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第268話 視線の先

 徳島駅には有人改札とリニア専用の自動改札があり、リニア専用は運転見合わせで封鎖されている。有人改札はリニアができるときに無くなると思われたが、切符やICの対応コストを考えて自動改札はリニアだけになったそうだ。

 普段は観光情報を流すモニタは、緊急事態につきテレビの映像がそのまま放映されている。徳島線と鳴門線(なるとせん)牟岐線(むぎせん)高徳線(こうとくせん)は通常通り運転しているようだ。ただし、案内には”阿波踊り開催による臨時列車は運休しています”と書かれている。汽車は普段1両編成が多いところ、阿波踊り期間中は4両編成で運行されており、この状況下でも人の乗り降りは多い。

 有人改札の両脇や駅の出入口には鉄道警察隊が目を光らせ、指名手配および重要参考人がいないか確認している。

 駅の1階にある事務所で阿波踊り実行委員の人々と話す。倉知(くらち)副総監が話し込んでいる中、悠夏(ゆうか)は周囲を見渡す。多少人影は少ないようだが、それでも例年より多少少ない程度だろう。屋外に出れば、(たちま)ち人でごった返す。

 倉庫。ロッカー。使われていない会議室。休業日の店舗。改装中の店舗。空き家。船舶。航空機。いずれも空振りだった。4県のどこからも遙真(はるま)遙華(はるか)の情報は出てこない。ここから飛び出して片っ端から調べるとしても、闇雲に調べては効率は悪い。

 犯人が隠すとすればどこだろうか。そもそもこの事件の犯人はこれまでの誘拐事件と異なる。土佐島(とさじま)での被害者は、倉庫から見つかった。犯人が遠賀(おが)さんか会社関係者だとしたら、模倣するならば倉庫だろう。そう考えるのは、思い込みだろうか。

 捜査本部から鉄道会社へ捜査依頼を行い、運休やメンテナンス中の車両内の捜索を打診し、その結果はまだだ。建物の屋上にいる可能性や給水塔といったいろいろな場所が挙がり、上空からのヘリでも、犯人と遙真と遙華の捜索が行われている。

 救出された人が本人では無く、化けた狸人(たぬきびと)だったという話を聞いたが、それは湖舞(こま)さんのときが該当した。悠夏の母親、佳澄(かすみ)は紛れもなく本人だった。あの情報で焦ったけれども、悠夏が母親を間違えるだろうか。

 じっと待つことがもどかしい。何かをしていないと……。悠夏が落ち着かない様子であることは、鐃警(どらけい)から見て簡単に分かる。ただ声はかけなかった。落ち着いてくださいと言うのは容易だが、それを言っても落ち着けるだろうか。

 悠夏はもう一度周囲を見渡す。家族が乗りこんで動き出すエレベーター。有人改札で切符を切る駅員。自販機で何を買おうか悩んでいる少女。扇子を扇いで「暑いね」と会話してそうなお母さんたち。汗だくで走り回る子ども達。この時期に就活だろうか、スーツ姿の新卒の子。切れているのだろうか、1箇所付いていない蛍光灯がある。少し暗い場所でじっとしていた年配の男性は、飲み干して空になってしまった缶ビールの捨て場所を探し始めたようだ。これから踊るであろう法被を着た男性3人は、お茶を買いに来たようだ。前を歩いている人が何かを落としたのだろうか、青年が声をかけると赤子を抱えた女性は頭を垂れる。何か嫌なことがあったのだろうか、少女が泣きじゃくって父親に何かを訴えている。その父親は困った顔をして電話している。駅前には大々的に垂れ幕があり、阿波踊りとコラボしたキャラクターが踊っているイラストだ。その垂れ幕を写真撮影する大学生くらいの男性4人組。トイレから出てきた女性は何か忘れ物をしたのか、すぐにまたトイレへと戻っていく。

 犯人グループと思しき人物は見当たらない。遙真と遙華もいない。券売機の路線図を見ると、四国内と周辺の乗換駅に関して金額が記載されていている。東京の路線図に比べれば簡易だが普段乗らない人だろうか、迷いながら切符を購入している。これから乗るのかと思えば、切符を買うと駅の出口へと歩いて行った。帰りの切符を先に購入したのだろうか。

 視線はさらに動く。商業施設の入口にはイベントのポスターが貼られている。スタンプラリー実施のポスターで、阿波踊りとは別のイベントのようだ。そのポスターで少し隠れているが、奥に機械が見える。精算機である。悠夏はその精算機を見てから視線が動かない。

 鐃警が悠夏の視線に気付いてが、目に入ったのは手前のポスターだ。

 ”探していないところがまだある……!”

