第209話 夕暮れと共に垣間見える
警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第一課。吉尾警部のもとに倉知副総監から電話が入っていた。
「それは規模がでかいな。特課は大活躍だが、大問題だぞ。これは」
「ですので、先に話を」
「もしや、副総監は内調にもこれを?」
「いえ、これからです。事が大事なだけに、先に手を打っておかないとと思いまして」
「最近大活躍の特課にいつかは関わるとは思っていたが……、この規模は想定外だな。それで、不法入国の時期は?」
「未確定ですが、20年前に島を現在の管理者に譲渡しており、もっと前……。90年代、80年代の可能性も」
「30年以上も認知できなかったってことか……」
その後、吉尾警部との話に一旦区切りをつけて、鳴門から高松まで移動していた倉知副総監は、坂出到着までの間に内閣情報調査室の京内内閣情報官に連絡を取る。同じように状況を伝えると
「それで彼らの出身国は?」
「まだ捜査中です。岡山県警が勾留中の被疑者に対して、外国語で話しかけているそうですが、沈黙しており、佐倉巡査の録音した音声から専門家への協力依頼をしており、特定まではそうかからないとは思いますが」
「出身国が分からなければ強制送還ができないんでな。もっと正確な情報を求める」
「何分第一報よりも前にお伝えしてますので、そこはご容赦いただきたく」
「そこまで不完全でも情報共有を急ぐ訳は?」
「すでに梶村 賀佐について捜索中であることをマスコミは知っており、渦中の吝についてどこから情報が漏れるかわかりませんから」
*
時刻は夕方となり、ニュース番組の速報では
「瀬戸内海海上で行方不明だった梶村 賀佐さんでしたが、さきほど自身の所有する島にて、意識不明の状態で発見されました。梶村さんの所有する備讃島にてドクターヘリの要請があり、岡山県内の病院へ搬送されたそうです。中継映像です」
画面は瀬戸内海上空のヘリから備讃島を映している。
「10分ほど前でしょうか。現在見えている備讃島から、行方不明の梶村 賀佐さんを乗せたと思われるドクターヘリが岡山県内の病院に向けて飛び立ちました。搬送時は、ブルーシートで覆われており、岩陰から運び出されました。上空から確認することはできませんが、おそらく洞窟があると考えられます。現在は、警察がブルーシートで周囲を覆っており、中の様子は分かりません」
洞窟の存在まで報道されていた。
報道内容から賀佐が生きていると早々にも知ったのは
「ちょっとどういうこと? アイツが生きてる?」
森山 芹は酔ってうとうとしていたが、賀佐がドクターヘリで搬送されたという情報を聞いて酔いがすぐに覚める。森山の声で奥の倉庫から出てきた二川 英将は内容を知らず
「何の騒ぎだ? 水でも飲むか?」
「二川、テレビ見ろ。梶村が生きてる」
「はぁ? さっき作戦は完璧だって言ってただろ? あれは嘘か?」
「私は完璧だった」
どこからくる自信なのか分からないが、森山は誇らしげそうに言い、二川は氷と水道水をコップに淹れて出し
「これで目を覚ませ。現実を見ろ」
森山は黙って水を一気に飲み干す。二川はソファーで爆睡している片桐 才蔵を起こそうと
「おい、寝てる場合じゃねぇぞ」
買い物の際に保冷剤として使用し、殆ど溶けかけている氷水の袋を、片桐の顔に押し当てると
「なんだ?」
起きたらしいが目を瞑ったままだ。
「賀佐が生きてる」
「……あぁ?!」
飛び起きてテレビの方を見ると、中継映像で備讃島が映っていた。内容はテレビのニュースキャスターが全て言っており、状況を把握した。
「意識不明……。マズくねぇか?」
「あの軽トラから脱出したってことか……? 目を覚ますと、俺らのことを言うだろうな」
3人は賀佐の証言で事故ではなく他殺となれば、警察はとことん調べると思っている。そもそも事故と確定していないため、警察としては、事故と殺人の両方で捜査していることも知らずに……。
3人は焦りつつ、今後どうするか考える。特に思いつかず、テレビから流れてくる音だけが聞こえる。
「隙を見て」
「無理だ」
もう一度事を犯すにはリスクが高すぎる。賀佐は警察の監視下におり、病院だ。
「清掃員を装ってとか。見舞いで近づいて毒を……」
「無謀だ……」
しばらく良い案は出なかったが、1つだけ有効かもしれない手立てを見つけ、早速取りかかった。
そして、その一仕事を終えると、バーの店内が静かになった。それによって、ある不審な音に森山が気付いた。
「ん?」
「どうした?」
「扉の方から音が……」
耳を澄ませると、ガチャガチャという音がする。開店前のため、扉は施錠済みだ。ノブを回している音というよりも、解錠しようと鍵穴を操作している音だろうか。
「……警察?」
「いや、警察がそんなことするか?」
「じゃあ、誰だよ?」
3人が扉の方を見ていると、ガチャッという解錠の音がした。
*
「これどう思う?」
「何がですか?」
中年男性、簑浦デスクのノートパソコンを覗くと、裁判の取材記録と青年の写真が表示されている。
「今ニュースになっている梶村に関する情報らしいが……、息子になにやら秘密があるらしいとさ」
「曖昧すぎません? リークにしては」
女性記者、小本は眼鏡のレンズを拭いて、再度画面を見る。前髪をヘアピンで留めて、集中モードへ切り替える。長髪を掻き分けると、シャンプーの良い香りがする。記者の生活リズムは不安定で、15時過ぎに起きてシャワーを浴びたばかりなのだ。
「学校に通っていないことや仕事をしていない……。なるほど。島で軟禁状態という言い方は気になりますね」
「興味湧いたなら、これをネット記事に出せるように調べられるか?」
「簑浦さんはどう思ってます? これ」
「俺は、このリークの書き方……。知ってるヤツが知らない振りして誤魔化そうとしてる気がするな。長年培った記者の勘だと、多分裁判で争っている相手だったりするかもな」
「簑浦さんが言うなら、そうなんでしょうね」
「随分、俺のことを買ってくれちゃって」
「簑浦さんいなかったら、私あのままホームレスでしたから」
To be continued…
組織犯罪対策第一課は2022年に組織改編を行っており、国際犯罪対策課になっているそうです。
思わぬ展開になりつつも、事件に関与した3名は何を考えてるのか分からぬ。この人達、あんまり考えて行動してないのでは? さて、扉を解錠する人物とは……
まだまだ続きそうです。




