第238話 被疑者、自身を魔王と名乗りて
悠夏は4つ祭りについて調べつつ、倉知副総監は各県警からの情報を収集している。鐃警はというと……
「今から独り言、言いますね。適当なことも言っているので、黙ってスルーしていただければ」
と、2人の作業を邪魔しないようにしつつ、自身の考えをまとめるために、まるで誰かに話すかのように喋り始める。
「被疑者は2014年から事件を起こしており、いずれも共通して、2回の誘拐と1回の電話。それ以降の接触をしていない。犯人は頻りに”絶望”というワードを使う。他人の希望を失わせることを嗜好としている? 事件を起こしてから早々に現場から離れている? 実行犯は雇われた者。そういえば、過去に指示役が国外にいて、実行犯を指示していた国際犯罪があったような……。電話が、おそらく”主犯から発信”と仮定すると、海外から飛ばし携帯を使う? 公園をわざわざ中継地にしてまで……」
公園に一万円で募集したエキストラを使って、特定をさせないようにしている。
「公園に主犯格がいるという前提がそもそも違うとしたら……? それだと、エキストラは何のために? わざわざ1万円を人数分ばら撒いている。そもそも、これだけの大規模な犯罪。資金源はどこから? 主犯格はお金持ち? 何かで当選や当てた? 犯罪に手を染める理由が……。寧ろ、お金がない人? 多額の借金を背負って、自己破産間近もしくは、闇金融関係……? 暴力団の関与はあまり考えられない。組対が気付くはずだし、組員で犯行を起こすだろうし……。今回はどこから違う……? 犯人から佐倉巡査に電話をかけたところまでは、過去の事件と同じ? 違う……もっと前から。紅警視長をターゲットとした犯行は、誘拐が1人のみ。2人じゃない。それに、犯人からこの事件が暗示された。そうなると、警察としては、四国の玄関口に張り込む。主犯はすでに四国にいたということ? それも秋田から四国に移動? 犯行からすぐに電話したのなら、四国入り出来なくもない……。ん? でも実行犯がこれだけいるのならば、わざわざ四国に入る必要が……?」
鐃警は答えがすぐに出ないと判断し、次に犯人像について考える。
「犯人の年齢は? エキストラ募集はSNSを利用している。電話や動画で音声加工を行っている。割とデジタルに強い。犯行を行ってからは、電話を1回しかしない。小心者? 誘拐したあと、人質は放置している。飽き性? 金に無頓着? 突如、犯人は自分を”魔王”と呼称し始めた。……漫喫で転生モノでも読んだ?」
突然の”漫喫で”の流れに、悠夏は思わず笑いが出て
「警部。なんでそこに推理が行き着くんですか?」
「真面目に考えているんですよ。四国の4つの祭り。つまり、四天王ですよ」
「国際手配犯が四天王? ……」
”まさか”とも言えず、悠夏が口を閉じると鐃警は
「これから僕らが行く最初の祭りで国際手配犯を確保すると、主犯格から電話でこう言うんですよ。”奴は四天王でも最弱”と」
「漫画や小説の読み過ぎですよ」
「犯人は、ゲーム感覚だと思いますよ。人の死をなんとも思っていない、人の心のない悪魔。謂わば、魔王。我々を嘲笑う。希望を失った人の顔を見る。……あっ、だから狸人を」
鐃警が、急に何かに結びついたような反応を示したが
「同胞を助けてと懇願した少女。犯人は、狸人に対しても、その絶望を植え付けようとした。さらに、四国の出入り口を警察が封鎖したことで、国際手配犯の逃げ場を無くし、自分の犯行協力を強制した……とか、考えられません?」
「考えられなくはないですが、国際手配犯の逃げ場を無くすなんてことして、何のために?」
「何のためでしょうね? 言うことを聞かせるために? ……一旦このあたりで、考えを中断しつつ。佐倉巡査の調べ事は終わりました?」
「はい。四国の4つの祭りに関してですが」
悠夏のまとめた資料より、開催時間の早い順で、次の通りである。
