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第241話 迷う道

 鐃警(どらけい)は草木をものともせず、突っ切る。

(犯人はおそらく調子に乗っていたが、焦った。盗聴器をセットしたタイミングは、佐倉(さくら)巡査の母親を救出している間。そのときは、車の周囲に誰もいなかった。この炎天下、風が入るように車のパワーウインドウをほんの少し開けていたが(ゆえ)に、その隙間から盗聴器を投げ入れた可能性が高い……)

 一方、車内に残った倉知(くらち)副総監は、運転席の座席下に転がっている黒いボックスを発見。

(盗聴器を仕掛けたのなら、犯人はすぐ近くにいる。しかも、電話中に盗聴を続けていたのだとすれば、特に)

 黒いボックスには触れずに、車から外に下りて本部に連絡。

「こちら倉知。小歩危山(こぼけざん)の自然公園にて、主犯と思われる人物が公園内を逃走。至急、応援を要請する!」

 さらに、階段下でサイバーセキュリティ課からの連絡を終えた悠夏(ゆうか)は、階段を1段1段駆け上がり

(電話がかかってきた直後、ハウリングの音がしたのは、犯人が仕掛けた盗聴器から音と電話のマイクがループしたから。犯人がこの辺りにいるのは、おそらく誘拐犯のところに行く予定だったから。でも、その誘拐犯とお母さんは警察がすでに接触。おそらくこんなに早い突入は、犯人にとって想定外の事態だったのかもしれない。これまでの事件の傾向から、誘拐した人物は全員同じ場所に集めている。でも、今回は違った。その理由は、これから移動させるつもりだったから。そして、想定外の事態に犯人は警察がどこまで情報を入手しているか探りを入れる必要があった。だから、リスクを(おか)してでも、盗聴器を車の中に落として、近場で盗聴していた。盗撮の可能性もあったけれども、そんな短時間で設置は難しい。あるなら盗聴器。でも、念のためこの車内をどこから盗み見ているか分からなかったから警戒してた。結果、警部がドアを開ける瞬間に、犯人に気付かれた。音だけなら気付かなかっただろうから、やっぱり車を見ていた。警部が追いかければ、当然犯人の逃げ場所は限られ、最悪取り逃がしたとしても防犯カメラに映るはず)

 階段を登り切ると、小歩危山の自然公園の一角、芝生広場が見えてきた。ここはキャンプが出来るらしく、キャンパーが2組いた。街灯には防犯カメラが設置されており、犯人がこっちに逃げてきたのであれば、カメラに記録されている可能性が高い。

「警部の姿は……」

 芝生広場を見渡す。足音は蝉の鳴き声で()き消され、目視で探すしかない。犯人が逃げ切れないと判断し、公園にいる無関係の人に危害が及ぶおそれがある。犯人が武器を持っていないとしても、キャンパーや登山客なら十徳ナイフなどを持っていて、それを奪われたらどうなるか。

 公園内に不審者がおり、警察が確保するまでは警戒するように伝えると、あるキャンパーがおいかけっこを目撃したようだ。どこに向かったかと聞くと、西に向かったそうだ。

「西ってことは、遊具のある子ども広場……?」

 普段穴場の公園で、あまり人影がないのだが、この真っ昼間に子ども広場に行けば、何組か家族連れがいるだろう。そんなところに犯人が向かったのだ。

 子ども広場には、遊具で遊ぶ子ども達がいる。ご家族と思われる大人は、ベンチに座って談笑している。

(遊具で遊んでいる子どもは、6人。犯人と警部は?!)

 滑り台やブランコ、トランポリン遊具、砂場といった子どものいる周辺に不審人物はいない。芝生の丘や自動販売機、公衆トイレの建物方面にもいない。噴水広場や子供用のSL機関車乗り場の方面にもいない。

 あと見ていない方面は……と周囲を見渡すと、緑の壁が見える。近づいてみると案内板があり、そこには”生垣迷路”と書かれていた。説明文は経年の汚れや風化なのか、(かす)れて読めず、ひとまず生垣迷路の周囲を探る。出入口は2箇所のみ。生垣迷路の中からは足音が聞こえる。

神山(かみやま)にもこんな迷路があったな……)

 徳島県名西郡(みょうざいぐん)神山町(かみやまちょう)にある徳島県立神山森林自然公園には、総延長約850メートルの生垣迷路がある。幼い頃に遠足で行った悠夏だが、そんな思い出に浸る時間は無い。

(周囲を見渡してもいないということは、この中にいる?)

