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第266話 数多の曲調で踊りし黄昏の刻

 愛媛県南部に位置する宇和島市(うわじまし)。市街地の中央に位置する標高73メートルの丘陵(きゅうりょう)に築かれた宇和島城(うわじまじょう)。江戸時代以前の天守が現存している12城の1つである。ちなみに、香川県の丸亀城(まるがめじょう)や高知県の高知城、松山市の松山城もその1つである。貴重な歴史的文化遺産として、重要文化財の指定を受けている。

 観光客が宇和島城を訪れているが、急な大雨により、城内や郷土館で雨宿りしていた。スマホで天気予報を見ると、1時間くらいは止まないようだ。

 しかも豪雨だけでは無い。雷鳴が度々聞こえ、雲には稲光が走る。

 宇和島市から直線距離で約70キロ離れている松山市でも雲行きが怪しくなってきた。松山まつりの実行委員会の1人、灰塚(はいづか) 俊照(としてる)は1時間ごとの天気予報を見て

「18時から雨マークか……」

 降水量は30ミリと書かれており、表示ページを更新すると32ミリに増えた。気象会社や電力会社が提供する複数の雷マップを見ると、いずれも宇和島市や大分県方面から雷マークがこちらに向かっている。さらに落雷も観測している。

「灰塚さんやっぱりお天道様(てんとうさま)も決行するなと」

 大串(おおくし) 周生(しゅうせい)は午前中から中止を訴えていた1人だ。四国内が大混乱しているなか、悠長に祭りなどやっているどころか安全面を考慮すべきだと訴えていた。灰塚も大串の言うことは正しいと思う。犯人から決行せよという脅迫が無ければ。

「灰塚さん、降ってきましたよ」

 実行委員会で一番若い安彦(あびこ) 伊紅(いく)は、参加賞で大量に余ったタオルを手に取って濡れた髪を拭き取る。

「参加賞のタオル、ダンボール何箱余ってます?」

「2箱丸々」

「雨降るから、それ配りますか?」

「参加賞だぞ」

「中止になれば、この祭りを見に来た人に配ってもバチは当たらないでしょ。まさか来年まで持ち越すの? ”2019”って書いてあるのに? それとも廃棄?」

 灰塚が判断に躊躇していると、外からゴロゴロという雷鳴が聞こえてくる。雷様は想定よりも随分と早いご来訪のようだ。

「……県警に一言伝えてくる」

 雷による中止判断は至極当然であり、露店がそそくさと片付け作業に入る。提灯は灯ることも無く外される。

 愛媛県警の牛渕(うしぶち)警部は実行委員会のもとを訪れると、灰塚たちが撤収作業を行っていた。パイプ椅子やテーブルを折りたたんでいる。

「灰塚さん、いらっしゃいますか?」

「はい、自分ですが」

 牛渕警部と灰塚は、その場から少し離れる。実行委員会のメンバーは、雷雨が来る前にある程度片付けようと、手を休めることなくテキパキと進めている。

「倉庫やロッカーなど片付ける際にも隅々まで確認をお願いしたく」

「例の誘拐事件の件ですか。それはもちろんです」

「それと、高松で花火が盗まれたこともあり、確認したいことが。こちらも花火を打ち上げる予定でしたよね?」

「堀之内で今日も打ち上げる予定でしたが……」

 20時45分からのミニ花火ショーとして、堀之内で打ち上げる。昨日と一昨日も行っており、花火玉が盗まれたという報告はない。

「念のため、管理は一層厳重に」


    *


 松山のテレビ局では、松山まつりの最終日が悪天候により中止になったことを速報として報道した。犯人からの要求に叛くことになるが、悪天候が理由では已むを得ないと肯定的だった。

 高知龍馬空港の飛行機火災以降、大きな事件は発生していない。四国の出入口は依然として凍結。人の流れや物の流通も完全に止まっている。高松空港と松山空港へ着陸する予定だった国際線のうち、欠航前に飛んだ飛行機は岡山桃太郎空港と関西国際空港、福岡空港などに変更されている。