 悠夏はそれに気付いて、すぐにタブレットを操作する。地図を開いて検索するのは”駐車場”。検索で表示された駐車場の数は20以上、駐車場のマークがあるが検索に引っ掛かっていない場所もある。これを全て探すには時間が足りない。駅前には立体駐車場や平面駐車場もある。

 犯人ならばどこに隠すだろうか。平面駐車場は外から車内が分かり、立体駐車場も……。違う。犯人たちの考える観点は”見つけにくさ”。地下駐車場ならば、四国内のどこでもいい。商業施設の駐車場は警備員が巡回しており、長時間車両を放置していれば分かる。

 犯人は人質を殺害する気があるのだろうか。連続犯とは別の元会社員だろう。スマホを道中で捨て、車も途中で変えている。山や人目に付かない場所ならば、複数の車を乗り継ぐだろうか。カメラがあるから足が付かないように警戒している。会社は高知にあった。八万十ダムも……。誘拐されたのは土佐島。だったら、高知県警に恨みをもって晴らしたいと思う。わざわざ阿波踊りを狙う理由は……。参加者か会場に”ターゲット”がいる?

 ターゲットって誰? 阿波踊りの参加者を狙うのなら、そこだけ狙えばいい。四国で混乱を起こすのは何故?

 まさか……。1つの可能性に辿り着く。

 狸火(たぬきび)は狸人が起こしてる? 四国と秋田の事件は別だと切り分けた。四国内の事件も1つではなく別。誘拐犯は模倣しているだけ。狸人は狸火を起こして、四国内からの逃げ道を塞いだ。それぞれの理由はまだ分からない……。金長狸(きんちょうだぬき)が他人事のように不干渉のようにみえたのは、そういうことだから? つまり、金長狸は狸人の(くわだ)てを隠蔽(いんぺい)している?

 地図を開いたままのタブレットの画面上部に通知が届く。徳島県警からの捜査報告が情報展開されたようだ。通知をタップして、文書ファイルを開く。専用回線のため、開くまで時間がかかる。グルグルと読み込みマークが回る。しばらくして表示された文書には防犯カメラの写真が載っている。

 ”八井田(やいだ) 諸誓(もろちか)安瀨地(あぜち) 恋那(れんな)に関して”と書かれた書類には、悠夏の実家から車を乗り継いで逃走している写真が載っている。3台の車を乗り継いで逃走。そして、その逃走方向は徳島市内だった。国道や県道の走行は避けて、カメラの少ない田舎道や吉野川(よしのがわ)の土手沿いを走行していたようだ。報告書には事前に車を2台手配していたことから、かなりの計画性とみられると書かれていた。放置された車両ならびに、用水路から被害者のスマホや私物を発見と書かれており、そこには遙真と遙華のバッグやスマホが写っている。

 ボロボロに汚れ、スマホは画面を割られて折れ曲がっている。それを見た悠夏は、我慢しきれなかった涙がほんの少し(あふ)れて落ちる。すぐに切り替えようとするが、また(こぼ)れそうだ。指で涙を(ぬぐ)い、ぎゅっと力強く目を(つむ)る。

 深く呼吸をして自分を落ち着かせる。捜査資料をもう一度見ると、車は当初高松方面を目指していた。しかし、3台目に乗り換えてからは南へ進んでいる。不審に思った悠夏だが、そこは捜査班も感じたことでもあり、文書にこう書かれていた。

 ”瀬戸大橋(せとおおはし)が封鎖された時間から車の走行ルートが変わっており、被疑者は計画を変更した可能性が高い。”

 瀬戸大橋は狸火により封鎖された。もし悠夏の推理が正しいのであれば、狸人は己の命と引き換えに四国の出入口を封鎖する必要があるだろうか。もしも、狸火と誘拐事件が関係していて、狸火に2種類あったとしたらどうだろうか。誘拐事件と関連する狸火と、狸人が起こした狸火。

 ”一体、四国で何が起こってるの……?”

 悠夏は一度事件の考えを止め、地図アプリに戻る。自分がまずやること。それは遙真と遙華の救出。被疑者は2人を連れて徳島市内へ向かって走行している。まだ調べていない場所、地下駐車場の捜索。阿波踊り期間中も営業中の地下駐車場は多い。期間中閉鎖されている駐車場を調べて探す。しかし調べても満車表示ばかりだ。

 悠夏は、思いつきで新町(しんまち)小学校の場所を調べたときの臨時駐車場のページを履歴から探す。リンクを開くと、臨時駐車場の地図が表示される。そのページをスクロールすると

 ”市営新町地下駐車場および市営紺屋町(こんやまち)地下駐車場は交通規制区内のため、交通規制時間内に入庫できません”

 とにもかくにも、行くべき地下駐車場は2箇所だ。

 このときの悠夏は気付いていない。入庫は不可(・・・・・)だが、出庫は可能であることを。遙真と遙華のいる地下駐車場は、入庫と出庫、両方のシャッターが閉まって閉じ込められていた……


To be continued…


今回は1話丸々 悠夏の推測と説明でした。セリフなしの回です。

ついに遙真たちのいる地下駐車場に気付く悠夏。しかし、遙真たちはシャッターで閉鎖された地下駐車場でした。第249話で”徳島市営地下駐車場”であることは分かっており、徳島市内ではあるみたいですが。

メタい発言をするならば、実在する駐車場を出すのは憚られるので…

結局、今回の騒動は犯人側の動向が分からないため紐解くのが難しいのでしょう。ちなみに犯人の車を追ってカメラ映像を捜査中の沢田班ですが、逃走ルートのまだ半分もいってないと思われます。つまり、4台目以降があるかどうか分からず、徳島市内のカメラは未捜索です。

次回より、特課による徳島市内の捜索が始まります。

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