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第253話 展開された情報

 少し(さかのぼ)り、警視庁生活安全部サイバーセキュリティ課。伊與田(いよだ)警部補は、”警視庁”と書かれたダンボールを自分のデスクまで運び込むと、ダンボールから袋に入ったノートパソコンを取り出して、電源を入れる。袋に入ったままのノートパソコンに、起動画面が出る。

 伊與田はふと思いついたことがあり、パソコンにパスワードを入力する直前に手を止めて

瀧元(たきもと)

 と、隣のデスクで作業していた瀧元巡査長を呼んだ。

「なんでしょう?」

「『狭霧(さぎり)(かぎ)』の事件資料で、害者(がいしゃ)の閲覧履歴……現物以外に残ってるか?」

「……どうですかね。あの大量のデジタルデータから探すよりも、現物から取った方が早いかと」

「……元も子もない。アーカイブ管理がなっていないって言われそうな」

「そもそも証拠物件、まだ検察に回してないんですか?」

「まだ回してないからここにあって、こうやって調べられる訳だ」

「答えになってませんが」

 瀧元巡査長と伊與田警部補の会話は自然とそこで途切れ、それぞれ作業に集中する。

 まもなくして、伊與田警部補は作業の手を止め

「佐賀県肥前村(ひぜんむら)……。調べてるな」

 履歴をスクロールして、前後を見ると

「聞いたことある名前が出てきたぞ」

 伊與田警部補の独り言に関して、話しかけてほしいのだろうと察した瀧元巡査長は手を止めずに

「誰の名前が出てきたんですか?」

斑鳩川(いかるがわ)探偵」

「……あぁ。……ん?」

 テキトーに相槌(あいづち)を打ったが、あとから聞き返すような反応になった。つい3週間ほど前の事件にその名があった。


    *


 大鳴門橋(おおなるときょう)から少し離れた鳴門山(なるとやま)展望台。駐車場からエスカレーターで展望台近くまで行け、大鳴門橋や高速に止まる車列が見える。通行止めの解除見込みは無いため、この車列はいつまでも滞るのだろう。高速隊が鳴門北インターチェンジへ誘導するが、それでも待つ人はいる。

 榊原(さかきばら)警部は手すりに(もた)れて、捜査本部から展開された情報を確認していた。煙草(たばこ)が吸えれば、ここで吸うと絵になるのかもしれないが、生憎(あいにく)一度も吸ったことは無い。父親はヘビースモーカーだったため、肺を悪くし、禁煙をしている。それを幼い頃から見ていたからだろうか。

「榊原警部。高知空港の件、聞きましたか?」

 藍川(あいかわ)巡査はペットボトルのお茶を2本持ってきて、片方を榊原警部に渡す。榊原警部は「ありがと」とお礼を言い、受けとったがペットボトルを見るとよく泡立っている。

「配ってた若い刑事が何本か落として転がったみたいです。自分のも」

 と、藍川巡査も泡立ったお茶を見せる。長持ちする泡は、茶葉や大豆、オリーブなどに含まれるサポニンと呼ばれる成分が作るらしい。

「高知空港の飛行機火災か?」

「もう続報が入ってますよ。倉知(くらち)副総監から展開された情報で、狸人(たぬきびと)変化(へんげ)の瞬間を人間に見られると炎を(まと)うそうですが、空港消防によると、高知空港は飛行機のラッピングに変化(へんげ)した狸人が出火元となり、エンジンに引火。搭乗していた2名は火災に巻き込まれ、変化(へんげ)を維持できず自身からも出火らしいです」

「かなり詳細に分かったんだな」

「空港に設置された映像と倉知副総監からの情報から、高知県警はそう考えられると。……被害者について、助かる見込みはあまりないそうです……」

「やはり狸人の炎は幻覚ではなく、本物の炎なのか」

 倉知副総監は、高速バスに乗っていた狸人のことを思い出していた。自分が監視していたため、狸人の男性、持ち物から名前が分かり、堀脇(ほりわき) 勇尚(ゆうしょう)変化(へんげ)が解ける瞬間に炎に包まれた。

