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第203話 被疑者は異世界転生者を称する

 香川県坂出市(さかいでし)瀬戸内海(せとないかい)を挟んで、向こうには岡山県倉敷市(くらしきし)が見える。2つの市を結ぶ高速道路兼鉄道及び新幹線の併用橋である瀬戸大橋(せとおおはし)。本州四国連絡橋の1つである瀬戸大橋は、塩飽諸島(しわくしょとう)の5つの島の間に架かる6つの橋梁(きょうりょう)と、その間の高架橋による計10の橋の総称である。香川県側から岡山県に向かって順番に、(ばん)()高架橋、南備讃(みなみびさん)瀬戸大橋、北備讃(きたびさん)瀬戸大橋、与島(よしま)高架橋、与島橋(よしまばし)岩黒島橋(いわくろじまばし)岩黒島(いわくろじま)高架橋、櫃石島橋(ひついじまばし)櫃石島(ひついじま)高架橋、下津井(しもつい)瀬戸大橋。なお、下津井瀬戸大橋を渡ると、鷲羽山(わしゅうざん)を貫く鷲羽山トンネルがある。

 鉄道高架橋としては世界一の長さ12.3kmであり、ギネス記録に認定されている。

 悠夏は西阿波市(にしあわし)駅から新坂出(しんさかいで)駅までの1駅だけ新幹線に乗って、集合予定の坂出駅前へ。

「オリーブと言えば小豆島(しょうどしま)のイメージが強いけど」

 と、目的の備讃島(びさんとう)を調べる。備讃島は、島の南部が香川県坂出市に属し、北部は岡山県倉敷市に属す。最寄りは櫃石島らしく、そこからは船で渡る。櫃石島に瀬戸中央自動車道のインターチェンジはあるが、一般車両は進入禁止である。利用できるのは島民や緊急車両、路線バスである。迎えに来る車は覆面パトカーなので、緊急車両に該当する。

 しばらくすると、坂出警察署所属の室木(むろき)巡査長が運転するシルバーのセダンが到着した。

「室木です。お待たせしました。どうぞ後部座席に」

「佐倉です。よろしくお願いします」

 後部座席に乗ると、すでに鐃警が乗車していた。

「警部、おはようございます」

「おはようございます。佐倉巡査はうどん食べますか?」

「讃岐うどんですか?」

「目撃者がうどん屋の店主で、事件詳細を聞きますよ」

 室木はカーナビに目的地を登録する。”讃岐うどんこんじき製麺所”という店らしい。ここから車で10分ほどの距離である。

「捜査資料はもう確認されました?」

「はい。オリーブの木を燃やされたと書かれてましたが、方法は不明ですか?」

 悠夏は捜査資料を読みながら、ここ最近火に関する出来事が多いと感じていたが、あくまでも個人的な話なので……。

「被疑者が発火性のあるものを所持していないものの、自分が燃やしたと証言しています。反省の色は見せてますが、如何せん、自分は異世界転生者であると証言しており、我々は虚言癖でもあるのかなと思っていましたが」

「”()()()()()”とは、どういうことですか?」

 鐃警は引っ掛かるような言い方をした室木巡査長に聞くと

「話が合わないんですよ……。言葉は通じても……」


 讃岐うどんこんじき製麺所。悠夏はメニューをみて驚いた。

「かけが100円。中盛り150円。大盛りでも200円……。釜玉だと150円……?」

 安さに驚いたし、営業時間も昼間の1時間半しかやっていない。事件詳細を聞くため、お客のいない営業時間前にお邪魔している。店の前にはすでに10人以上並んでおり、お店に入るときは睨まれていたような気がした。注文したうどんが届くと

