第214話 行き当たりばったり
岡山県警では、自称、梶村 吝を殺人未遂で逮捕した。手術室に残った賀佐を殺害しようとしたのだ。しかし、賀佐はそこにはおらず、岡山県警の策略に引っ掛かったことになる。
取り調べを行うと、また吝は沈黙した。
「そんなに黙っていても仕方ないぞ。キミの正体はもう分かっている。カイライナ人でもなければ、梶村の息子でもない。渥川……」
すると、吝は誰が見ても分かるくらいに動揺する。高粱警部は
「既に承知の通り、片桐 才蔵と森山 芹、二川 英将の3人は逮捕している。それに、宇根元 秋高は有印私文書偽造罪の疑いで逮捕している」
すると、下を向いていた吝が高粱警部の顔を見た。
少し前。特課と島民が避難するために乗船。与島まで移動して、接岸すると、年配の男性が我先にと、飛び降りる。
悠夏と鐃警は、船内で捜査状況を確認していたため、飛び降りて誰かが声をあげるまで気付かなかった。
岡山県警と香川県警の警察官が、逃げようとした年配を確保すると、しばらく暴れたが、体力がすぐに底をついたのか、もしくは諦めがついたのか、落ち着いた。
*
与島パーキングエリアの駐車場。悠夏は、自動販売機で缶珈琲とペットボトルのお茶を購入すると、エンジンのかかった車に近寄る。運転席のパワーウインドウが下がり、運転席に座っているのは倉知副総監だ。悠夏は缶珈琲を渡しつつ、車内を確認すると、鐃警がすでに後部座席に座っていた。倉知副総監は、後部座席を指差し、パワーウインドウを上げる。
悠夏は後部座席のドアを開けて座ると、
「レンタカーなんですね」
「色々あってな」
倉知副総監は有耶無耶に答える。それ以上聞いても、曖昧な返事になりそうなので、早速本題に入る。
「梶村 吝が、殺人未遂で逮捕されたということは耳にしましたが」
悠夏はタブレットを取り出して、最新の捜査状況を確認する。カイライナ人ではないかとも思われたが、結局のところ
「転生者と名乗ったのは、時間稼ぎってことでしょうか?」
「少なくとも、それによって、僕らが向かうキッカケにはなりましたね。目的が備讃島の捜査……、警察の介入であれば、一応目的としては……」
鐃警は自分自身でも、あまり納得はしていないが、そうなのだろうなと考えており
「それが目的ならば、備讃島のことを詳らかに喋れば……」
悠夏の言うとおり、こんなまどろっこしいことをしなくても良かったのではないだろうか。
「臆測だが、全てを知っているわけではないから、そんな演技をしたのかもな」
倉知副総監はそれっぽい理由を付けつつ、本人が語るであろうから、理由は後回しにする。一先ず、ここまで入った情報を整理する。
「岡山県警の捜査の結果、宇根元の親戚を当たって捜査していたところ、甥の江添 銀司さんが吝の写真を見て、”従甥に似ている”とのことで、さらに捜査した結果、宇根元の再従兄弟の息子らしい」
「再従姉妹の子どもってことは……」
悠夏が家系図を思い浮かべるが、六等親でもないので、すぐに出てこず
「祖父母の兄弟の……孫?」
「曾孫だな」
倉知副総監に訂正されたが、分かりづらい。悠夏は報告書を読み進め、
「本名は、渥川 真蕪木。宇根元の所有する島にある地下鉱脈を狙って、梶村 賀佐さんから無理矢理奪おうとした。片桐 才蔵と森山 芹、二川 英将に指示を出しており、計画性はなく、その場凌ぎの作戦が多かった。賀佐さんは、地下鉱脈の存在は知らずに所有権を譲り受けたそう。帳簿をご丁寧に島内に置いていたことから、後継者は誰でも良くて、その人に罪を擦り付けるつもりだったと考えられる」
「その辺りは、岡山県警の推測ですか?」
「裏付けは追々出てくるからこそ、推測だと思いますよ。案外、宇根元としては、自分は先が長くないから、どうでも良いと思ってかもしれませんし」
「CTスキャンの結果は、聞いているか?」
倉知副総監に言われて、鐃警と悠夏は「いいえ」と答えると
「渥川の証言によれば、誤射された痕らしいが」
「弾痕ということですか?」
「渥川が島に忍び込んだことがあり、宇根元が害獣駆除で見回っていた際に、誤射したそうだ」
ところで、宇根元は20年前に島の相続を行っている。渥川は18歳である。そして、宇根元は有印私文書偽造罪の疑いで逮捕された。
「宇根元は梶村に島を相続したが、そのあとも宇根元は生きていたそうだ」
「つまり、生前贈与……」
「いや……、相続時点で宇根元の死亡届が出ている。つまり、偽装して、備讃島で余生を過ごしたんだろうな」
「それを梶村は?」
「おそらく知らなかったとすれば、今回の事件の辻褄が合う」
「まさか……、逃げようとした人物が?」
先程、船から一目散に逃亡しようとした人物がいた。騒動になってから悠夏と鐃警は知ったため、それが宇根元とは露知らず。
「つまり……、主犯の渥川は宇根元が生きていることを暴こうとした……? あれ? でも梶村の息子を騙って……」
「息子に成り済まして、島を相続しようとしたのかもしれないな」
簡単に整理するとすれば、渥川は宇根元の所有する島を奪おうとした。18歳のため、小難しいことはあまり分からずに、行き当たりばったりで行動していたのかもしれない。
賀佐を殺害しようとしたのは、自分が賀佐の息子だと偽るためだろう。
「3人が話に乗っかったのも……、島の所有権を得るため……」
「まさか18歳が主犯とは思わなかったかもしれないな。宇根元に対しては、容疑をひとつひとつ明らかにする必要がある。そこは、組対と岡山県警、香川県警に任せて、特課としての役目は一旦ここまでだ」
倉知副総監はポケットに手を入れて、何かを探す。悠夏は
「それで……、切り上げての急ぎの用とは……?」
「この写真だ」
悠夏が受けとった写真には、50歳くらいの男性が写っている。撮影したのは、どこかの監視カメラだろうか。
「この男性は?」
「ある事件の重要参考人だ。ここ最近、鳴門と坂出で目撃情報があった」
今回の事件は、結果がどうなったかは別で岡山県警と香川県警から聞くとして、倉知副総監が直々に捜査している事件とは……
To be continued…
長かった備讃島の話が一度決着かな。結局のところ、賀佐は巻き込まれたかたちで、宇根元の企、渥川の復讐なのか制裁なのかが、変な方向に行ったということなのかな……?
渥川は若いので、安易な考えで行動したのかもしれないしそうでは無いかもしれない。
アフターストーリーがあったとしても、渥川は割と適当なことをやってそうなので、どうなることやら。




