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第251話 狸人の村

 金長狸(きんちょうだぬき)がどこから話すのかといえば

「すまぬが彼奴(あやつ)に関して名前は知らぬ(ゆえ)、なんと説明すべきか……」

 そう言って、まるで昔話の読み聞かせのように、首謀者に関する情報を語り始めた。

「何年も前の夏の終わり、(ひぐらし)が鳴く頃。登山道から外れて道に迷いし者が、ある村に辿り着いた。その村人達は人間の来訪に驚き戸惑ったが、人間は山道で(かす)り傷を負っていたうえ、軽い脱水症状のようだった。村人達は、その人間を追い出すことはせずに介抱した。

 村人達は人間ではなく狸人(たぬきびと)であり、大半は村から外に出たことがなかった。何故なら、この村人達は人間社会で生活できるように、変化(へんげ)の訓練を行っていた若人(わこうど)である。

 その日は外で生活出来る者が帰省しており、その者が下山してコンビニへ向かった」

 ゆっくりと語らう金長狸から、急に”コンビニ”という横文字が微妙なアクセントで出ていて、鐃警(どらけい)悠夏(ゆうか)はクスッときたのだが、両者ともに多分気付かれなかったと思いたい。

「コンビニでインスタントラーメンとウォーターを買い」

 金長狸のイントネーションがどことなくズレており、唐突な横文字ラッシュにわざと笑かそうとしていないかと疑う程だった。訛っているわけではあるまい。笑いなど無念なシリアスなシーンのはずなのだが。……文面では伝わらぬ。

「村人達は人間を救うために治癒を施した。(やが)()が明ける頃、人間は目を覚ました。村人は言葉を発せぬ者もおり、話せる者が駆け寄った。人間の身に起きたこと、自分達が治療したことを説明した。その人間は感謝を述べた。しかし、村に長時間滞在させる訳にはいかず、問題なく歩けることを確認し、人間を山道まで送り届けた。後に山岳救助隊が救ったそうだ。

 それから時を経て、先月、村が襲撃に遭った。村の場所を知る者は少ない。襲撃は5人組。それ以上のことは分からない。

 ただ、その5人のうち1人は見覚えのある顔だった。救った人間。奴が村の場所を漏洩し、襲撃を企てたのだ。

 これを知らせたのは、村の青年。命辛々ここまでやってきて、そのまま倒れてしまった。深手を負っていたようで、ここまで来たのも奇跡だったのかもしれぬ。ここから動けぬ身であることを強く恨んだ……。この老い耄れの足はもう限界を迎えていた……」

 金長狸は足を悪くし、この地から動けないそうだ。体格は大きく、今思えば、この社殿の引き戸で出入りできるかできないか微妙なところだ。

「5人。そのうち1人が……」

 新しい情報ではあるが、分からないことだらけだ。この5人の素性が分かれば、この事件の全貌が分かるのだろうか。

「その山道がどこか教えていただくことはできませんか?」

 悠夏の問いに金長狸は目を瞑って

「それはできぬ」

 金長狸からは回答を得られないだろう。それならば

「倉知さん。四国の山のうち、石鎚山(いしづちさん)剣山(つるぎさん)の入山記録と遭難届けを調べられますか?」

 愛媛県の石鎚山と徳島県の剣山、およびその山系が四国で高い山々だ。他の山まで調べる時間はない。捜査対象を絞るならこの2つだ。

「分かった。県警に依頼しよう。山岳警備隊の情報から素性を追えるかもしれないな」

「お願いします。それと、金長狸さんは最初から我々に情報を話すつもりで、私を案内したのだと思っています」

「結果的にそうなっただけで、お主は危うい。狸は人を操ることは出来ぬ。あくまでも自分自身が化けるだけ。しかし、世には相手を呪縛する者もおる。いつか取り返しのつかぬことになるぞ。これは忠告だ」