「お待たせしました。私が長命(ちょうめい)です」

「さっそくですが、梶村(かじむら) (りん)さんとはお知り合いですか?」

 室木巡査長は箸をおいて

「多分、梶村 賀佐(かさ)の子どもですよね? 賀佐のことは分かります。息子のことは実はあまり知らなくて……。いつの間に結婚してたんだか」

「賀佐さんとは、同級生でしょうか?」

 悠夏もかけうどんに手をつけず、質問しながらメモを取っていると

「あの……さきに食べてください。麺が伸びてしまいます」

「すみません、いただきます」

 かけうどんをいただく。その間、長命は賀佐について話してくれた。中学生のときに同級生で、最後に会ったのは成人式。真面目な性格だが、たまに頭のネジが1本外れたような考え方をすることがあるそうだ。

「彼女がいるいないの話は聞いたことない。ちなみに私のことは誰から?」

「長命さんのことは六口(むぐち)さんから伺いました」

「あぁ、無口の六口ね。あの人、ホント喋らないでしょ?」

 長命によると、六口も中学の同級生で、同じバドミントン部に所属していたそうだ。

 その後も、営業時間前まで長命から梶村について色々と話は伺ったけれども、あまり有益な情報は得られなかった。

 会計を済ませて、車に戻ると

「とりあえず、現場に向かいますね。被疑者は倉敷瀬戸警察署で事情聴取中ですので、いずれにせよ瀬戸大橋を渡らねばならないですし」


     *


 日影のない直射日光。日中の最高気温は36度。被害に遭った現場に着いた。備讃島の県境に跨がるオリーブ園。管理者は同じだが、周囲と県境にフェンスがあり管理は大変そうだ。

 県警の規制線が張られた場所は、フェンスが倒れている。倉敷瀬戸警察署の粒江(つぶえ)巡査や鑑識が現場検証を行っていた。

 鐃警は倒れたフェンスに近づくと、地面に(わだち)が残っており

「これはまた派手に……。ここに軽トラが突っ込んで……」

 すれ違いが軽でも難しそうな狭い山道から、被疑者は迷う様子もなく突撃したと想像する。粒江巡査が鐃警に気づき

「時速40から50キロは出ていたと思われます。しかし、ここは本事件の被疑者とは別の人物で、3日前ほどに捜査を開始した別件の単独事故です」

「そうなんですか? 別件?」

 室木巡査長にも念のため確認すると、頷いて答え

「とはいえ、今回の被疑者が侵入したのはここからと考えています」

「事故の捜査状況は分かりますか? こっちの管轄は……」

 県境のフェンスが交差する場所であり、どちらの交通課が担当しているのだろうか。悠夏の予想では、先に通報を受けた警察署だと思うが

「こっちですね」

 答えたのが室木巡査長ということは、香川県警の交通課が担当しているようだ。室木巡査長はクリアファイルに挟まれたA4の紙を取り出し

「今日時点でも、事故車両及び犯人はまだ特定に至っていません。島内を捜索するも、車が発見できず目撃者もおらず。タイヤ(こん)の幅から軽自動車と考えられ、フェンスの接触痕とガラス片から軽トラックだろうということまでは分かっています」

「ちなみにこの島に住む住民ってどのくらいですか?」

 悠夏が事前にネットで調べても出てこなかったので聞いてみると

「住民はいません。無人島です。島の管理者が一部の土地を貸し出しており、この果樹園はそのひとつ」

 室木巡査長によると、備讃島の管理者が梶村 賀佐であり、被疑者の父親だ。先程うどん屋で聞いた名前だから知っている。粒江巡査がさらに付け加えるように

「ただ……梶村さんは土地は貸し出してないと、そこはそこで揉めてるみたいですよ。不法占拠だと裁判所に訴えて、抗争中らしく。そんな最中(さなか)に、今回の事件。息子がオリーブ園を荒らしたとなると、言わずもがな……」


To be continued…


2019年時点で瀬戸大橋に新幹線は開通していませんが、作品中では開通済みとなっています。備讃島も架空の島ですが、瀬戸大橋の10の橋と島々は実在です。調べたら2023年7月時点で、讃岐うどんは物価高等で少し金額が上がっているようですね。それでも安いところは安いな。

投稿前に一部名前がIVS文字コードで使えなかったので変えました。

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