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第237話 交通麻痺

 四国の出入り口が次々と封鎖される中、唯一の手段となった空路に旅客が集中することとなる。徳島阿波おどり空港、高松空港、松山空港、高知龍馬空港。いずれも事件発生以降の便が全て満席となった。

 各航空会社が増便を検討するという噂話だけが、SNSなどで拡散されて、さらに人を空港へと向かわせているそうだ。

 そんな最中、出所不明の動画がSNSで見つかり、瞬く間に広がる。

 動画はおよそ30秒と短い。画像は真っ暗で、音声だけの動画だ。

「一応、ウイルス感染のおそれはないそうですが」

 前置きをしつつ、悠夏は車内でその動画を再生する。タブレットの画面は真っ暗だ。

「諸君。君たちに絶望を与える」

 また”絶望”という単語。同一犯だろうか。それと、肉声ではない。複数の音源を混ぜて変声加工している。

「陸海空を封鎖し、孤島となった4県。抜け出す者がいれば、誰かが犠牲となる。この地に住む者も無関係ではない。火災か爆発か、殺傷かそれとも……。これより4県より飛び立つであろう銀翼に刮目せよ。そして、この封鎖された地には国際手配犯が複数いる。不安に怯えるがいい」

 動画はそこでぷつりと切れた。

「愉快犯ですかね……」

 鐃警が2人に考えを問うと、倉知副総監はさほど時間をかけずに

「犯人の特徴、”絶望”という言葉を使っている。これまでと同じパターンだ。愉快犯にしては、偶然で片付けられない」

「どこから言えばいいのか……」

 悠夏は気になることが多数ある模様。急を要するのは

「銀翼が、飛行機のことならば、すぐにでも」

「各県警がすでに動いている。動画が投稿されたであろう時間から最も早い離陸は、高松空港。だが、離陸前にバードストライクがあり、離陸を取りやめた。それが良かったのかどうか……」


    *


 香川県高松市にある高松空港。市街から離れ讃岐山脈近くにあり、国内線は羽田空港や成田空港、那覇空港を結ぶ。国際線はソウル、上海、台北、香港を結ぶ。元々予約していた人や瀬戸大橋が封鎖されてこちらのルートに変更した人々が、ロビーやゲートに表示されるフライト予定を見上げる。バードストライクのあった便が欠航となり、以降のフライトが全て”見合わせ”と表示されていた。

 カウンターでは乗客が殺到して混乱が起きており、「いつ飛ぶのか」や「なんで飛ばないんだ」など、挙げ句の果てには怒号や謂れ無い事までも発言するような人もいた。少し前には、これが高速バスターミナルや鉄道駅でも発生していたのだろう。いや、今も人が殺到しているかもしれない。


    *


 倉知副総監の携帯電話が鳴る。駐車場に駐めたままなので、そのまま電話に出ると

「はい。こちら倉知」

 相手が誰かと考える間もなく、倉知副総監は

「警視長の御祖母様が、ですか」

 2人は警視長という役職で、おそらく紅警視長の話だろう思った。祖母になにかあったのだろうか。あまりよろしくない事態が思い浮かぶ。

「警部なら一緒にいます」

 今度は鐃警の話だろうか。

「分かりました……」

 倉知副総監が電話を切ると、2人が何の用件ですかと聞く必要も無く、すぐに電話の内容を話す。

「秋田で紅警視長の御祖母様が誘拐されていたそうだ」

「えっ」

 2人は驚き、鐃警が「もしかして」と全てを言うまでもなく

「同一犯だ。先程、見つかって病院に搬送されたそうだ。犯人からは2つ。1つは、この事件の暗示。もう1つは、要求事項だ」

 暗示は誘拐当日に連絡があり、その結果四国の玄関口で長期間の張り込みを行っていた。倉知副総監に捜査一課のメンバーをつけたのもそれが理由だった。

「今まで開示しなかったのは、誘拐事件を多数の者に知られるのを避けるためらしいが……」

「警視長の親族が事件に巻き込まれたとなると、それ相当の捜査規模になるはず。それを避けたかったってことですか?」

「その人員を四国に割いたということだ。それでも尻尾を掴めていないが……。あと、注文があった」

「注文?」

「人々が恐れるのならば、自分のことを”魔王”とでも名乗ろうかと」

「えぇ……」

 悠夏は反応に困ったが、鐃警は

「人々に絶望を振りまく。自分のことを”魔王”と名乗る。となれば、我々警察官は勇者ですか?」

 鐃警はジョーク交じりで言おうとしたがすぐに考えを改め

「いえ……、実際そうかもしれないですよ。犯人にとっては、ゲームなんですよ。誘拐した人物を救い出すゲーム。犯人は魔王のポジション。最初の電話で勇者に姫君を誘拐したと告げる。……やっと犯人像が見えてきたかもしれないですよ」

 鐃警の考え方によれば、確かに辻褄は合いそうだ。

「不謹慎極まりない考え方で、被害者の2人にも、これまで被害に遭った方にも申し訳ないですが……」

 と、先に謝罪した上で相当なことを言い始める。

「これまで、犯人は誘拐したのを2回に分けていた。2人を救えればゲームクリア。片方を救えば、今回のようにイベントがある。まるでゲームのように。誘拐犯は中ボス的な存在。そのボスを掴まえれば、次のイベントがある。これまでは、どちらも救えずにゲームオーバー。今回の犯人がもし過去にも同じような企み巡らせていたのならば、余罪がボロボロ出てきそうです」

「今の段階ではあり得なくはない推理だが、そうなると佐倉巡査にも連絡があるのでは?」

「僕は連絡があると思ってますよ。これまでの事件とは明らかに違います」

 悠夏は鐃警の推理に触れず、次の話へ。

「それで、もう1つの要求事項は?」

「今日予定しているイベントは予定通りに実施せよ。そういう要求だ」

「イベント?」

「これだけの騒ぎだ。今日のイベントはすべて中止になる。それを犯人は決行しろという要求だ」

 悠夏はタブレットで今日の催事を検索する。すると

「今日は……、第66回よさこい祭りの最終日。阿波踊りの初日。第54回さぬき高松まつりの2日目。第54回松山まつりの最終日……。どの県も最大のイベントですよ……。今日は、四国四大祭りが重なった日です」

 ちなみに四国四大祭りとは、さぬき高松まつりと松山まつりのホームページに書かれていた表現である。

「犯人はこれらを決行しろと言っている。中止ではなく」

「四国の玄関を封鎖され、警察だけではなく、県知事や政府も対応せざるを得ない状況となれば、イベントが中止になるのは目に見えてますけれど……」

 鐃警の言うとおり、テロといって過言ではない状況。対応として、イベントは全て中止になるだろう。

「犯人がこれらの祭りで何かを仕掛けてくる可能性は大いにある。いや、何かあるからこそ、中止になってほしくないのだろう」

「声明の国際手配犯と関係ありますか……?」

「今の段階では、犯人以外誰も分からないだろう」


To be continued…


お祭りについて、作中と実際の開催は異なります。作中では、一部祭りの日程をずらして良い感じに重なるようにしています。ちなみに、当時は台風10号により、そもそも祭りが開催されなかったそうです。作中では晴れですが。

ここからは犯人と警察との読み合いになるのでしょうか。第216話の段階では、阿波踊りだけの予定でしたが、事件の流れで各県の祭りが絡むことになりました。規模が段々大きくなってます。さて、次回以降どこから書こうかな。

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