仲間ではなく手駒としてカウントしている可能性が高い。

「もう手がないのに、お仲間で何ができると?」

 記者の問いに三入は答えない。手の内を全て明かす必要はないし、はったりだった可能性もある。三入はゆっくりと一服し、煙草の火を明かりにして、腕時計の時間を確認する。

「時間はある。憎いなら、俺に突っかかってきてもいいんだぞ?」

 1本目の煙草を終えると、三入は地面に落として靴底で消す。会話は途切れ、三入はもう1本煙草を取り出してライターで火を付ける。


    *


 時は遡り、まだ周囲が明るい頃、警視庁刑事部捜査一課の千石(せんごく)警部と秋川(あきがわ)巡査長は、東京都大田区(おおたく)蒲田(かまた)に来ていた。京浜東北根岸線の蒲田駅と私鉄の京急蒲田駅に挟まれたこのあたりは、羽田空港や品川、横浜など各方面のアクセスに優れているそうだ。ただし、航空法と都市計画に基づく高さ制限がある。

 呑川(のみかわ)の橋を渡り、メモした住所の場所を探す。ネットを使えばすぐに分かるのに、千石警部は足を使って調べている。秋川巡査長は地図アプリで場所を調べており、さりげなくアシストして目的のアパートに着いた。

 3階建ての築40年は超えていそうなアパート。殺風景な外階段は扉などなく、誰でも各部屋の扉の前まで行ける。というよりも、インターホンを鳴らすにはそこまで行かねばならない。メモによれば、2階の207号室らしい。

 2人は階段を上がり、207号室へ。郵便受けはそこそこ溜まっているようだ。

「しばらくいないかもな」

 千石警部はそう言って、インターホンを鳴らす。しかし、反応はない。もう一度鳴らしてみても結果は同じである。ドアをノックして声をかけても、中から物音がしない。

 秋川巡査長は扉の横にあるメーターボックスを開けて

「メーターも動いていないみたいです」

 それを聞いて、千石警部は隣の708号室のインターホンを押す。こちらは郵便受けが空になっており、人がいる可能性が高い。

「どなたですか?」

 扉は開かずに、女性の声がドア越しに聞こえる。

「すみません、お隣の207号室の方について伺いたく」

 千石警部は、ドアスコープから見えるように警察手帳を見せる。

「警察の方ですか?」

「そうです。ご協力いただけますでしょうか? ご不安でしたら、ドアチェーンをした状態でも構いませんので」

「メイクしていないので……」

「ではこのままでも構いませんが、お隣の方についてご存じのことがあれば情報をいただきたく」

「お隣さんって、女性のたぶん記者の方ってくらいでそれ以上のことは」

「最後に見かけたのはいつ頃か分かりますか?」

「さぁ……。ごめんなさい、それ以上のことは分からなくて」

「そうですか。ご協力ありがとうございます。こちら、私の名刺ですので何かあればご連絡ください」

 そう言って、千石警部は自分の名刺を郵便受けに入れて頭を下げて別の部屋へと向かう。次は206号室である。

 インターホンを鳴らすと、こちらはドアを少し開けて

「なんでしょうか?」

 ぱっと見、女子大学生のようだ。すぐに扉を開けるのは不用心だなと思いつつ、千石警部は警察手帳を見せる。すると「マジ? 本物?」と喜んでいるが、相手せずに本題へ入る。

「お隣の207号室の」

「こわちゃんがどうしたの?」

 どうやら虎和希(とらわき) 剛美(こわみ)だからこわちゃんと呼んでいるらしい。

「ご存じですか」

「ご存じもなにも、勉強を教えてもらってて」

「どちらにいるか知っていれば」

「そういや、しばらく仕事で外に出るって言って……、どこだっけ」

 女子大学生の窓原(まどはら) 千季(ちき)は、大きなストラップの付いたスマホを操作して剛美にメッセージを送る。

「今聞いてる」

 すると、すぐに返事があり

「高知だって。もしかして、刑事さん連絡取りたい?」

「それができればありがたいな」

「分かった。ちなみに用件は?」

「悪い人を捕まえるために、虎和希さんに協力をお願いしたい」

 窓原は疑わずに、メッセージを虎和希に送る。おそらく最初は断ったのだろうが、窓原が何度もメッセージを送り

「オッケー出たよ、刑事さん」

「ありがとう」


    *


 アパートから少し離れて、本部に報告を入れるころには、日が暮れている。

「千石警部、今日はかなり丁寧でしたね」

「副総監に警視長やらの名前を出された以上、成果なしでは帰れんからな」

 瀧元巡査長からの依頼だが、倉知副総監や紅警視長の名前を出され、元を辿れば特課からの依頼だという。瀧元巡査長から電話がかかってきた。

「すみません。現場が取り込み中で、連絡をお願いしたいのですが」

「それくらいそっちでやんないのか? そんなに忙しいのか、そっちは? 電話するのはいいが、どうなっても知らんぞ」

「千石警部、どうなっては困ります」

「他にいないのか?」

「他にいないので、千石警部に捜査をお願いしましたので……」

「知らんぞ、どうなっても」

 千石警部は電話を切って、入手した電話番号にかける。相手は2コール目で出た。


To be continued…

話の舞台は前話に続き高知県。(ただ、架空の場所ですが……)

東京では蒲田へ。それ相応のメンツの名前を出されたためか、千石警部は持ち前の勘はそのままにしつつも、かなり丁寧な対応をしていました。ちなみに、一連の対応は妻への接し方と同じらしいとか。

さて、次回の更新は出来次第かいつもの木曜目標です。

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