 悪天候とはいえ松山まつりの中止判断により、犯人グループの要求である祭りの開催に反する。SNSではそれを理由に、人々の不安を煽るような書き込みが増えている。

 警視庁が質問なしの会見を開き、松山まつりの中止判断は雷を伴うゲリラ豪雨によるもので、これはどの祭りでも中止と判断すると強調した。

 遠賀(おが) 里一(りいち)八井田(やいだ) 諸誓(もろちか)安瀨地(あぜち) 恋那(れんな)の指名手配について、今回の事件の主犯なのかとマスコミから多数質問されたが、捜査情報につき理由は差し控えるとした。

 その後、松山まつりの会場周辺の空き家や倉庫を捜索しても、遙真(はるま)遙華(はるか)の姿は見当たらなかったとの報告が愛媛県警から合同捜査本部へとあがる。

 さらに同刻、愛媛県警の捜査員は設和(せちわ)さんの家を訪ねていた。名葉(なば)は和歌山県在住だが、設和さんは愛媛に住んでいた。担当するのは関川(せきがわ)警部と河之内(かわのうち)巡査。

「伺いたいのは名葉 琢道(たくどう)さんに関してです」

 名葉は現在重要参考人として手配中である。彼女である 歌香(うたか)はスマホを握りしめて

「それが……、ここ最近連絡が取れなくて」

 歌香から名葉とのメッセージのやり取りを見せてもらったが、ここ2週間こちらから電話やメッセージを送っても応答が無いそうだ。

 歌香の父親、設和 (ひで)も名葉の姿は見ていないという。

「最後に会った、もしくは連絡できたのはいつですか?」

「3週間前に、式場の下見で……」

 詳しく聞くと、2人は婚姻直前で、初めて会った8月16日に籍を入れる約束をしているそうだ。今後結婚式を挙げるために、式場を下見することになっていたが、最初の式場の下見をしてから連絡が途絶えている。

 河之内巡査はカレンダーを見てボソッと「16日は仏滅……」と言ったため、関川警部はすぐさま河之内巡査に対して、無言だが表情で余計なことを言うなと訴えた。幸い2人には聞こえていないようだ。六曜を気にする気にしないは自由だし、2人は日付を大事にしており、そこに突っ込む必要は無い。おそらく、デリカシーに欠ける発言をした河之内巡査は、パトカーに戻ってから怒られるだろう。

「そうしましたら、2017年9月に石鎚山(いしづちさん)に登ったときの話を伺っても?」

 3人で登山していたが、途中で名葉と(はぐ)れてしまった。連絡を取ろうにも圏外で、2人は山頂には向かわずに下山を選択した。

 逸れた当時について聴き取りをすると、当時名葉が少し遅れて歩いていたため、歌香は度々後ろを確認していたそうだ。歌香から「一緒に行こう」とゆっくり歩くことを進言すると、名葉から「先に行っていいよ」と言われ、「ごめん。思ったよりも体力なくてかっこ悪いとこ見せて……」と謝ってもいたそうだ。

 途中休憩を挟みつつ、名葉は「すみません。もう少し休んでから行きますので」と、登山に慣れている設和親子を先に行かせた。

 次の休憩所で待っていたが、名葉の姿が全く見えず、道を戻ってもどこにもいなかったという。あとからやってきた登山客に、名葉のことを聞いても「そういった人は見かけなかったですね」と言われてしまった。

 設和親子は、名葉が遭難したと考え登山道を捜索した。しかし見つかることはなく、その日は早々に下山して警察に届けた。

 山岳救助隊による捜索が始まると、名葉が見つかった。名葉に「何があったのか」と聞いたが、「意識が朦朧として、夢を見ていたようです……」とだけ答えた。病院に搬送されて検査を受けたが、特に問題はなかった。

 設和親子から聞いた話は、金長狸(きんちょうだぬき)から聞いた話と辻褄が合う。式場を下見してから連絡が途絶えた名葉は、果たしてどこに行ったのだろうか。


To be continued…


今回は愛媛中心の話です。いろんな捜査員が各所で情報収集や事態の沈静化に向けて行動しています。

次回は香川県。これで4話かけた四国4件の状況が揃いますかね。

予約投稿をし忘れていたので、危うく今週投稿されないところでした。気付いて良かった。その場合は、気付いたときに投稿したかと。段々と露わになるこの事件。犯人サイドの行動があまりないようですが、愛媛の祭りは中止になりどのような動きを見せるのか……

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