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第224話 精神的疲弊

 古い記憶。父親の手を握って周囲を見渡しながら歩くのは、幼い頃の佐倉 悠夏。どこかの商店街を歩いていると、映画館が見えてくる。スクリーンは2つしかなく、ハムスターのアニメ映画のポスターが掲示されている。子ども向けの映画だが、同時上映はなぜか怪獣の特撮だった。当時は、こども春の映画まつりというものがあり、配給会社の人気のアニメや特撮などの作品を2つセットにした同時上映が行われていた時代だった。

 最初に特撮が始まったので、幼い悠夏は驚いて父親の袖をずっと握っていた。こどもだった所為もあってか、そのあとのことはあまり憶えておらず、ハムスターのアニメ映画が始まった際に父親が優しく起こしてくれたのを憶えている。

 帰りは商店街でアイスを買ってもらい、駐車場へと向かう。商店街から出ると、すぐに大通りだ。横断歩道を渡らずに、少し大通りへ歩いて、階段を下っていく。

 なんで今になって思い出したのだろうか……。


 悠夏が目を覚ますと、走行する車の中だ。後部座席でシートベルトをした上に毛布を被っている。

「お目覚めですか?」

 隣に座っている鐃警の声で、事件のことを思い出した。

「今、どこに……」

 向かっていますかと全て言い切る前に、運転席に座る倉知副総監がナビに触れて、

「西阿波市に向かって移動中だ。観音寺市に入ったから、もうしばらくだな」

「何時……」

 悠夏はスマホの電源を入れると、ホーム画面には何も新しい通知がなく、時計と日付が表示される。時刻は4時22分。

「佐倉巡査が寝ている間に、四国警察合同捜査本部から報告が入った。警視庁の誰かが先手を打って、3日とか4日前から四国の出入りを監視していたそうだ」

 鐃警は、助手席シートの後ろにあるポケットから四国の地図を取り出して

「四国の出入り口は……、まず道路。徳島から淡路島を経由して、兵庫へと結ぶ大鳴門橋と明石海峡大橋。香川と岡山を結ぶ、瀬戸大橋。愛媛と広島を結ぶしまなみ海道。以上の本州四国連絡橋の3つ。そのうち、しまなみ海道は自転車と徒歩で渡れるそうです。次に、鉄道。瀬戸大橋線は一般旅客と四国縦断新幹線、大阪から淡路島、四国、大分を経由するリニア四国横断新幹線。さらに空路。徳島阿波おどり空港、高松空港、松山空港、高知龍馬空港。そして航路。直接の場合、数は11もあるそうです。高松と神戸や大阪を結ぶ、高神運航(こうしんうんこう)フェリーをはじめ、愛媛と同じく神戸大阪間。愛媛-広島間。愛媛-福岡間。愛媛-大分間。東京-徳島-福岡間。最後が、徳島と和歌山間を結ぶ紀伊興産(きいこうさん)オーシャンフェリー。あとは、経由パターン。例えば小豆島(しょうどしま)を経由して本州に向かうルートとかがあるらしいです」

 順番に読み上げたようだが、目を覚ましてすぐの悠夏には左から右へと流れていくだけだ。

「意外にも、高知には航路がないんですね」

 鐃警にそう言われても、悠夏はそこまでフェリーに詳しくは無い。代わりに倉知副総監が

「昔は高知から出るフェリーがあったが、もうないのか。リニアができて、残っている航路もいつ廃止になるかどうか……。話が()れたな。全データを確認したところ、例の写真の人物は四国から出ていない。それと、かつて同じ手口で犯行を行ったときの監視カメラの映像と今回の公園周辺のカメラから、同一人物がいないか確認中とのことだ」

「……すみません。捜査内容が……」

 悠夏の表情は暗い。自分が思っている以上に、事件詳細が頭に入ってこない。”被害者が親と弟妹だからこそ、自分が助けなくては”と思っていることもあり、空回りしているのかもしれない。3人のことを心配することによって、精神的に疲弊しているのだろう。


 ……そもそも、なぜ先日から四国の出入りを張っていたのだろうか? 犯人は写真の人物だと断定できる根拠は?