 出入口が2箇所のため、片方から入ると、もう片方から犯人が逃げるかもしれない。出入口で待機する人員と、中に入って捜索する人員の最低3人は必要だ。おそらく、警部は迷路の中に入ったはいいが、犯人を見失ってしまい、下手に動くと犯人が隙を見て逃走を図るため、迂闊(うかつ)に動けないのだろう。つまり、外から声をかけるのもまだ早い。倉知副総監の到着が先か、応援で駆けつける捜査員が先か。悠夏は、生垣迷路から少しずつ後退りして、出入口から出てきた人物を確認できそうな距離まで下がる。

 5分が経過する。すると、倉庫内で捜査をしていた捜査員たちが、こちらに気付いて手を振る。悠夏は手を振り返す。

「応援要請で駆けつけました。犯人は?」

「おそらく、あの迷路の中です。警部と膠着状態で、人手がないと、突入や追い込みもできなくて。それと、周囲に子ども達がいます」

「民間人の避難は自分がやります」

 と、捜査員のなかで一番若い男性がすぐに対応を始める。鑑識と思われる人たちは、指示されることもなく黄色いテープを広げて、規制線を張る。

「それと、航空写真をみたところ、マンホールがいくつかあるようで……」

 悠夏は待っている間に調べた航空写真を捜査員に見せると

「マンホールの蓋的に、おそらく電力供給ないしは通信の配管のタイプかと。こっちは上水道ですね」

「どこに繋がっているか分かりますか?」

「おそらく公園内……」

 場所は分からないが、公園内なら移動できるかもしれない。

「そちらの配備もお願いします。私は迷路内を捜索します」

 外のことは任せて、悠夏は航空写真を見ながら、行き止まりに犯人が潜伏していないか確認していく。

 神山森林自然公園の生垣迷路は、サザンカの木3千本で作られているそうだ。この公園の生垣迷路もサザンカだろうか。

 2つ目の行き止まり、3つ目、4つ目と確認を進めていく。3分ほど進むと、現れたのは……

「?! びっくりした……」

 そこには、地面に埋まって頭だけ出ている鐃警の姿があった。モグラと表現すべきか、それとも黒ひげ危機一発の黒ひげ人形みたいな状況と言うべきか……。

「すみません。犯人を追いかけようとしたら、頭が嵌まってしまい……。なんで笑ってるんですか? 佐倉巡査?」

 自分の想像していなかったシュールな絵面に、悠夏は笑いが絶えられずにいた。

「警部、残念ながら、私一人だと引き揚げられるかどうか……」

「タスケテ……」

「ブースター機能とかないですか?」

「佐倉巡査は、僕を何だと思ってるんですか?」

「ロボットですよね。ご自慢の100万馬力で」

「お言葉ですけど、仮にここで100万馬力が出せたとしたら、すさまじいことになると思いますけど」

 1馬力は75kgの重量物を1秒で1m動かす力であり、100万馬力は原子力発電所1基分やジャンボジェット機10機分らしい。ちなみに、国民的アニメの某ロボットは10万馬力だが、強敵と戦うために100万馬力になったらしい。

 悠夏が100万馬力と言ったのは、そのあたりが混合したからだろうか。

 冗談はそのくらいにして、鐃警の救出とともに、逃げた犯人の足取りを追う。


To be continued…

主犯格と思われる人物が逃走中。鐃警の大きさについて、あまり描写していませんが、頭部はマンホールに引っ掛かるサイズとのことです。あと、生垣のサザンカですが、ツバキ科ツバキ属の一種で椿よりも耐寒性が弱く、四国九州沖縄あたりに分布しているそうです。

次回、犯人の足取りは……

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