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第208話 偽りの異世界

 倉敷瀬戸(くらしきせと)警察署では、梶村(かじむら) (りん)に対して取り調べを続けるが、日本語に混じる外国語や造語が障壁となり、こちらの言葉がたまに通じないこともある。このまま取り調べを続けても(らち)が明かないと思われ、鑑定留置を行うことを検討していた。鑑定留置とは、被疑者の精神状態や身体に関する鑑定を医師が行うために病院などに留置することであり、刑事責任能力の有無を判断するため、被疑者に精神障害などがあるかどうかを調べる。

 さらに鑑定留置には、簡易鑑定と起訴前の本鑑定の2種類あるそうだ。簡易鑑定は検察が行うことが多く、1日程度の期間で行われる。本鑑定は、2~3ヶ月かかり病院や拘置所内で行われ、簡易鑑定で不十分な場合や重大事件の場合に行われるそうだ。

 昼前には病院へ移送し、CTスキャンから始めた。その結果が悠夏たちに伝えられるのは夕方ごろだろうか。


     *


 洞窟の前には、ロボットと使い魔がいる。使い魔は女性のようだが。桝谷(ますだに)行久(ゆきひさ)から話を聞くと、大見(おおみ)

「外部の人間には踏み込んでほしくないテリトリーと言えば分かりますか?」

 大見は成人女性だ。鐃警(どらけい)は話が通じると考え

「ロボットですので、外部の人間ではないですよ」

「外部の人間が操作しているなら、メカだろうがなんだろうが同じこと」

「僕は僕ですけど」

 AIという概念が通じるか分からないが、対話は成立している。いっそのこと、ゴーレムとでも言えば伝わるかなと思ったが、相手が成人女性なので様子を見る。

「そもそもあなたたちは誰なんですか?」

「警察です」

 鐃警が告げると、大見は驚いた表情をしたがすぐに冷静を装う。警察であることを明かした以上、使い魔の演技は不要なので、悠夏(ゆうか)は立ち上がって警察手帳を見せて

「警視庁特課です。梶村 賀佐(かさ)さんと梶村 吝さんのことで話を伺いたく」

「知りません」

「この島の管理者を知らないはずがないですよね?」

 強気で行くと、大見は黙り込んだ。沈黙が流れると、洞窟の中から叫ぶような声がする。一切日本語が含まれていなかった。

 大見はすぐに洞窟の中に戻り、桝谷と行久も急ぐ。鐃警と悠夏もこの騒動に乗じて、洞窟の中へ。

「警部、少し良いですか」

 悠夏は鐃警に小声で話しかけ

「先程、倉敷瀬戸警察署からの情報でDNA鑑定結果の情報がありました。海で回収したブルーシートに付着した血痕と吝さんのDNAから鑑定した結果、不一致とのことです。付着していた血痕が賀佐さんではない可能性はありますが……」

 情報を聞いたのは、(ひざまず)いて使い魔の演技をしているときだ。片耳に付けていたBluetoothイヤホンのボタンを操作し、電話を受けて、粒江(つぶえ)巡査から報告を聞いたのだ。

 もしブルーシートに付着していた血痕が賀佐の血であれば、賀佐と吝は血縁関係のない他人ということになる。

「吝さん、もしかしたら日本人じゃないかもしれないですね」

 鐃警の言葉に悠夏は驚いて

「やっぱり異世界人ってことですか?」

「いや……そうじゃなくて」

 そう受けとられると思っていなかった鐃警は咳払いして

「洞窟内から聞こえた言葉。どこかの国の言葉かと。つまり、吝さんは日系の外国人では……? まぁまだ分からないですが。試しに吝さんに外国語で話しかけたら、普通に会話できるかもしれませんね」

「でも吝さんは外国語を話さないですよね?」

「推測ですけど、戸籍がない。そもそも日本で産まれていない可能性。つまり、不法入国者。ってことも考えられないですか? 自分が日本人であることを偽装するために、日本語で話そうとしているもしくはそうやって偽装しているかどうか」