「ご忠告、ありがとうございます」

 悠夏は表面だけの謝礼を言った。それはこの場にいる全員が察した。だがそれには触れなかった。悠夏は話を変え

「それで、伺いたいことがあります。各地で狸人から炎が上がる現象について……」

「理由は簡単だ。呪詛(じゅそ)とでも言うべきか。我々は変化(へんげ)を人間に見られてはいけないという(おきて)がある。この掟に反したとき、体が激しく熱くなり炎に覆われる。真の姿や別の姿への変化(へんげ)する瞬間を人間に(さら)すことは許されず、その姿を消し去ろうとするのだ」

「つまり、各地で起きている事象は、そのときに変化しているから?」

 悠夏の事実確認に金長狸は首を横に振った。

「少し違う。村に住んでいた者達は未熟者だ。長時間人間や別の姿を維持する体力を持ち合わせていない。本来は、十分に訓練を受けた上で外の世界へと出る。だが、無理矢理連れ出されたが故に、変化(へんげ)が解けるのは早い」

 そこまで言われれば、あることが見えてくる。金長狸の目の前でそれに触れるのは、あまり気が進まないことではあるが、鐃警が率先して

「犯人は未熟な狸人を強要して、橋や港といった場所で変化が解けるように図った……」


    *


 高知龍馬空港。チェックインカウンターや総合案内所には人が押し寄せて、まだ飛ばないのかと説明を求め混乱状態である。カウンターを横目に、1人の男と女性は階段で2階へと向かう。エスカレーターは下り運転のみで、上りは止まっていた。人が2階の出発ロビーにも殺到しており、どうやら安全のために、エスカレーターの上り運転を停止しているようだ。

 出発ロビーは封鎖され、発着便の案内は全て”出発遅れ”や”到着遅れ”の表記となっている。欠航になるのも時間の問題だろう。

 男の名は三入(みいり)といい、女は小舩(こぶね)。三入は小舩のことを度々確認しながら、出発ロビーの近くまでやってきた。ロビー前は人でごった返しているが、少し離れたところにいたスーツとサングラスの男がこちらに気付き、お辞儀をした。一瞬戸惑うような素振りをしたのを三入は逃さず、耳打ちで

「用意はできているんだろうな?」

「……はい」

「案内しろ」

 命令口調で、スーツの男に案内をさせる。通常は通れない場所から1階を経由し、滑走路内を車で走る。向かった先はプライベートジェット機である。

「じゃあ、手筈通りにおふたりで」

 三入はスーツの男と小舩を小型飛行機に搭乗させると、自分は車に戻る。

「良いフライトを」

 小型飛行機が滑走路へと向かったのを見送ると、車で今来た道を引き返す。三入は空港のロビーに戻ると、先程よりもパニック状態になっていた。飛行機が飛ばせないと言っていた矢先、小型飛行機が離陸しようとしているのだ。人々がそれを見逃すはずがない。混乱に乗じて、簡単に外に出て待っていた仲間の車に乗るとその場を去る。サイドミラー越しに空港の方を見ると、消防車がサイレンを鳴らして走る姿と、空港の奥から黒煙が上がっていた。


 高知龍馬空港の滑走閉鎖からしばらくして、徳島香川愛媛の各空港も事態を重んじて滑走路の閉鎖へ踏み切り、事実上の終日欠航へと近づいた。


To be continued…


第250話から隔週で更新できるようにと執筆を進めています。と書けば、次回も2週間以内に書かねばならぬと自分を追い詰められるのではないかと思い……。果たして次回の更新が2週間以内かどうかは、2週間後に分かるかと……。

シリアスな話に文字だけでは笑えない無駄な事を差し込んでしまい、話を流れを破壊して、若干失敗したのではと思いつつも、修正せずにそのままにしました。書き直すのが面倒だったのではと言われれば、否定はしませんが、お遊びってことで勘弁。

"変化"に毎回ふりがなを振っているのは、"へんか"ではなく"へんげ"と言っているので、一応振りました。それ以上の理由はないです。

さて、この事件もそろそろ犯人の情報が出てきてもおかしくはない頃合いではないでしょうか。ということは、登場人物の名前を考えないと。名前を考えるのは、そこそこ大変なんですよね。地名もしくは漢字をランダムで拾って命名していますが、意外とすでに登場した人物達と偏りそうで少々困るんですよね。犯人側とかは特に。

さて、次回は捜査本部が大きく動きそうです。たぶん

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