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第223話 昏睡状態

 2019年8月2日。西阿波市にある家電量販店で、佐倉 遙真(はるま)は、瀬名(せな) 大悟(たいご)の買い物に付き合っていた。毛利(もうり) 貴之(たかゆき)は咳が止まらず、自宅療養中。その代わりだ。

「んで、何買うの?」

「新しい腕時計を買おうと思って」

「あれ? そもそも腕時計してたっけ?」

 遙真に言われて、瀬名は左腕を見せる。少し焼けた肌のところに腕時計の跡が残っている。

「あぁ……」

 遙真は中途半端な返事で、あまり興味がなさそうだ。

「使ってた時計、貰いものだったけど、最近止まることが多くなって」

「電池切れ?」

「いや、多分衝撃で……」

「衝撃? 何の?」

「……留め具が外れて、地面に落ちた」

「……ホントに? なんか間があったけど」

 遙真は別に回答が欲しいわけではない。ゆる~く会話しているだけだ。

 瀬名は店頭に並ぶ腕時計を見つけ、

「腕時計とスマホが連動するやつが値段次第で……」

 良さげな腕時計を見て、次に値札を見ると……、価格は約5万円。

「うわぁ、高ぇ」

 瀬名はより先に、価格を見て遙真が反応した。

「ゲーム機の方が安いな。言ってスマホも高いけどなぁ……。これ、Androidダメだってさ。瀬名ってiOSだっけか? へぇーGPS付き。てかこれ、9月発売だから予約みたいだぞ。じゃあ、型落ちが安くなるかもな」

 瀬名が言わないので、遙真が全部言う。

「ん? 見ないの?」

 瀬名よりも遙真の方が食い付いており、瀬名は熱が少し冷めたかもしれない。

「他のを見る」

「ん。了解」

 遙真はしばらく静かにして、瀬名が悩む腕時計を手に取って、勝手に瀬名の左腕に付けて「いいんじゃない?」や「これもいいな」など言い、邪魔してないのか邪魔してるのか分からない状況が続いた。

 しばらくすると、それも少し飽きてきた。瀬名は自分が買うという目的があるので、吟味を続ける。そんななか、瀬名が見向きもしない腕時計がいくつかあり、遙真はなんとなくその1つを手に取る。

「へぇー、これもGPS付きなんだ。GPS付けて何するんだ?」

 商品の背後にある写真や商品概要を見ると、

「移動の軌跡が残るって……いるのか?」

 写真を見ると、マラソンや散歩、子どもの見守りなどの使用をイメージしているらしい。登山の場合は、さらに高機能機種をお勧めしているようだ。

「スマホとBluetoothで繋がるのか……。やっぱり高いな」

 価格はいずれもそこそこして、簡単に買えそうにはない。

 しばらくすると、瀬名が腕時計を持って

「何か見てるの?」

「んー。見てると欲しくなるな。使うかどうかはさておき」

「働き出したら散財しそうなタイプだな」

 瀬名に言われて、遙真は苦笑し「かもな」とだけ言った。結局、瀬名は電波時計の機能をもった腕時計にしたそうだ。


 なんとなく、家電量販店での出来事を思い出した。見上げる天井は、車の天井。なんとなくGPS機能付きのものを買っておけば、姉に早く見つけてくれたかもしれないなとか思いつつ、ふと車の窓から外を見る。暗いままだ。結局、何時間が経過したか分からない。

 身動きに制限され、眠れないため、どうしようもない時間が過ぎていく。いつ犯人が来るか分からない緊張感はあれども、どうすることもできないので、過ぎゆく時間を待つだけ。

 漫画や小説で、関節を外して縄を抜けることをするシーンを見たことはあるが、自分はできないし、この状況から脱出する術が分からない。

(遙華が起きたら、もう日が昇ってるんだろうか)