 鐃警の推測が合っているかどうか、今すぐには分からない。ひとまず、この洞窟内にはどのくらいの人がいるのだろうか。

 洞窟は奥深く、螺旋(らせん)状のように下へ下へと進む。壁際にはケーブルが何本も敷設されており、洞窟内はLED電球と白熱電球の両方が混ざって使用されていた。おそらく、もともとは白熱電球を使用していたが、電球が切れた後にLED電球へと変えたのだろう。

「ランタンや蝋燭(ろうそく)じゃないんですね」

 悠夏がボソッと言うと、鐃警は「いかにも現実的」とだけ反応した。結局、地下20メートルくらいだろうか。広い空間が見えたため、手前で足を止めた。聞き慣れない言葉が飛び交っている。

 悠夏はスマホを取り出したが、圏外だ。スマホを使ったオンライン翻訳は難しそうだ。だが、録音や録画はできる。

 日本語が聞こえない故に、ここが異世界だと言われても分からなくもない。

 声からして10人、いやそれ以上いる。悠夏はスマホのカメラ部分だけを壁から中の様子を画面で見る。

(机? ベッド? 何かの周りを囲んでる。それよりも……想像を遥かに凌ぐくらい人が多い。何人? 30人くらいいる?)

 男性や女性、子どもの分からない言葉が飛び交うなか、唯一聞き取れた言葉があった。それは女性の声で

「目を覚まして」

(目を覚ます……誰かが危篤状態? 誰が? ……もしかして)

 ある可能性を考えて、悠夏は鐃警の方を向くと鐃警は頷いて応えた。悠夏は”突入しますか?”という意図を人差し指で示すと、鐃警は顔を左右に振って否定し、ジェスチャーで自分を示して先に突入するという。悠夏は頷いて待機する。

 鐃警は勢いよく広い空間に入ると「What(ワッツ) happened(ハプンドゥ)?」とわざと英語で何があったかと聞いた。しかし、その答えが返ってくることはおそらく無いだろう。言葉は分からないが「誰だ!?」と言っているように思える。鐃警はどんどんと進み、輪の中心が見えるところまで到達すると

「あ!?」

 思わず変な声が出た。そこに横たわっているのは、危篤状態の梶村 賀佐の姿である。服には海藻がついており、ここの人々が救ったのだろうか。

 鐃警は振り向いて

「佐倉巡査! ドクターヘリ要請! 急いで!」

 壁に隠れていた悠夏は「分かりました!」と、叫んで急いで電波の繋がる洞窟入口まで戻る。上り坂を駆け上がり、電波が入る途中で粒江巡査に連絡をとる。

「もしもし、佐倉です。洞窟内で梶村 賀佐を発見。至急、ドクターヘリを手配してください。一刻を争います」

 粒江巡査は驚き、

「大至急手配します」

「他にも伝えることがありますので、手配後にまた電話を」

「それなら、室木(むろき)さんに。近くにいるので」

「分かりました」

 電話を切って、室木巡査長に電話する。洞窟内の状況を話し、ついでに鐃警の推理だった言語の件も

「ですから、もしかすると吝さんは何かしらの外国語で会話できるかもしれません」

「なるほど。日本語っぽい喋り方をしていたが、母国語が別にあるかもしれないということか……。しかし、不法入国となると国際問題……、いやそれはまた別で……。そもそも30人以上となると……」

 室木巡査長は文字通り頭を抱え、落ち着くために深呼吸をする。

「佐倉巡査としては、ある程度このことは想定していたんですか?」

「いえ……、私は梶村さんの子どもが何人かいるのかなと思ってた程度で、大人や高齢者までいるとは全く」


To be continued…


8月最終日。今年はまだまだ暑さが続くそうですね。

さて、異世界転生の理由が垣間見えつつも、想定外のスケールになりそうな感じです。悠夏の発言で「梶村さんの子どもが何人かいるのかなと思ってた程度で」とありますが、作者も当初そのつもりでした。外国人となると、入国管理どうなってるんでしょうか。次回へ……


追記。今回色々誤字が多かったので修正。まさかの後書きまで誤字とは

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