徳島市阿波踊りは、徳島市内の中心部を一部封鎖して開催される。すでに、市内でアニメイベントを開催しており、会場の一角では11時、13時30分、16時からそれぞれ選抜阿波踊りを催している。初日の今日は、17時に市役所前演舞場で開幕式があり、その後18時開演となり、第一部が20時まで。第二部は20時30分から22時30分までとなる。
よさこい祭りは、高知市内の高知城付近にて開催されている。昨日までは本番の踊りとなっており、最終日の今日は12時30分より全国大会が始まっている。18時30分より、中央公園で本番の受賞チーム表彰や後夜祭を行うそうだが、全国大会は平行して22時まで行われる。
さぬき高松まつりは、高松市の高松港付近で開催されている。2日目となる今日は、17時20分から香川県出身の歌手によるスペシャルステージから始まる。ゆかたグランプリや総踊り、お笑い芸人のステージなどがあり、22時まで開催される。20時から20時50分までは、四国最大級の花火大会が開催され、海上から打ち上げられるそうだ。
松山まつりは、松山市内で開催されている。最終日となる今日は、17時30分より野球拳おどりで始まり、20時45分からミニ花火ショーが開催される。
「終了が早い順ですと、さぬき高松まつりと松山まつりは、だいたい21時30分まで。よさこい祭りは22時まで。阿波踊りは22時30分まで、です」
悠夏はタブレットで調べたことをまとめ、地図画像に開催地となる場所として印を付けている。
倉知副総監はカーナビを操作し、目的地の入力画面を表示する。
「全部は回れない。県警に連絡して……」
倉知副総監のもとに電話が入り、すぐに応対する。その間、悠夏と鐃警がどこに向かうか消去法で考える。
「私の主観で言うと、犯人は祭りのピーク時に何か仕掛けるんじゃないかと」
「ピーク時というと?」
「例えば、松山まつりならば、閉会式後の20時45分から始まるミニ花火大会。さぬき高松まつりも同様に、四国最大級の花火大会のタイミングならば、20時から20時50分。よさこい祭りと阿波踊りは、終盤をピークと考えると……21時以降かと……」
時間はあくまでも悠夏の主観に過ぎない。犯人にとっては、いつでもいいのかもしれないし、特定の時間や順番を気にするかもしれない。
「距離的な問題ですけど、高知と愛媛は、そこから移動できないと思います。鉄道が運転見合わせですし、高松と徳島なら70から80キロくらいなので、車で1時間半くらいで……」
「難しいと思いますよ」
鐃警は悠夏の案について、
「四国は今、交通麻痺の状態です。もし高松を21時に出発しても、徳島に着くのは22時半の終演後。特課が向かえる祭りは、ひとつです。他3つは、捜査員に任せるほかないでしょう。幸い、西阿波市は、四国の中央に位置して、ここからなら4県のいずれにも行けます。他にも本部に戻って陣頭指揮に加わるのもひとつです」
鐃警は確実にできるであろう候補を提示しつつ、悠夏に判断を委ねているようだ。
倉知副総監が電話を終えて、2人の会話に割り込み
「高知県警と愛媛県警からの捜索結果だ。これまでの共通点から、犯人は後日見つかりやすいところに放置していた。松山まつりが関連する倉庫や会場周辺の空き家を虱潰しに捜査した結果、収穫はなかったようだ。高知県警も同じ結果だ」
誘拐された遙真と遙華に関する情報はまだない。過去に祭りが終わって機材を片付ける際に、倉庫から遺体となって発見されたことがあった。これまでと同じ傾向ならば、空き家と倉庫などを虱潰しに探せば見つかるのではないかという考えだ。
To be continued…
連休になると体調崩すことが多く、先週更新できず終いでした。
第238話は珍しくリテイクしました。先々週時点で一度完成したものの、ストーリーが魔王に引っ張られすぎて、想定と異なる展開になりそうだったので没にして、鐃警の独り言で物語を整理しつつ、別の展開に進ませます。
しばらく毎週更新できなかったのと、体調崩して予定がいろいろとキャンセルになったので、少しストックが溜まりました。ということで、明日も更新する予定です。よろしくお願いします。




