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第194話 友鏡

 遊園地の催し物は、鏡を使った迷路である。全ての壁や天井が鏡になっており、角度は様々。彎曲(わんきょく)している鏡もあれば、色の付いた鏡もある。鏡の世界に迷い込んだような不思議な空間である。遊園地の入園料は必要だが、催し物の入館料はかからない。

 8月5日。ジェットコースターや観覧車は、朝早くから開園前のメンテナンスを行っていた。徳島県警刑事課所属の鯖瀬(さばせ)巡査、(つくだ)巡査、鑑識課所属の坪尻(つぼじり)鑑識のほか、鑑識の人たちが同行している。

 警視庁特課の悠夏は、催し物のパンフレットを見ていた。鏡の迷路は過去にも開催していたイベントらしく、今回で2年ぶりの6回目らしい。

 バックヤードから若い女性のスタッフと思われる人物と、スーツ姿の男性が現れた。スーツ姿の男性は

「すみません、御足労頂き。安全管理課の川田(かわた)です」

「イベント企画課の板東(ばんどう)です」

「徳島県警の鯖瀬です。鑑識と警視庁特課より佐倉(さくら)巡査が臨場しています。早速ですが、詳細を伺ってもよろしいですか?」

 説明は女性スタッフの板東から行う。

「はお。こちらのイベント開催は7月25日から2週間。8月7日までで、穴埋めでした」

「穴埋めですか?」

 受け答えは基本的に鯖瀬巡査が行う。

「はい。水を使ったイベントを夏休み中に行う予定でしたが、納期の関係で2週間後ろにずれ込むことになり、前のイベントは版権元の契約期間の関係で延長ができず、2週間限定でこのイベントを開催しました」

「それで、今回の内容ですが、度々行方不明が出るという話ですが」

「その件ですが、若干私の取り違いがあり、改めて板東から説明します」

 川田が訂正しつつ、本題の説明は板東から

「イベント開催中、お客様から何度もスタッフに報告がありました。その報告内容が、少女が忽然(こつぜん)と消えた、と」

「”何度も”ということは、何人もですか?」

「それが不思議なことに、いずれの日も入園者数と退園者数は同じなんですよ」

 割り込むように川田が口を挟む。説明は板東に任せたのじゃ無いのかと思いつつも、内容を聞くと不思議な話だと感じた。入園はチケットの半券によって管理しており、退園は回転式バーの改札ゲートを採用しており、共連れ防止で退園者数をカウントしている。入園時に回収したチケット数と改札ゲートのカウント数を比較すると、数は同じとのことだ。そうなると、行方不明にはなっていないということだろうか。

「催し物の建物内外で、お客様が少女の姿を確認して、その数秒後に姿が消えたそうです。ですが、迷子の話はなく……。見間違えにしては、複数のお客様からご報告を受けまして……」

「まだこの話はそこまで大事にはなっていませんが、遊園地の昼間に幽霊が出るなんて噂になったりしたら……」

 川田が危惧する事態にはまだなっていないが、誰かがSNSなどに投稿して、それが拡散されれば、影響は少なからずあるだろう。

「つまり、その少女の謎を解明してほしいと?」

 警察への依頼内容としてはざっくりとそういうことなのだろうか。しかし、また幽霊騒動とは。夏だからなのか?

「もうひとつあるんです」

 と、板東は少女以外の別件と言うべきだろうか、関連するかどうかは分からないが

「催し物の物品を誰かが壊したみたいで……」

「器物損壊ですか。発見はいつ頃で、傷や全壊などの状況はいかがでしょうか?」

「発見したのは昨日ですが、お客様には見えないところで……」

「板東、見ていただいた方が早いだろう。警察の方に案内を」

 川田がまた話を区切って、板東は「こちらです」と鏡の世界へと案内する。

「開園中は、もう少し照明を暗くしますが、今は明るくしています。それで」

 と、入口から少し入った先にある鏡を持つと、簡単に外れた。

「この奥のスペースにある鏡ですが」

 そう言われて最初に見た鯖瀬巡査は「ん?」と驚きつつも不思議そうなリアクションだった。

 悠夏も続けて覗いてみると、そこには横1メートル縦2メートルの鏡が2枚重ねて、建物の壁に立てかけられていた。

「人?」

 まるで鏡から少女が出てきたかのような割れ方をしていた。

「こちら、鑑識で調べてもいいですか?」

「お願いします」

「では、失礼して」

 坪尻鑑識の他、鑑識課のメンバーが作業に入る。鏡とその周辺から何か分かるだろうか。

「まるで、鏡の中から現れた少女が度々姿をお客様に見せているような……そんなありえない、ファンタジーみたいな話ですが……」

 板東はこんな話、警察の人に話しても仕方ないと思いつつも、悠夏たちは昨今の事情から、ファンタジーだと決めつけられず、一先ず調べてみないことには分からないので、否定も肯定もしなかった。坪尻鑑識は鏡を間近で見て

「ガラスカッターを使えば、切れないこともないが……、6歳くらいの女の子と同じ大きさを、営業時間内に誰にも気付かれずに作業することも、そもそも技術的にも現実的では無いな」

 まるで鏡の世界から現実世界へと現れた少女。幽霊という表現は少し違う。

「鏡の中から現れた少女。まるで児童小説や映画みたいな話ですね……」

 悠夏は具体的な作品名は言わなかったが、その場にいた人たちはそれぞれなんとなく鏡が関係する作品を思い浮かべただろう。

「実際に目撃した人から話を聞くことはできますか?」

「連絡先を聞いている人であれば」

 鯖瀬巡査は佃巡査に指示して、目撃者に証言の確認を行う。おそらく結果は、昼頃になるだろうが。

「それでは、我々は器物損壊の件で捜査を行います。少女の件は、今の時点では情報が少なく、なんとも言えないですが……」


     *


 警視庁のとある会議室。捜査一課のメンバーが数名集められ

「それで?」

 藍川巡査は榊原警部に何かを問いただしていたようだ。

「相手からのコンタクトはないんですよね? 臆測で動くということですか?」

「事が事だけに秘密裡に動くしかない」

「一応伝えておくと、蓼聱牙(たでごうが)警視総監からの指示だ」

 長谷警部補が伝えると、藍川巡査は目をパチパチさせて

「警視総監!?」

「そうだ。もう一度言うと、内容は倉知副総監の護衛。そうしたら、詳細を話すと……。警視総監からの話だと、倉知副総監の周りであまり良くない噂がある。5年前の事件に関係する話だが……」

「5年前?」

「そうか、2人とも知らないか。5年前、倉知副総監の妻子が巻き込まれた事件があった。犯人は逮捕されたが……、ここにきて共犯がいたのではないかという話があり、その共犯者が倉知副総監の命を狙っているという」

「信憑性のある話なんですか?」

「情報元は紅警視長だ。紅警視長がどこから情報を得たかまでは聞いていないが、杞憂ならば良いがと言っていた。それと、倉知副総監にはこのことは伝えない方針だ。紅警視長は、倉知副総監にとっては、自分自身にすでに終わった事件だと言い聞かせている。だからこそ、中途半端な情報は言いたくない、と」


To be continued…


8月。いろんなところで不穏な動きがありそうです。

捜査一課側は倉知副総監の件で独自に動き、悠夏が臨場した遊園地では鏡の世界からやってきた少女に纏わる話です。ところで鐃警はどうなんでしょうか。

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