第25話 事件の手がかりはVRゲームに?
オンラインのVRゲーム『狭霧の鍵』。藍川巡査が任侠ものですかねとか言ったが、いざプレイすると思っていたのと違う。
「これ、藍川巡査が言ってた内容と違うんですけど」
思わず、悠夏が声に出して言うと、鐃警は
「藍川巡査は、ゲームはしない人ですよ。昔、友達の家で初めてテレビゲームをプレイしたときに、ボコボコにされて、ゲームが嫌いになったって聞きましたよ。だから、流行りのスマホゲームとかもしないみたいです」
「へー。意外」
「僕は、佐倉巡査がゲーマーだったことに驚きましたけど」
「そう? 友達の家でパーティーゲームとか、レースゲームをやってましたし、1人で黙々とすることともありますね。実家だと、弟妹で一緒に遊んでましたね」
ゲームはよくプレイする。でも、上手いか下手かと言われると、どちらでもないだろう。対戦ゲームだと、真ん中より少し上ぐらい。
「で、肝心の『狭霧の鍵』なんですが、主人公が私服警察官の橋爪 篤哉という人物で、一人称視点ですね。チュートリアルを見る限りだと、街中で悪さする人を、片っ端から捕らえるゲームみたいですね。オンライン要素はどこなんでしょうか……?」
「ゲーム実況が始まりましたね」
「警部、真面目に手がかりを探してくださいね」
「分かってますよ。全クリするための手がかりですよね?」
「捜査のですよ?」
「ジョークですよ。そんな格好で言われても」
さて、ゲームはチュートリアルが終わり、第一章へ。街を自由に探索して、違反者を次々に逮捕する。
あちこちで事件が起きており、悠夏は思わず
「無法地帯ですかね……?」
「まぁ、あくまでもゲームですから……」
鐃警は攻略サイトやSNSで情報を調べて、
「どうやら、マルチプレイに対応しているみたいですね。インターネットを経由して、フレンドと一緒にプレイできるみたいですよ。あと、第一章をクリアすると、シナリオ選択のメニューで期間限定のイベントシナリオを選択できるみたいですよ。お、ガチャ要素もあるみたいですね。課金では無く、ゲーム内の通貨ですが」
「今のところ、事件の手がかりになりそうなものが見当たらないですね……」
「事件現場のダイイングメッセージの他に、何かヒントがあればいいんですが……」
ふと思いつきで、鐃警はSNSで検索をかけると
「ん? 何だろう……?」
「警部、何か見つかりました?」
「いえ、まだ確実では無いんですが……、昨晩からデータの一部が書き換わっているって、ごく一部の人がSNSに書き込んでいるので……」
「昨晩って、被害者が亡くなった前後ってことですか?」
「そこまで詳しくは書かれてはいないので、分かりかねます」
鐃警は、データの変更について発言した人物の投稿を遡り、
「どうやら、ゲームを……”あくまでも個人の趣味の範囲で”、ここ大事ですからね。我々、警察ですから。個人の趣味の範囲で、解析をしているみたいですね」
鐃警がかなり慎重に前置きしたが、解析なら別に罪には問われないのでは? 悠夏はそう思い、
「別に、解析程度なら」って、言い切る前に鐃警が
「私、さっき言葉を選びましたからね。解析って言っても、ゲームをプレイして解析するわけでは無く、コード解析です。ソーシャルゲームや据え置きゲームを問わず、バージョンアップ内容をコード解析して、発表前や未発表のデータを調べているんですよ。悪意ある人なら、そのデータを公開したり、データを改竄したりする人もいるんですが、この人は明確な発言を控えてますね」
どうやら、ソフトの動作を解析するリバースエンジニアリングのようだ。リバースエンジニアリングは、例えば特許侵害の調査目的で使用される。その場合は、自社の特許を、他社の製品で侵害されていないかを調べるために、他社製品を分解したり、ソフトの動作解析を行ったりして、特許や意匠権の侵害、不正競争防止法の違反が無いか確認を行う。
「所謂、チートとかリークってやつですか?」
「ストレートに言えばそうですけど……」
鐃警は言葉を選んだ分、避けた言葉にたどり着いたので、ちょっと不機嫌そうだ。チートは、本来とは異なる動作をさせる行為であり、早い話が不正行為である。一方、リークは意図して外部に情報を漏らすことである。今更な説明かもしれないが。
「で、その人の解析によると、昨夜にアップデートではなくサーバー側のデータが変化し、シナリオデータが変化しているらしいですね。まだ解析が不十分で、どのシナリオやどういった修正かはまだ分かってないみたいですが……。”予告なしのサイレント変更のため、通信を解析したら、何かわかるかな”という投稿もありますね」
果たして、本当に事件の手がかりはあるのだろうか……
*
中野区の有限会社リアーリャ・チバティル。2005年創業のゲーム会社である。社員は40人ほどで、会社名は、仮想現実を意味するバーチャル・リアリティーのアナグラムである。開発は社内で完結する物もあれば、外注によって作り上げる物もある。
捜査一課の藍川巡査と川喜多巡査は、10人ほどが座れる会議室へ通された。
3分ほどして、2名の男女が会議室に入ってきた。藍川巡査と川喜多巡査は立ったまま
「お忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございます。警視庁捜査一課の藍川です」
「同じく、川喜多です。よろしくお願いします」
身長が170センチオーバーで、角刈りの男性は
「開発統括部、専任課長の落合です」
と、頭を下げた。眼鏡をかけた女性は右手で左腕を掴んでいる。癖だろうか。少し小さい声で
「開発統括部、主事の野方です」
落合専任課長は、「どうぞ、座ってください」と言って、全員が着席する。
藍川巡査は、警察手帳を開き、
「早速ですが、杉戸さんのことで、お伺いします。その前に、お2人は、すでにご存じでしょうか?」
「はい」と、答えたのは落合専任課長である。
「今朝、朝礼で杉戸が死去したことは聞いております」
「私も、同じです。杉戸主任が死去したと、朝礼で」
野方主事も朝礼で知ったようだ。
「お2人は、杉戸さんとどのような関係でしょうか?」
藍川巡査の問いに、落合専任課長は
「杉戸は、私の部下で野方の上司です。プロジェクトだと、『咆哮2』や『狭霧の鍵』などの開発チームです。我々が、一番杉戸と関わりが強いですね。杉戸の同期は、去年転職したため、現在はいないですね」
「転職ですか?」
「えぇ。部長から聞いた話だと、宇宿君は、地元の鹿児島でIT企業に転職したって聞きましたね」
「その宇宿さんについて、部長さんが転職先をご存じですか?」
藍川巡査がそう言ったので、落合専任課長は驚いた顔をして
「え? 元同期にまで聞きに行くんですか?」
「場合によっては、……ですかね」
そう答えたことで、落合専任課長は難色を示したように見えた。
To be continued…
IT用語がちょこちょこ出てきますが、説明が難しいな。ただ、そこがポイントになるかどうか、分からないですが。次回は、会社での聞き込みが中心のため、ゲームに関してはその次ですね。あと、『咆哮2』などのゲーム内容も次回に説明があるとかないとか。
2005年の創業当時は会社名が違い、VRが流行り始めてから現在の社名に変更したとか。