 全く犯人からの連絡はない。倉知副総監の言う共犯者は本当に存在するのか?

 悠夏が確実だと思える証拠が、考えれば考えるほど無いことに気付かされる。

「なんで、四国の出入りを張ってたんですか……?」

 ここで聞いて答えが返ってくるか分からないが、自分の精神を落ち着かせるためには聞くしか手段はなかった。倉知副総監は少し暗い表情を見せ

「おそらく、タレコミがあったんだろうな。自分の所には一切情報が共有されなかった。理由は簡単だ。自分が被害者の1人だったから、だろうな。私怨で動きかねないと疑念を抱き、情報を遮断した。逆の立場なら、自分でもそう判断するかもしれない」

「でも、被害に遭ったのは私の家族ですよ……」

「必ず助ける」

 一度被害に遭い、倉知副総監は妻子を失ったからこそ、力強く応えた。

「本当に犯人は、あの写真の人物なんですか?」

「模倣犯の可能性や……犯罪手口の売買によって、別の人物が起こした可能性だって……」

「佐倉巡査。5年間の事件の手口は、一切開示されていない。模倣犯がいたとしても、金銭の要求がなく、リスクしかない手口を他の人物が実施する可能性は極めて低い」

 倉知副総監は、赤信号で停車する間に助手席の鞄からファイルを取り出し、後部座席へ。

「それが5年前の事件詳細だ」

 そこに書かれていたのは、海翔(かいと)奏空(そら)が誘拐された日について、時系列でまとめられていた。今回の事件と一致している。さらに、その後の捜査で空き家を虱潰しに捜索し、ある空き家に2人の遺体と二階原(にかいげん)受刑者が発見されたことも。

「二階原は、服役期間を終えたあと、復讐のために息子と妻を狙った。”自分の犯罪はバレるはずがなかった。お前の所為で、最悪な思いをしたんだぞ”という、自分勝手極まりない考えによって……」

 捜査資料を見ると二階原は、1度詐欺罪で逮捕されていた。当時逮捕したのは、倉知だった。手錠をかけて、取り調べを担当した。当然ながら、捜査本部によるチームでの逮捕だったが、それを倉知1人が行ったと思い違いをしているそうだ。それは、刑務所にいる今も変わらないそうだ。

 直近で、二階原受刑者に面会して共犯者のことを聞いたが、一切問答には応じず、独自の考えを押しつけるような言い方をしただけだったそうだ。

「二階原は一度も都心に入っていない。つまり指示役ということになる。実行犯は別にいる。海翔が通ったであろう複数のルートと、奏空が探しに出たであろうエリアについて、防犯カメラから通った時間と方向を地図に書き込み、その周辺を通過した車や人物をすべてチェックし、同じ車種または同じ運転手がいないかどうか、人海戦術で捜索した。結果、車種は異なるが同じ人物と思われる組み合わせが3つあった。1つはトラック。運送業の人物で、のちにシロだと分かった。もうひとつはセールで、訪問販売を行っていた。これはのちに詐欺罪で立件された。のこりの1つがクロに近い。さらに調べると、偽造ナンバーだと分かった。で、あの写真に辿り着くまでは時間がかかったが……」


To be continued…


かつて被害に遭い妻子を失った者と、今リアルタイムで被害に遭っている者。

誘拐事件の場合、犯人から要求があることで事件が進展しますが、今回の場合は犯人からの行動が最初の連絡以降一度もありません。このまま硬直状態にならないためには……

自分の弟妹と母親が行方不明となり、落ち着いてなどいられるはずがあるだろうか。悠夏が取り乱すのは至極当然かと思います。いつもの悠夏として、一度落ち着いて、真骨頂を発揮してほしいものです。

さて、すべての四国からの出口を監視するって、かなり大規模ですよ。それも数日ではないですし

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