第265話 鳴子を振り鳴らし黄昏の刻
よさこい祭りは、高知駅周辺の高知城や追手筋などで全国大会を行っている。この後のイベントとしては、18時30分から中央公園にて、前日まで開催された本番の受賞チームに対する表彰や後夜祭が行われる。
各地でよさこい祭りをチームが披露しており、盛り上がっている。人出が減っているようには感じない。こちらも正常性バイアスによるものなのだろうか。しかし、棄権したチームが少なからずある。運営のよさこい祭り復興会としては、犯人の指示に従い祭りを続行せねばならない。そのため、交渉してなんとか出場してくれたチームもあるが、果たして普段通りに踊れているのだろうか。たまに鳴子の音がずれていく……。
よさこい祭り復興会と高知県警、高知消防署が合同で提灯の点検を行う。徳島の阿波踊り会場で一部の提灯から火薬が発見されたためだ。それに最新の捜査情報では、高知県警が担当した事件の関係者が関わっている可能性が高くなり、高知県内での警戒レベルが上がっている。
中央公園の提灯をひとつひとつ調べていくと
「ん?」
提灯の中から黒い粉が見つかった。
高知県警高知警察署の捜査本部。四国警察合同捜査本部と常時繋がっており、デスクの端では、4人の捜査員が土佐島の事件資料を手分けして調べ直している。
捜査一課の薊野警部を筆頭とし、本来は強盗犯を担当しているが、臨時で手を貸している。薊野は力自慢の男性警部で、腕っ節の強い犯人を多く検挙してきた。誘拐事件の類いは担当したことが無く、どちらかというと部下達の力を考えて協力を名乗り出た。
女性巡査長の岡花は、事件資料を素早く分けて、担当を割り振る。薊野班のサブリーダー的存在である。伊野巡査と一条橋巡査は割り振られた資料に早速目を通す。
その隣のデスクでは、遠賀電工電気商会に関する捜査を行っている。担当するのは捜査二課の宿毛警部とその部下、安並巡査長、浮鞭巡査、藤縄巡査。主に企業犯罪捜査を担当しており、倒産した遠賀電工電気商会の捜査を率先して行うこととなった。
企業犯罪とは、その文字通り企業が不正や違法行為をすることだ。早速倒産当時について調べており、安並巡査長と浮鞭巡査は現場に出ている。
遠賀電工電気商会は高知市土佐港に1862年起業。業種は電気工事業として登録されており、高知県内の建造物を担当した他、電気小物を製造して販売していた。また販売代理店として、学校向けに高価なIT機器を販売していたそうだ。
従業員数は多いときで6名。社長は遠賀 里一。従業員は現在指名手配された八井田 諸誓、安瀨地 恋那。他には山峯 菜種、三井 摩季、下条 映彦、湶 叶架。全員が関与している訳ではないだろうが、運転免許証の住所を調べて手分けして聞き込みへ。住所によっては、管轄の警察官へ依頼している。
「こちら合同捜査本部。高知県警本部、応答願う」
音声通話により、本部間の情報共有が行われている。
「こちら高知県警本部。どうぞ」
「会場周辺の捜索状況について報告求む」
「中央公園の提灯2つから少量の火薬を検出。よさこい祭りも提灯は使用しないことになりました。周辺の倉庫や空き家は引き続き捜査中ですが、佐倉巡査のご弟妹の発見報告はありません」
「合同捜査本部より新たな情報を共有する。阿波新聞の記者虎和希 剛美が、剣山動植物園や八万十ダムの建設計画といった狸人に関する取材を行っており、何か彼女に関する情報があれば見落とさないように。彼女も狸人の1人とのことだ」
*
合同捜査本部の一角には関連人物を整理するため、ホワイトボードに人物の写真を磁石で留めて掲示している。
捜査員の1人が死亡者に写真を貼りかえる。
「古字さんと糸林さんの搬送先の病院で死亡を確認」
現時点での死亡者は次の通りだ。いずれも狸人であり狸火により命を落とした。悦見 富依、戒能 希輪、古字 英冴、尾楠 麻輸里、糸林 二千歩、真部 有剛、薮下 鈴湖、小舩 実瑠可、中阿地 欣美。
なお意識不明または治療中は次の通り。川に落ちて助かった由淵 威策。榊原警部と藍川巡査の救命行為により一命を取り止めた堀脇 勇尚。
ホワイトボードには保護している人物として次の通り掲示している。交番に助けを求めて駆け込んだ狸人の狐塚 茉未。救出された悠夏の母親である佐倉 佳澄。紅警視長の母親、紅 湖舞。湖舞と同じ場所で監禁されていた狸人の高六科 臣音。
保護できていない被害者は次の通り。悠夏の弟妹である佐倉 遙真、佐倉 遙華。
ホワイトボードのはそのほかにも、現在聴取の対象人物は次の通り掲示している。悠夏の母親を誘拐した田部井 琉介、非浦 勇地、島谷 久場。特課が確保した椋本 伊鞠。紅警視長の母親を誘拐した伊島 陞、甲森 英丈。
指名手配されている人物は次の通り。伊鞠を誘拐して仲間に引き込んだと思われる櫧荃 立夜、三入 将猶。
重要参考人として手配されている人物は次の通り。遠賀 里一。
*
再び、高知県警の捜査本部。
バタバタと音を立て、1人の捜査員が捜査本部に駆け込む。会議室内にいたほとんどの捜査員が、その慌ただしさに何事かと、その捜査員を睨むように見る。
「報告します! 八井田 諸誓の妻より、夫は遠賀 里一に強要されているとの情報が!」
「詳しく話せ!」
高知県警の捜査員が八井田の住むアパートを訪問。すると、扉は施錠されていおらず、不審に思った捜査員が扉を開けて声をかけようとしたが、玄関に妻の八井田 君歌が倒れいていた。救急車を手配し、声をかけたところ微かに意識がありこう証言したそうだ。
「夫が遠賀 里一に連れて行かれて……、このままだとあの人が犯罪者にされる……」
そう告げると、気を失った。病院に搬送されたが、意識はまだ戻っていない。
高知県警の捜査本部では
「重要参考人として手配中の遠賀 里一に関して、犯罪教唆の疑いで指名手配する!」
To be continued…
前回は徳島、今回は高知の状況と事件整理です。
徐々に明らかになる犯人像。事件被害者と加害者の数が増え、名前を羅列するだけでも大変。
次回と次々回は、香川と愛媛の状況についてを予定しています。
そして、事情聴取で新たな情報は出たのかどうか……




