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第206話 悠夏の推理と刑事部の推理

「岡山県警と香川県警は、この一連の事件諸々をどう推理していますか?」

 悠夏(ゆうか)は自分の推理を話す前に、粒江(つぶえ)巡査と室木(むろき)巡査長に捜査本部の方針を聞いた。一連の事件諸々(もろもろ)とは”抗争中の土地の貸し出しに関する件”と、”フェンスに軽トラックが突っ込んだ事故の件”、”梶村(かじむら) 賀佐(かさ)の保険証が海上に浮いていた件”、”梶村 賀佐が行方不明の件”、”果樹園が荒らされた件”、”梶村 (りん)の戸籍がなく、転生者だと意味不明な証言している件”、”無人島と思われた島に少年2人以上がいた件”、これらについてである。

「抗争中の土地に関しては裁判所が裁くことであり、両者の言い分のどちらにも偏らない。事故については香川県警だが」

「交通課と情報を共有しているが、軽トラックを運転していたのは梶村 賀佐の可能性が高いと考えており、単独事故を起こした後に、島の外周の道路を走行して誤って海に落ちた可能性が、海に浮かんでいた保険証が物語っていると考えられるな」

「岡山県警としては果樹園の荒らし、不法侵入と器物破損、窃盗について、現場に駆けつけたところ梶村 吝がいたため、不法侵入の疑いで署に連行した。自分は異世界転生者だとかよく分からない証言ばかりで、自分の犯した罪を正当化するために妄言を繰り返していると考えている。戸籍がない件については、これからの捜査だからまだこれと言って捜査方針が決まっている訳ではないな。さっきの少年達についても同様だ」

 粒江巡査と室木巡査長からそれぞれの捜査方針を聞いたが、おかしなところはない。通常通り捜査を進めていれば出てくる考え方だ。悠夏は先に鐃警(どらけい)の方を向いて

「警部の考えは?」

「軽トラックで梶村 賀佐さんがフェンスに突撃するということが不思議かな、と。裁判で争っているなかで、しかもまだ一審で、別に賀佐さんの証言が劣勢というわけでもない。単独事故を起こす動機が見当たらないな、と。タイヤの跡が一直線ということは、飲酒運転の可能性も低いですよね。目撃証言もないため、運転手は賀佐さんではないことも考えられるかな、と」