「榊原警部が気に病むことはないですよ。我々は知らなかったが故、いつもと同じように対象を監視していました。それに、バックミラー越しで運転手も目撃していましたし」

 バスが横転した理由は、運転手がバックミラー越しで炎が見えてしまい、前方不注意で前を走る車に接触しそうになり、急ハンドルを切ってしまったそうだ。運転手の処遇に関しては高速隊に任せ、堀脇さんは救急車で搬送された。コンビニの商品を搬送するトラックから飲料水を大量に得て、消火活動を行ったことで一命は取り留めた。

 榊原警部は事件資料を眺めながら

「犯人は橋の上で同時多発的にどうやって事故を起こしたのか……」

「確かに、変化(へんげ)が切れるタイミングはまちまち。トレーニング次第ってことですよね? まるで潜水して呼吸を我慢しているような状態。全員が同じタイミングで変化(へんげ)が解けたのは()せないですね」

「何か一斉に変化(へんげ)を解けるような方法がある……?」

「考えられますね。このペットボトルみたいに落として転がしたら、必ず泡立つみたいな」

「……なんだその例えは?」

「いえ、こういう何気ない会話がよくドラマとかだとヒントになるじゃないですか」

 主人公が悩んでいるとき、何気なく言った言葉が引っ掛かり「今なんて言いました?!」とか「そうか!」なんて(ひらめ)くシーンがある。中盤か終盤の解決シーン前だろうか。

「あのなぁ……」

 榊原警部はわざわざ言う必要もないと判断し、言葉を飲み込んだ。ずっと相手していると終わりが見えないので、黙った方がいいと判断したのだ。

 藍川巡査はそんな風に思われているとは考えず、自分の考えを引き続き述べ始める。

「条件として考えられるのは、それぞれの狸人の変化(へんげ)が解けるまでの時間を管理していた?」

 一番考えられるパターンだが、精神状態によってその時間は変わらないのだろうか。トレーニング次第で長くなるのなら、誤差はあるだろう。

「犯人がタイマーを仕組んでいた?」

 簡単に言うが、どうやって。ポケットに時限式の何かを仕組んでいたとすれば、それが何かを調べないといけない。

「狸の苦手なものってなんですかね?」

 藍川巡査は榊原警部に問いかけたが、回答は得られない。狸は木酢液やミントなどの強い匂いを嫌うそうだが、そんな匂いがすれば誰かが気付くだろう。

「あとは……四国から離れようとしたタイミングで?」

 ほぼ同時に狸火が発生したのはあくまでも偶然で、四国から離れると変化(へんげ)も解けてしまうのだろうか。

 藍川巡査が考え込んだので、榊原警部は口を開き

金長狸(きんちょうだぬき)に聞けば何か分かるかもな。県警が連絡環境を整えているらしいから、そのうち聞けるだろう」

 金長狸がいたところは圏外だったため、徳島県警の警察官が駆けつけ、通信環境を整えているそうだ。金長狸の下山ができればいいのだが、自力では動けないため移動するより環境を整えた方が早いと判断したようだ。

 神社の境内に中継車を用意し、金長狸がいるところまではケーブルを敷く。祭りは片付け作業に入っていたため、中継車を置くスペースは十分にあった。


To be continued…


先週の予告通り、今回はサイバーセキュリティ課と捜査一課視点でした。

斑鳩川 (ひょう)の名前を久しぶりに聞きましたが、調べたら第145話以来みたいです。

本件、ここまでで解決したのは悠夏の母親救出のみですかね。遙真と遙華は地下駐車場で閉じ込められ、紅警視長の祖母は本人ではなかったそうですし、指名手配犯に関してや主犯についてもまだまだ。

狸火についてはもう少しで分かりそうなのかな。変化が解ける瞬間は誰も見なければいいということになりますが、そのタイミングが分からないと回避できないですね。

12月はなるべく更新できるように努めます。

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