第207話 島民との接触
瀬戸内海に報道のヘリコプターが飛ぶ。しかも1機ではない。テレビでは速報のニュースとして、”行方不明の男性の保険証が海上で見つかる”というタイトルで報道している。
「岡山県警によりますと、本日地元漁師から不審物が浮いていると海上警察に通報があり、行方不明の男性、梶村 賀佐さんの保険証がブルーシートとともに海に浮いているのを発見し、梶村さんの捜索活動を行っています。梶村さんは、自身が所有する島に無断で果樹園として土地を使用されていると訴訟を起こしており、第一審の最中です。詳細が分かり次第、速報でお伝えします」
瀬戸内海を上空のヘリコプターから中継しつつ、そこまで詳細は明らかになっていない。息子の吝についてニュースで触れられるのも時間の問題だろう。
リモコンでテレビの音量を下げて、営業前のバーカウンターでタバコを吸う男は
「なんで保険証が浮いてんだよ? 身包み全部剥いだんちゃうんか?」
「ズボンのポッケは調べたよ。そんなに信じられないんだったら、あんたがやればよかったんじゃないか?」
反発するのは、真っ昼間からアルコールを摂取する女性だ。
「軽トラのダッシュボードやサンバイザーの収納は全部チェックしたんか?」
「まだ疑うか?」
女性はアルコールの入ったジョッキを勢いよくカウンターテーブルに叩き、男の胸ぐらを掴む。バーテンダーの男が奥から現れると
「そんなんだと警察にバレるのも時間の問題。2人とも酔った勢いで口を滑らすんじゃねぇぞ?」
バーテンダーの男の名前は二川 英将。胸ぐらを掴まれている男性は片桐 才蔵。女性は森山 芹である。
「管理者がいなくなったからには、あの島は我々のものになる。最初っからこうしとけばよかったんだろ? オリーブ園なんて回りくどいことをしなくても」
「覚書だとやつの所有する島になっている。だけど、あのじいさんの遺産をアイツが独占していいわけがないだろ」
備讃島は20年前、梶村 賀佐が相続した。当時所有していた宇根元 秋高は独身で親戚も他界しており、遺産相続先として血縁関係のない人物を指定していた。
島には土地以外の価値あるモノがあるという情報がどこからか流れ、噂を耳にした3人が知り合いであると主張し、賀佐に詰め寄った。威圧的ではなく、友好的な素振りを見せていたため、失敗しても飲みの席で”果樹園を始めようとしているんだが、土地がなくて困っているんだ。果樹園は俺の夢なんだ”という真っ赤な嘘で、酔い潰れた賀佐に話をして、果樹園の土地利用を約束させた。その際、インキ浸透印で捺印させた誓約書を、今回の裁判の証拠として提出しているそうだ。そんな状況で押した誓約書が有効かどうかは、裁判所が判断する。
*
背丈を超える草が生い茂る。
「佐倉巡査はこういう草花ってアレルギーあるんですか?」
先陣を切る鐃警。悠夏は鐃警の後ろをついていく。
「夏はイネ科がダメですね。お薬を飲んでいるので基本は大丈夫かと……。どちらかというと、虫除けスプレーと日焼け止めをしているのがどのくらい効果があるか不安ですね。……この炎天下ですけど、警部は?」
「どうなんでしょうね。触れたら熱かったりします?」
鐃警に手を差し伸べられ、悠夏は恐る恐る触れると
「アチッ」
かなりの温度になっていた。
「あぁ……。みたいです」
鐃警は心配するような素振りはしていないが、この暑さによる熱暴走などで鐃警が壊れないか心配だ。悠夏の心配を余所に
「つまり、”俺に触れると火傷しちゃうぜ”とか言えるわけですね」
「冗談じゃ済まないですよ」
本当に火傷するから笑い話にならない。冗談はそれくらいにして、目的地はもうすぐだ。
「洞窟ですかね」
山の凹みに洞窟が見える。雨の少ない瀬戸内海とはいえ、雨風を凌ぐのに住まいが必要だろう。洞窟の入口には2人、少年が立っている。
「さっきの子達ですね。どうしますか? ここで正面から行くと……」
洞窟の中か島のどこかへ逃げられるかもしれないし、石を投げてきた仲間がいるはずだ。行動が読めない。再度、GPSで追うことは出来るが……。悠夏が考えていると、鐃警が草むらから出て
「誰だ!!」
桝谷と行久が木の棒を鐃警に向ける。
「梶村 賀佐と梶村 吝は?」
「なんで村長の名前を? それと吝も」
「おかしいなぁ……呼ばれて来たのに」
鐃警はなるべく簡単な言葉を選ぶ。短く喋って、今のところは言葉が通じている。
「嘘だ!」
行久は木の棒を鐃警に突きつける。
「どうせ魔王のエネミーだろ」
”enemy”は敵という意味の英語だ。RPGなどのゲームでもエネミーと表現されることがあるため、言いたいことは分かった。
「その魔王退治を依頼されて」
魔王が誰かは分からないが、嘘を言うと
「さっきまで、異界人たちといただろ!」
”異界人”とは? 鐃警は多分島の外の人のことでも言っているのだろうと決めつけて
「異界人……。あぁ、僕の使い魔のことですね」
「使い魔だって?」
(まさか通じるとは……)と思いつつ、
「使い魔です。こっち」
鐃警の使い魔として召喚された体で、悠夏は草むらか出て鐃警に跪き
「主よ、何なりとお申し付けください」
それなりにゲームをやってきたし、漫画やアニメも沢山とまでは言えないけれど見てきた。悠夏は、過去に見た作品から使い魔っぽい演技を即座にしつつ、鐃警の設定に乗っかる。
「これでも?」
鐃警を疑いつつも、桝谷と行久はどうしようか判断に困ったみたいで
「でも……余所者は近づけるなって」
「どうする?」
すると、洞窟の中から女性の声が聞こえ
「騒がしいけれど、なに……」
”なにかあったの”と言い切る前に、ロボットとそのロボットに対して跪く女性の姿を見て、思考が止まったようだった。
To be continued…
そんな方法で土地を奪えるのか? 疑問が残る3人の犯行計画……。
鐃警と悠夏は演技しながら島民に接触することに成功か? 8月も後半ですが、もうしばらく続きそうです。
そもそも転生者を名乗る意味がまだ明らかになっていないですよ。