「特課の警部さん、賀佐ではないとなると誰が?」

「有力候補は土地の所有者の誰かですね。自分で単独事故を起こして、賀佐さんの事故に見せかけることができれば、裁判で有利になると思って……、ですかね」

「つまり、警部さんは賀佐がもし転落したとなると、事故ではなく殺人だと?」

「そこまでは分からないですけど、有り得なくはないですよね?」

「そりゃ……」

「いずれにせよ僕の考えで、オリーブ園の管理者はもう少し調べた方がいいかもしれないですよ。手を組んでいるかもしれませんし」

 鐃警の推理と粒江巡査、室木巡査長の質問による会話を黙って聞いていた悠夏は

「私も警部の考えに近いです。なんなら、オリーブ園の管理者はこの島の少年たちに会ったことがある、という可能性も考えています」

「島の少年達というと、さっきの子達か。それがどう結びつくんだ?」

「私の推理といいますか、状況から考えただけで、確証が得られるものがまだ揃っていないんですが……」

「佐倉巡査。僕らは最後まで何も言わずに聞きますので、話してください」

 鐃警は粒江巡査と室木巡査長にも、一旦聞くだけにしてほしいとお願いして、悠夏の話に耳を傾ける。

「まずオリーブ園に関してですが、資料によると原告側の梶村 賀佐さんは”契約は口頭で行われており、契約書などの証拠がなく無効である”という主張をしており、被告側の管理者たちは約19年経過しており、書類がなくても有効だと主張しているそうです。ポイントは原告の賀佐さんがいつオリーブ園の土地利用を許可して、撤回したか。それは、19年前に飲みの席でオリーブ園を許可すると言ったことらしく、そこから半年後に果樹園の存在に気付いて、そんなことは言っていないと焦るように言っていたそうです。当時、梶村 賀佐さんは関西で働いており、所有する島にはあまり足を運んでいなかったそうです。梶村 吝くんは18歳で今年19歳になります。おそらく梶村 賀佐さんがオリーブ園に気付いたタイミングは、吝くんが生まれた前後かな、と。ここから次の推理までの間が、まだ分からないことだらけなんですが……。戸籍の件や学校に通わせなかった理由ですね。そのあたりについてです。この島は無人島ですがさっきの少年達と吝くんが住んでいる。名字を聞いたら、知らないって言われました。まさかなと思ったのは、彼らも学校には通っておらず、島独自の文化といいますか集落で生活しているのではないかな、と。私達の常識ではなく、ファンタジーの常識を教えられて。うどん屋の長命(ちょうめい)さんからの話だと、賀佐さんは”たまに頭のネジが1本外れたような考え方をする”そうですので、このタブレットに表示されているところに行ったら、芋づる式に想像を超えるようなことがありそうで……。すみません、上手く話せたかどうか分かりませんが……」

「諸々の可能性も含めて、彼らとの接触は慎重にしないといけないということなので、現地民との接触は僕ら特課(とっか)に任せていただけますか?」

 鐃警は悠夏の推理を諸々の可能性で包含し、反応に困っているであろう巡査と巡査長に聞いてみたが

「……任せます。想定してないことを言われたので……」

 やっぱり反応に困っている。

「吝くんに関して、母親についてと昔のことを憶えていないかということは聞きましたか?」

 悠夏の質問に粒江巡査は少し反応が遅れつつ

「あ……、あぁ。それについては”母親という言葉がそもそも分からない”と言われ、昔のことを聞くと”前の世界の話か?”と、話にならない」

「ちなみに”前の世界の話”とやらは聞きました?」

 質問したのは鐃警だ。粒江巡査は「えーっと」と言いつつ供述調書のコピーを鞄から取り出すと

「”自分の活躍がリコルドのヴィヴァリオに残っていて、仲間達もいましたよ”」

「りこるどのびばりお?」

 思わず悠夏と鐃警がハモる。ちんぷんかんぷんである。話が合わないと言っていた理由が分かった。喋り方は日本語だけど、造語があるのだ。

「一応、”記憶”という意味のイタリア語”ricordo(リコルド)”と”書物”という意味のギリシャ語”βιβλίο(ヴィヴァリオ)”ではないかと」

「……漫画か小説の本を見せられて、その主人公が自分だと思ってるってことですか?」

 悠夏はなんとなくそう感じて言うが、粒江巡査はお手上げのようで

「さっぱりわかりません。聞こうとしても日本語の単語の意味が分からないから、聞けないんですよ……。会話にならなくて……。ベースは日本語なのに、色んな言語が混ざってそうで……」

「でも、漫画を見せたのなら読めますよね?」

 鐃警に言われて、そう言えば吝は読み書きができないと言っていた。ならば、漫画や小説の本は読めないだろう。そうなると

「それならば、読み聞かせですか?」

 悠夏の言うように、小説の読み聞かせならあり得そうだが、漫画の読み聞かせってどうなんだろうか。擬音の類いも口に出して言うのか? ”しーん”や”どかーん”とか。あとは絵本だろうか。異世界物の絵本も探せばあるだろう。

「映像って方法もありますよね? ドラマやアニメ」

 室木巡査長の考えは鐃警がすぐに否定するように

「映像なら、日本語が通じそうですけどね。賀佐さんが自分の創作を話したってことも考えられますけど」

 粒江巡査は頭を掻いて

「やめだ、やめ。考えるだけ分からん」

「……なんで吝くんはそれを本当だと思い込むようになったんですかね」

 悠夏の疑問に粒江巡査は「マインドコントロールじゃないか」と一掃した。考えれば考えるほど、よく分からなくなりそうだ……。


To be continued…


悠夏の推理はどのくらい合っているのか。推理する上でもまだ足りないピースもあり、全部埋まってないです。

話が合わないと言っていた理由ですが、造語というか日本語だけど日本語以外の言葉が平然と混ざっているようで、ちゃんとした日本語を成しておらず、一部話が通じないという意味でした。確かに話すのが面倒だ。そんあ日本語もどきの独自言語を話す人たちが島に複数人いるのか? 次回、島民への接触です。

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