    *


「これが司法解剖の結果です」

 捜査一課の秋月(あきづき) (じゅん)警部が分厚い捜査資料を持ってきて、長谷警部補の目の前に音を立てて置く。長谷警部補は眉を(ひそ)め、

「司法解剖? 誰の?」

 どの事件の資料か分からず、詳細を話すように聞き返すが、長谷警部補から秋月警部に振っている事件は1つしかない。

「18年8月、遠賀(おが) 常枝(つねぐさ)くんと福富(ふくとみ) 理絵(りえ)さん、遠賀 好恵(よしえ)さん、3人の司法解剖結果です。当時、高知県警の担当警部が独断で実施したそうです。そのため、一般の捜査資料とは別に管理されていたようで、入手に時間がかかりました」

「独断でできるようなことではないが……」

「別件の事件と合わせて押し通したらしく、グレーというより……、ほぼクロですが……。その結果、睡眠薬とは異なるものが肺から検知されたそうです」

 誘拐事件当時の状況は分からない。目撃者がおらず、どの事件も被害者が死亡している。そのため、どのようにして連れ去ったのかは臆測でしか語れなかった。

「麻酔効果のあるクロロホルムを染みこませた布状のものによって、口と鼻を押さえられ、昏睡状態に陥った。ドラマでよくある手法ですが、あくまでもドラマなどの演出上で、そこまで強烈な効果は無い」

「5分くらい深呼吸しないと効果が得られないらしいな。最近のドラマでもあまり見なくなった手法だが」

「司法解剖の結果、肺と血液からエーテルが検出されたそうです」

 秋月警部が捜査資料を捲り、検出された要素からジエチルエーテルを指差す。クロロホルムよりもエーテルの方が多いようだ。

「血液からも検出されているとなると、注射か?」

「いや……、ここにも書かれているが、吸引と思われる。あり得ないことだが……、どうして残っていたのかが謎らしく」

「……9日に誘拐されて、11日に発見。司法解剖は15日。9日の誘拐時に吸引した麻酔成分が11日の死亡後、15日になっても肺に残っていた……?」

「それもかなりの量を。まるで、自分の体内で麻酔成分が増殖しているかのように……」

「死因は衰弱によるもの。麻酔成分による死因はないが……」

「これ……怪奇薬品の可能性はありませんか?」

 秋月警部が考えを示した怪奇薬品とは、廃忘薬(はいもうやく)憑依薬(ひょういやく)である。それに加えて、今回の薬品、仮に”喪神薬(そうしんやく)”とでも表現しようか。

「どうしてそう思う?」

「現代科学……、科捜研の捜査でもよく分からないらしく」

「科捜研にすでにこの件を?」

「知り合いが科捜研にいるので、その(つて)で頼んだところ、分からないと……」

「決めつけるのは時期尚早かもしれないが、未知の薬品が使用された可能性は捨てきれないな……。それに、一連の事件に共通する事象……、被害者が一度も目を覚ましていない可能性がそれで説明できるかもしれない……」

 事件によっては、拘束されていないにもかかわらず、さらに施錠されていない状況で、逃げることをしなかったことが分かっている。拘束されている被害者も、なんとか抜け出そうとするような痕跡は残っておらず、衰弱死するまで一度も目覚めなかった可能性が考えられている。

 もし強力な麻酔成分を使用したとして、致死量を超える場合、発見時に死亡しているはずだ。しかし、ほとんどがそのときまで息があった。その後の搬送先で死亡している。

「……怪事件なのか?」


To be continued…


どこまでフィクションで、どこまでリアルにするか微妙なところですが、できればフィクションだけど上手に嘘がつければいいなと思ってます。エーテルとかそれっぽく書けばいけるかなと思いましたが、最終的に麻酔成分って誤魔化しちゃいました。前半の腕時計のくだりは、そういったGPSでの脱出はできないという退路を断つかたちですかね。あとでストーリー上、何らかの形で利用できればいいですが。


そういえば、毎年12/1にやってる『路地裏の圏外』シリーズ忘れてましたね。年末までに余裕があればやりますが、なければ2023年はなしということで。『エトワール・メディシン』だけで手一杯です。

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