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第202話 火の用心

 夕方。帰宅すると、リビングのテレビから自分の声が聞こえてくる。ノブに手をかざしたが、今リビングの扉を開けるか悩む。そのまま1分経過すると、テレビからは過去の震災の話がナレーションとともに流れてくる。

悠夏(ゆうか)、帰ったのならご飯できてるよ」

 佳澄(かすみ)に呼ばれ、悠夏は扉を開けた。テレビの画面は、天気予報に変わっていた。

「明日も猛暑日の予報です。続いて、早明浦ダムの貯水率は61%です。冒頭でもお伝えしました通り、今後第一次取水制限の50%を下回る可能性があります。それでは、週間予報です」

 阿波徳島放送局では、天気予報でダムの貯水率も伝えている。吉野川水系水利用連絡協議会による決定次第では、香川県と徳島県において農業用水や工業用水利用などの取水を制限するそうだ。水不足への対策である。

 リビングを見渡すと遙真(はるま)はテレビに近いところで、人をダメにするソファーに座り込んでおり、埋もれている。もともとリビングには無いので、遙真は部屋から持ってきているのだろう。遙真は頭だけ悠夏の方を向いて、

「悠夏(ねぇ)、さっきテレビに映ってたよ」

「廊下で聞こえたから知ってる」

 そう言って、遙真に近づくと

「なんで水着なの?」

 遙真が水着で座っていた。答えは佳澄が台所で料理をしながら

「遙真の部屋のクーラーが壊れたみたいで」

「あの部屋、暑いから」

 それでも、水着になる理由になっていそうでなっていなさそうな。

「それと、ちょっと事故があって」

「事故?」

 佳澄の言う事故とは何だろうか。

「俺の服、大方洗濯とゴミ行きになったから、服がマジでない。危うく、遙華の服着せられそうになったし」

「何があったの……?」

小火(ぼや)騒ぎ?」

「やめてよねっ! 避難訓練に参加した日に、お家が燃えるとか笑えないからね!」

 悠夏が声を荒らげるのも頷ける。避難訓練で「火の元には気をつけましょう」と言った人の家がその日に燃えるなど、大失態だ。

「で何があったの、本当に?」

「クーラーが壊れて、ボン」

 説明が雑なため、悠夏は無表情で遙真の脇腹を右手で突く。遙真は「ちょっ、話すから」とクッションから起き上がる。クッションはリビングの端っこへ移動させて、「部屋を見てもらった方が早いから」と、悠夏を連れて二階の部屋へ。

 日没の時間で部屋は暗い。

「ブレーカー落としてるから電気点かないけど」

「えぇ?」

 思った以上に、事態は深刻のようだ。遙真はスマホのライトでクーラーを照らすと、

「クーラーから発火して、この通り」

 クーラーの右側、運転やタイマーなどのランプが光る周辺が焦げている。

「なんで?」

 とかしか言えない。遙真は

「分かんない。勝手に燃えた。てか、調べたらこれリコール対象らしくて、知らずに使ってた」

「えぇ……」

 もう言葉が出てこない。目の前のことが現実だとは思えない。

「んで、最初に気付いたのは、焦げ臭い臭いがしたから。クーラーから煙が見えたから、急いで停止させたけど、なんかがボンで破裂するような音がすると思ったら、火が見えて急いでブレーカー落とし、消火器で。結果、真下にあった衣装ケースの中の服が消火剤まみれになって」

「消防には連絡したの?」

「した。到着したときには消えてたから、鎮火の確認だけど。明日、電気屋がくるから、それまでここのブレーカーは入れられない」

「怖いなぁ……。で、服はどうすんの?」

「クリーニングに出したらしいけど、あの粉末って落ちないんじゃないかなぁ……。新品は、遙華(はるか)が買いに行ってくれたし」

 すると、「ただいまー」と1階から遙華の声が。買い物から帰ってきた。悠夏と遙真はリビングに戻ると、佳澄が

「クリーニングどうだった?」

「消化剤のついた服も対応はできるけど時間かかるって。はい、これ」

 遙華から紙袋を受けとると、無地の半袖短パン、下着、靴下などが入っている。

「サンキュー」

 遙真は棚からハサミを取り出して、タグを取り除く。今晩と明日は困らないだろう。

「こういうの週刊誌で恰好のネタにされそうだから、あんまり周りに言わないでね」

「消防車が来てるから、ワンチャンあるけど……。大丈夫かな」

 着替えた遙真は、スマホで検索するがまだ記事にはなっていない。さすがに。


 翌日、メーカーの担当者と工事業者の計3名が到着してクーラー本体と室外機を取り外し、新しい製品へと交換した。ブレーカーについては、調査の結果電気系統に問題が無いことが分かり、無事が確認された。

 悠夏はたまに作業状況を見ながら、捜査報告書を作成していた。小火騒ぎについては、一応倉知(くらち)副総監に報告した。

「悠夏、東京にはいつ帰るの?」

 佳澄はご飯を運ぶついでに、いつまでいられるのか気になったので聞いた。

「しばらくはこっちかも」

 鐃警に東京に戻るか確認したところ、しばらくは徳島を拠点にするそうだ。悠夏としては、寧ろ家族と一緒にいられるので「いいんですか?」と逆に質問した。ただ、拠点にするということは、何か良からぬ事が起きるのではないだろうか。

 報告書を作成していると、猫のマシュがゆっくりとこちらに歩いてくる。床からジャンプして、悠夏の膝の上に乗って座り込む。

 パソコンの邪魔はしていないので、悠夏はそのまま作業を続けると、マシュは欠伸をして寝るようだ。けれども電話が鳴って、マシュが悠夏の顔を見る。寝かせろと訴えているようだ。悠夏は電話に出て

「もしもし」

「こちら鐃警(どらけい)です。明日、坂出(さかいで)です」

「坂出ですか? 香川の?」

「瀬戸内海の島で事件とのことです。詳細はメールしますので、現地までに確認しておいてください」

「島? どんな事件ですか?」

「新種のオリーブが盗難にあったそうで、その犯人が……異世界転生者らしく」

「……はい?」

 前半は分かったが、後半は何を言っているのか。異世界転生者? フィクションではなく?

「転生なので、その人としては戸籍などはありますが、その人の記憶や意識はなく、別世界の人の意識が」

「警部、すみません……。やっぱり明日聞きます」

 これまたよく分からない事件の捜査になりそうだ……


To be continued…


いずれにせよ、火の元には気をつけましょう。消火器は常備していたため、初期消火が行えたようです。一般家庭では消火器の設置義務はありませんが、推奨はされているそうです。ちなみに消火器の交換目安は5年らしいです。

消火剤はかなりきめが細かいそうで、掃除機や洗濯機などを使用すると故障する可能性があるそうです。

リコール対象になった製品は消費者庁が公開しています。返金や回収、交換など対応は様々。この後書きを書くついでに、消費者庁のリコール対象製品を見たのですが、型番違いとかでワンチャン対象になったかもしれない製品がありました。普段見ないよな……

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